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「キモイ」「男のくせにナヨナヨしやがって」少年時代に浴びせられた言葉の暴力…自信を失った男を救った言葉とは【作者に聞く】

  • 2026.4.9
小学生の時に同級生から浴びせられた心無い言葉が、大人になった今もユキオの心を締め付ける…。
小学生の時に同級生から浴びせられた心無い言葉が、大人になった今もユキオの心を締め付ける…。

メンズエステを舞台に、“訳アリ”な客たちの心の奥に触れていく創作漫画「メンエス嬢加恋・職業は恋愛です」。蒼乃シュウさん(@pinokodoaonoshu)が描く本作は、マッサージによる癒やしだけではなく、言葉にできなかった傷や孤独を静かにすくい上げていく物語でもある。今回は、「自信がない男」後編。恋愛したくても自分に自信が持てない日影ユキオが、小学校時代に受けた言葉の傷と向き合っていく。

「子どもだから仕方ない」で済ませてはいけない傷がある

ユキオが自信を失ったきっかけは、小学生のころに浴びせられた心ない言葉だった。「キモイんだよ男のくせにナヨナヨしやがって」「なんで男子のくせにピンクの筆箱なんて持っているんだよ」。

さらに、体育の授業でペアを組むことになった女子から「えーやだぁオカマじゃんキモっ」と拒絶される。たった数秒の言葉でも、それがまだ幼い心に刺さったまま、大人になっても抜けないことはある。

このエピソードについて蒼乃さんは、「小学生時代に異性から言われた心ない言葉に傷つき、いまだに引きずっている人は結構多いように感じます」と語る。今回の物語では女子からユキオへ向けられた暴言が描かれているが、現実には男子から女子へ「ブス」といった言葉が投げられることも珍しくないという。

「子どもは残酷なのでそういうことを気軽に言いがちだけど、『子どもだから仕方ない』で片づけられる問題ではないと思っています」と話しており、作品の根底には、子どもの何気ない一言が人生を長く縛ることへの強い問題意識がある。

「好きだからいじる」は、傷つけた側の言い訳にすぎない

蒼乃さんはさらに、「『いじめるのは好きだからだ』とか『好きな子の気を引くためにちょっかいを出す』といった、昔からよくある考えにも納得できません」とも語っている。

誰かを傷つけた事実があるのに、それを“好意”という言葉で薄めてしまう。そんな雑な理屈に救われるのは、傷つけた側だけだろう。だからこそ今回の話では、ユキオが抱えてきた痛みを「気にしすぎ」や「昔のこと」で終わらせず、ちゃんと傷として描いている。

そして蒼乃さんは、この物語に込めた思いをこう明かす。「そういう子どものころに受けたからかいをいつまでも気にして自信がもてないままだと、これからの人生があまりにももったいない!だからせめて漫画の中で、『あなたは悪くない』と言ってあげて、自信を取り戻してほしかったんです」。その言葉は、ユキオだけでなく、過去の何気ない一言に今も縛られている読者にもまっすぐ届く。

「あなたの好きなものを選んでいい」その一言が呪いをほどいていく

後編で特に印象的なのは、自分の好きな色や「かわいい」と思うものに触れることすらできなくなっていたユキオに、加恋が優しく語りかける場面だ。「あなたの好きなものを選んでいいのよ」。その言葉とともに手渡されるのが、ピンク色のストールだった。

“男らしくない”と笑われた記憶によって封じ込められていた好きを、誰かが初めて肯定してくれる。その瞬間、ユキオの表情がふっとほどけていく。

この場面は派手ではない。それでも、自分の好きなものを否定されてきた人にとっては、とても大きな救いだ。誰かの価値観に合わせて自分を削るのではなく、「それが好きでいい」と言われること。その一言が、人を少しずつ元の自分に戻していく。加恋がしているのは、ただ慰めることではない。ユキオの中で長く凍りついていた自己肯定感を、静かに解かしていくことなのだ。

“好き”は、自分を立て直すための小さな武器だ

ユキオは物語のなかで、「好きな色を身に着けていると勇気がわいてくる」と語る。蒼乃さん自身もまた、好きなものから力をもらっているという。

「小さいころからかわいいものが好きで、近所のファンシーショップに入り浸っていました。今でも雑貨屋さんを見かけると、必ず入ってしまいます」と振り返りつつ、「食器や家具など部屋に置いてある身の回りのものは、すべて私が『好き』だとときめいて選んだものばかり。だから自分の部屋にいると、すごく幸せです」と話している。

“好き”は、ときに人から見れば些細なものかもしれない。けれど、自分を否定されてきた人にとっては、それを選び直すこと自体が再出発になる。ピンク色のシャツを着て、少しだけ背筋を伸ばせるようになったユキオの姿は、そのことを静かに物語っている。

傷は消えなくても、その先の人生は変えられる

子どものころに言われた一言は、簡単には消えない。思い出したくもないのに、ふとした瞬間によみがえって、自分を小さくさせることもある。それでも、その傷を抱えたままでも、人は少しずつ自分を取り戻していけるのかもしれない。本作は、そんな希望を押しつけがましくなく差し出してくれる物語だ。

ピンク色のシャツを着て、自分らしさを肯定する一歩を踏み出したユキオ。恋愛に向かうまでにはまだ時間がかかるかもしれないが、それでも“自分を嫌わない”ところまで戻ってこられたことは大きい。誰かに救われたというより、ようやく自分の気持ちを否定しなくてよくなった。その変化こそが、この物語のいちばん静かで、いちばん強い救いなのだろう。

取材協力:蒼乃シュウ(@pinokodoaonoshu)

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