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潰されるアルミ缶は破裂直前に「不思議なシマシマ」が現れると判明

  • 2026.4.1
潰されるアルミ缶は破裂直前に「不思議なシマシマ」が現れると判明
潰されるアルミ缶は破裂直前に「不思議なシマシマ」が現れると判明 / Credit: Jain et al., Communications Physics (2026)

油圧プレス動画などで、金属がぐしゃっと潰れる様子を見たことがある人は多いでしょう。

強い力をかければ、薄い金属はどこかで耐えきれなくなって一気に崩れる。

ふつうはそんなイメージを持ちます。

ですが、ソーダ缶のように中身の入った缶では、少し違うことが起きます。

イギリスのマンチェスター大学(The University of Manchester)の研究チームが調べたところ、液体の入った飲料缶は、空き缶のように一気にぐしゃっと潰れるのではなく、破裂する前に「輪っか状のへこみ」を1本ずつ増やしながら変形していくことがわかりました。

缶の表面に、洗濯板のようなシマシマが順番に現れていくのです。

なぜこんなことが起きるのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年3月31日に『Communications Physics』にて発表されました。

目次

  • なぜへこみは「1本ずつ増える」のか?
  • これは缶の雑学ではなく、壊れ方の科学でもある
  • 【専門家向け】この現象は「高圧缶の変形」ではなく、「近似的に体積を保つ薄肉円筒の局在・順次座屈」である

なぜへこみは「1本ずつ増える」のか?

なぜへこみは「1本ずつ増える」のか?
なぜへこみは「1本ずつ増える」のか? / Credit: Jain et al., Communications Physics (2026)

まず大事なのは、中に何が入っているかで缶の潰れ方は大きく変わるという点です。

空き缶の中身はほぼ空気です。

空気は押されると体積をかなり減らせるため、缶全体が押し込まれたときも、中身は比較的“逃げる”ことができます。

そのため、薄い缶の壁のどこか弱い部分が一気に崩れ、局所的で急な座屈が起きやすくなると考えられます。

いわば、我慢が限界を超えた瞬間に急崩壊するイメージです。

ところが液体入りの缶では事情が違います。

液体は空気と比べてずっと圧縮しにくいため、缶を縦に押しても中身はあまり縮んでくれません。

すると缶の薄いアルミの壁は、ただ短くなることができず、代わりに、薄いアルミの壁の一部が折れ曲がることで、変形を受け止めようとします。

こうしてまず、缶のどこかに最初の輪っか(へこみ)が現れます。

(※多くの場合、それは缶の中央付近から始まります。)

ところが、変形がある程度進むと、今度は逆に“また持ちこたえる感じ”が出てきます。

缶の材料は、単純にずっとやわらかくなるわけではなく、いったん変形しやすくなったあと、また硬さを取り戻すような振る舞いを示すと考えられています。

この性質があると、すでにある1本のへこみを際限なく深くするより、あるところで新しいへこみを隣に作ったほうが変形を受け流すうえで有利になります。

たとえるなら、やわらかい紙筒を指で押したとき、1か所だけをどこまでも潰すより、少し離れた場所に次の折れ目が入ったほうが全体として無理が少ない、という感じです。

こうして缶は、1本の大きな崩れに向かうのではなく、へこみを1本ずつ増やしながら変形を分配するようになります。

すると、すでにある輪っかをさらに深く育てるより、新しい輪っかを隣にもう1本つくるほうが都合のいい局面がやってきます。

これが繰り返されることで、輪っかが1本ずつ増えていきます。

実験では、この「1本増えるたびに変形の段階が切り替わる」ことが、押しつぶすときの荷重の変化にはっきり表れました。

缶を押していくと、最初のへこみが生まれた瞬間、それまで必要だった押す力が急に小さくなります。

これは、缶がまっすぐな筒のまま踏ん張る状態から、へこみを作ることで変形を受け流せる状態へ移るためだと考えられます。

そのあと、そのへこみが深くなっていくあいだは、今ある輪っかをさらに育てるために、また少しずつ大きな力が必要になります。

しかし、そのへこみがある程度まで育つと、同じ場所をさらに深く押し込むより、隣に新しいへこみを作るほうが楽になります。

すると次の輪っかが現れ、その瞬間に必要な力がまた急に小さくなります。

つまり缶は、ずっと同じ調子で潰れていたのではなく、「1本のへこみを作ると少し楽になる」→「そのへこみをさらに育てるにはまた力が要る」→「次のへこみができるとまた楽になる」という切り替わりを繰り返していたのです。

実際、論文の力‐ひずみ曲線でも、輪っかが現れるたびに荷重が落ち、その後また持ち直すギザギザした変化が見られます。

またこれは、缶を押す速さを変えても結果はほとんど変わりませんでした。

しかも、このシマシマには気分や偶然ではなく、ちゃんとした法則のようなものがありました。

輪と輪の間隔は、缶の半径と厚みから決まる代表的な長さにほぼ比例していました。

要するに、太さと薄さが変わればシマの細かさも変わるのです。

ではここにはどんな法則が動いていたのでしょうか?

これは缶の雑学ではなく、壊れ方の科学でもある

これは缶の雑学ではなく、壊れ方の科学でもある
これは缶の雑学ではなく、壊れ方の科学でもある / Credit: Jain et al., Communications Physics (2026)

研究チームは、この現象を数式で説明しています。

そこで重要だったのが、ホモクリニック・スネーキングと呼ばれるパターン形成の考え方です。

名前は少し難しそうですが、要するに、波や模様がいきなり全体に広がるのではなく、ひとつ現れ、そこへもうひとつ、さらにもうひとつと追加されていくタイプの現象を表す数学です。

今回の缶では、その「模様」がそのままリング状のへこみになっていました。

つまりソーダ缶のシマシマは、偶然できたものではなく、自然界のパターン形成と同じようなルールに従っていたのです。

この発見は、もちろん缶つぶし動画だけの話では終わりません。

液体を入れた金属の円筒は、タンクや輸送容器、建設材料、エネルギー設備、さらにはロケット関連の構造にも広く使われています。

もし今回のような「一本ずつ増える座屈」が壊れる前のサインになるなら、危険をもっと早く察知できるかもしれません。

逆に、この現象をうまく利用すれば、金型を使わずに、充填後の缶や容器に規則正しい凹凸をつける新しい加工法につながる可能性もあります。

論文でも、こうした“型なし成形”の可能性に触れています。

私たちは缶のシマシマを見ると、つい「潰れてしわになっただけ」と思ってしまいます。

ですが実際には、その背後で液体の縮みにくさと金属の非線形な変形応答がせめぎ合い、結果として輪が一本ずつ整然と生まれていたのです。

ぐしゃっと壊れているように見える缶ですら、じつはかなり律儀に、かなり数学的に潰れていました。

何気ないソーダ缶の表面に、こんなに行儀のいい“壊れ方の法則”が隠れていたとは、少し驚かされます。

(※本記事のメインはここまでですが、次ページではこの研究を少し専門家向けに解説したものを掲載します)

【専門家向け】この現象は「高圧缶の変形」ではなく、「近似的に体積を保つ薄肉円筒の局在・順次座屈」である

【専門家向け】この現象は「高圧缶の変形」ではなく、「近似的に体積を保つ薄肉円筒の局在・順次座屈」である
【専門家向け】この現象は「高圧缶の変形」ではなく、「近似的に体積を保つ薄肉円筒の局在・順次座屈」である / Credit: Jain et al., Communications Physics (2026)

液体入り飲料缶に見られた現象は、単なる圧壊でも、最初から全体に等間隔のしわが立つ古典的な周期座屈でもありません。

むしろ本質は、中身がほぼ縮まらない薄肉円筒シェルが、軸方向の圧縮を受けたときに、軸対称のリング状座屈を「局在した形」でまず一つ生み、その後それを隣接位置へ順次増殖させていく、という点にあります。

論文でも、これは空き缶のような急激な崩壊とは異なり、また、境界付近から折れが進んで自己接触しながら潰れていく通常の軸圧壊とも別の機構だと位置づけられています。

実際、今回の座屈は比較的小さなひずみで始まり、しかも自己接触なしに進行していました。

この「別物らしさ」は、実験の力学応答にはっきり出ています。

最初のリングが現れる瞬間に荷重が急に下がり、その後、そのリングが深く育つあいだは再び荷重が上がる。

そして次のリングが生まれるとまた荷重が落ちる、という鋸歯状の履歴が繰り返されます。

つまり、変形は連続的に平均化されて進むのではなく、座屈の核生成、成長、飽和、次の核生成という段階的なサイクルで進んでいるのです。

さらに重要なのは、この現象が未開封の加圧缶だけでなく、水を入れ直して常圧で再封した缶でも同様に起きたことです。

したがって、少なくとも現象の質を左右する点では、初期内圧の高さそのものより、缶内容物の近似的な非圧縮性が重要だとみるのが妥当です。

では、なぜ一つの座屈がただ深くなるのではなく、あるところで「次のリングを作る方が有利」になるのでしょうか。

研究チームは缶壁を切り出して引張試験と曲げ試験を行い、缶材料が単純な線形弾性体ではなく、円周方向の応答において、変形初期には座屈を進めやすい軟化が現れ、その後には逆に変形を深くしにくくする再硬化が現れるという解釈をモデルに組み込みました。

しかもその効果は、軸方向の曲げ非線形よりも、円周方向の応答、つまりフープ応力側の非線形のほうが本質的でした。

言い換えると、この缶は「いったんリングを作ること」は促進する一方で、「その同じリングをどこまでも深くすること」は途中から不利にしてしまう材料応答を持っているのです。

その結果、ある振幅に達したところで、既存リングの深掘りよりも、隣に新しいリングを核生成するほうが力学的に有利になります。

著者らはこれを、パターン形成でよく知られるスイフト=ホーエンベルグ型の局在解として捉えました。

より具体的には、制御パラメータである圧縮が増すにつれて、局在した波束が一本分ずつ空間的に広がっていく、いわゆるホモクリニック・スネーキングに対応する分岐構造が現れる、という理解です。

ここで大事なのは、「缶全体がいきなり同じ波長の周期模様で埋まる」のではなく、空間的に限られた領域にまず局所解が立ち、その包絡が広がるたびに内部に新しいリングが一つ加わるという順序性です。

論文の数値計算でも、最初は一つの目立つ波として始まり、その後はより幅広い局在構造へと枝分かれしながら、結果として缶全体がリングで覆われていく様子が示されています。

定量面で見ると、この現象にはいくつかの重要な特徴があります。

まず、リング間隔は缶の半径と板厚の幾何平均に関わっており、これは内部圧を受ける薄肉シェルのしわ形成で知られる古典的な長さスケールと整合的です。

また、圧縮速度を変えても結果がほとんど変わらなかったことから、少なくとも今回の条件では速度依存より準静的な材料・幾何学的条件が主要因とみられます。

一方で、理論モデルの予測は座屈開始の力とひずみについて実験とおおむね対応したものの、最大振幅や缶全体がリングで埋まるまでに必要な圧縮量は過大評価する傾向がありました。

著者ら自身も、その一因として、缶が軸方向にほとんど伸びないと仮定した簡略化や、成形工程由来の材料不均一をモデルに入れていない点を挙げています。

つまり、この理論の強みは精密な数値予言というより、順次座屈を生む力学の骨格を抜き出したことにあります。

この視点に立つと、今回の仕事の価値は「缶がシマシマになる理由がわかった」ことにとどまりません。

より重要なのは、局在パターンが順番に増える現象を、材料非線形・近似非圧縮内容物・円筒シェル幾何の組み合わせとして統一的に説明した点です。

しかも著者らは、この機構がアルミ缶だけの特殊例ではなく、降伏後に軟化し、その後再び硬化するような応答を示す他の材料系にも広がる可能性を示唆しています。

したがってこの研究は、液体入り金属容器の破壊予兆の理解に向けた基礎知見や、充填後に金型なしで軸方向のコルゲーションを形成する製造法の検討に資する、示唆的な基礎研究だと言えます。

参考文献

Crushing soda cans and the mathematics of corrugation formation
https://www.manchester.ac.uk/about/news/crushing-soda-cans-and-the-mathematics-of-corrugation-formation/

元論文

Sequential buckling in fluid-filled cylindrical shells
https://doi.org/10.1038/s42005-026-02589-5

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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