1. トップ
  2. ファッション
  3. 古書の隣に、アウトドア。神保町の老舗で、日常を整える

古書の隣に、アウトドア。神保町の老舗で、日常を整える

  • 2026.3.31

古書にカレーに純喫茶と、掘れば掘るほど訪れる理由が増えていく神保町。その一翼を担っているのが、大通りに軒を連ねる老舗のアウトドア&スポーツショップだ。アウトドアを好きになると、ギアが好きになる。フィールドへ行く回数が増えるほどに道具へのこだわりが増し、やがて“自分だけの相談”をできる店が必要になる。ネットで何でも手に入る時代に、それでもわざわざ神保町に足を運ぶ人が絶えないのは、そのためだ。忙しい日常に句読点を打つように、ウェアやギアを選ぶ時間がある。通うほどに夢中になれるものと出会い、さらにまた通いたくなる。それもまた、神保町が好きになる理由だ。

神保町にはなぜ、古書とアウトドア&スポーツが共存するのか

見るからに年季の入った古書店が並ぶ神保町。だが大通りを歩けば、同じ通りにアウトドアショップやスポーツショップが建ち並んでいるのがわかる。

神保町は、江戸時代には古着商を営む店が軒を連ね、明治から昭和初期には東京における衣類産業の中心地だったと言われる。

同地に店を構えるアウトドア・スポーツショップの中で特に歴史が長いのが1912年(大正元年)に大阪から東京へ進出した「ミズノ」で、当時は運動着や野球のグラブなどを販売していた。

神保町は明治時代から多くの大学が居を置く文教の地であり、古書店街となったのもそれが理由のひとつ。そして同じく、大学スポーツをターゲットにした店も多く集まってきたというわけだ。

1955年に創業した「さかいやスポーツ」も、また同様。戦後、品不足が続く中で丈夫な鞄作りから端を発し、第一次登山ブームで盛り上がった学生らによる登山カルチャーを下支えしてきた。

今回はそんなお店を通して、アウトドア&スポーツを入り口に神保町の魅力を探った。

まさに古き良き老舗、「さかいやスポーツ」で触れる神保町的長屋文化

2025年に創業70周年を迎えた登山・アウトドア用品の専門店「さかいやスポーツ」。現在は本店を近代的なビルの1階に構えるが、白山通り沿いにある創業当時の店舗も事務所としてその歴史を紡ぎ続けている。

1955年に創業した同店は、変化の激しい時代をつぶさに見続けてきた。50年代から60年代に起きた第一次登山ブーム、70年代のヘビーデューティーブーム、80年代から90年代のスキーブーム、もちろん昨今のキャンプブームも。勤続20年以上の泉さんが、現在の登山・アウトドア事情を教えてくれた。

さかいやスポーツ 営業係長 泉 将晴さんHarumari Inc.

「ここ数年は、本格的な高山というより手軽な低山が人気です。キャンプブームを皮切りに登山に興味を持つ人の裾野が広がり、ここ神保町にもさまざまな方が来店されるようになっています」。

登山やキャンプに興味がなくとも、ファッションとしてアウトドアウェアやギアを取り入れる人も多く同店を訪れるようになったとか。

レジ後ろには、かつて販売していたオリジナルブランドの登山ギアが。リーズナブルな価格で販売したことで、第一次登山ブームの際にはお金がない学生がこぞって買いにきたそう。Harumari Inc.

「いまや渋谷や新宿といった繁華街にもアウトドアショップはありますが、神保町はカレーや古書、昭和喫茶など立ち寄れるスポットが多く、それらを含めてお店に足を運んでくださる人も多いですね」。

泉さんがおすすめしてくれた英国ブランド・カリマーのバックパック「クリーブ40」。「低山でのハイキングや日常使いから、山小屋泊までカバーできる汎用性の高い容量。軽量なので旅行用バックパックとしても最適で、旅の荷物をコンパクトにまとめれば機内持ち込みも視野に入るサイズ感も魅力です」。Harumari Inc.

購入を迷ったときは、一度店を出てカレーやコーヒーを楽しみながら検討し戻ってこられる。また近所の古着屋さんから、ヴィンテージのアウトドアブーツに使えるシューレースの相談を受けるなど、街に一体感があることが、神保町に何度訪れても飽きない理由なのではと語ってくれた。

より高い安全性が求められるクライミング。信頼ある品揃えを求める訪日客が、同店でギアを一式揃えてゆくことも多い。Harumari Inc.

さかいやスポーツに在籍するスタッフは、もちろん生粋の登山・アウトドア好き。しかし、接客は決してうるさ方ではなく、お客さんがベテランにしろビギナーにしろ、その立場に立った接客を心掛けているという。

店内で最も広いスペースを確保するのがシューズコーナー。「エントリーモデルから本格登山靴まで網羅しています。最近人気の色は、ファッションのトレンドともリンクした黒。意外かも知れませんが、女性の方が渋めなカラーリングを好まれますよ」。Harumari Inc.

「安全に関わることでなければ、楽しみ方は自由です。とにかく、興味が湧いた、好きになったという気持ちを大切にしていただきたいですから。もう50年以上通ってくれている80代のお客さんもいますが、山にはもう登れなくても昔の登山の話や今時のギアの話などを楽しみに来てくれます。常連のお客さんと初めて来たお客さんが情報交換しあう光景だって、日常茶飯事ですよ」。

本店向かいにも店舗があり、そちらはウェアを中心に揃える。これから登山をはじめる人に、「ザ・ノース・フェイス」のクライムライトジャケット、「マイルストーン」のクラウドフーディをおすすめしてくれた。Harumari Inc.

そうしたお店や客同士の距離の近さが、多くの人が神保町のショップに訪れる理由なのだろう。

時代は変われど、引き継がれる愛着と人情。神保町のアウトドアカルチャーには、古き良き東京の街の姿が、今なお残っているのだ。

技術の歴史も最新も。神保町を世界とつなぐ「MIZUNO TOKYO」

神保町にはスポーツ用品を扱うお店は多いが、ナショナルメーカーの直営店、しかもフラッグシップショップとなると「ミズノ」以外にはないだろう。

1912年(大正元年)に東京支店として3階建ての商店からスタートしたのが、ミズノの神保町における歴史。その場を移ることなく、2020年に4度目のリニューアルを敢行し、全8フロアで構成するグローバルフラッグシップストア「MIZUNO TOKYO」となった。

1Fではミズノウエーブシリーズのスニーカーや、台湾発のテック系ストリートブランド「GOOPiMADE」とのコラボスニーカーなどが展示されていた。Harumari Inc.

まだ真新しく見えるビルを訪れると、まるでセレクトショップのような洒落た空間が出迎えてくれた。スポーツシーンだけでなく、ファッションシーンにおいても今多くの人気を集めているスニーカーがズラリと並ぶ姿が、ここが単なるスポーツショップではないことを示唆する。

MIZUNO TOKYO フロアマネジャー 小泉律子さんHarumari Inc.

当日取材に対応してくれた2Fフロアマネジャーの小泉さんによると、「ライフスタイル提案にも力を入れています。プロスポーツ選手においても、昨今はオシャレであることやクールであることも人気の要因です。ミズノが培ってきた技術をベースに、ファッション性の高いアイテムも提供しています」。

ゴルフフロアでは、専属フィッターによるフィッティングサービス(予約制)を受けられるコーナーが。Harumari Inc.

歴史に裏打ちされた確かな機能性と、シーズン毎に新しい出会いをもたらすファッション性、その両方を全8フロアという大ボリュームで感じられるからこそ、MIZUNO TOKYOはあらゆる人にとって“何度も訪れる場所”となっているのだ。

ではなぜ、渋谷や原宿など若者が集まる街に移転しないのだろうか。

各フロアの壁には、同店を訪れたアスリートのサインがびっしり。これもまた、神保町で長い歴史を紡いできた証だ。Harumari Inc.

「やはり神保町は東京におけるミズノの出発の地。いわば基礎です。それに、神保町は多種多様な人が集まる街です。大学が多く、毎年全国から若者が新たに集まってきます」。

「また、楽器街であるお茶の水から流れてくる人も多く、さらには皇居も近いとあって男女を問わずランナーのお客様も多い。東京駅や秋葉原からも近いですからね」。日本でスポーツの国際大会が行われた際には、海外からのお客さまが同店に押し寄せるとか。もちろん、グローバルフラッグシップストアとあって各専門フロアの充実ぶりも見どころだ。

「Mizuno Design Lab」では、用意された数種類のロゴや絵柄をその場でTシャツにプリントするサービス(Tシャツ本体3,850円(税込)、ロゴ440円(税込)〜)を提供。Harumari Inc.

シグネチャーモデルからキッズサイズまで豊富に揃えるとともに、グラブなどの修理コーナーも常設される圧巻の野球フロア。ランニング、柔道、サッカー、ライフスタイル、ゴルフなど競技ごとのフロアは、一度では見きれないラインナップに加え、シューズやバットの職人・クラフトマンによる作製会や相談会なども頻繁に開催される。

 

「こういった作製会も相談会も、岐阜県や兵庫県など国内に工場を置き、独自の技術を継承してきたミズノならではだと思います。ここ神保町は、世界にジャパンブランドの魅力を発信する拠点でもあるんです」。

日本の古き良き街を継承する神保町で、MIZUNO TOKYOはスポーツの歴史の重厚感と最先端のスピード感を国内外に広げるさながら前線基地。スポーツを愛するすべての人が、定点観測すべきスポットなのだ。

街にいながらいろいろなモノやコトとつながれる

ただモノを買うだけではなく、歴史に触れ、人に触れ、ときに世界とも触れ合える。

再開発が加速する東京にあって、いまだ昭和の面影を残す神保町で営みを続けるさかいやスポーツとMIZUNO TOKYOは、アウトドアやスポーツの楽しさを街にいながら感じさせてくれる。

そして、通ううちに気づくはず。神保町を通じてアウトドアやスポーツがいつしか日常となり、街で過ごす中で欠けたココロとカラダの何かを、街にいながら整えられることを。

元記事で読む
の記事をもっとみる