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〈visvim〉クリエイティブディレクター・中村ヒロキさんと、〈WMV〉のデザイナー・中村ケルシーさんの暮らしをつくる愛用品。

  • 2026.3.29

ものの美しさや心地よさに、直感的に触れること。〈visvim〉クリエイティブディレクターの中村ヒロキさんと、ウィメンズライン〈WMV〉のデザイナーの中村ケルシーさんが、日々の暮らしで大切にしているエッセンスだ。&Premium149号(2026年3月号)「これからの、スタンダード」より、日々、世界中を飛び回る二人の日本での住まいを訪ねて、暮らしを豊かにする定番について話を聞きました。

掛け軸の本紙として江戸時代の着物をほどき、再利用した作品が床の間に。「眺めると、当時の時間の感覚に思いを馳せることができる」とヒロキさん。
共に過ごす時間が、心の解放に。
益子の陶芸家・島岡達三の急須と茶碗を用いて、お茶の時間を楽しむ。ドクダミ茶、デカフェコーヒー、ジャスミンティー、白湯などを。
玄関を開けると土間が。ヒロキさんが愛用するイタリアの歴史ある自転車ブランド〈CINELLI〉のバイクを飾った。

自分のフィーリングを大切に、ものを選ぶこと。

ものづくりは「選択の集積」だと、中村ヒロキさんは話す。デザイン、ディテール、色、風合い、製法。常日頃、そうした事柄に深く向き合い続けている。
「自分たちは、ものを感じるのが仕事。ものを見るときには、何よりも心が反応するかどうかを大事にします」。ケルシーさんが続ける。「ヒロキと私は、ふだんの生活や旅で同じものや景色を見て共有しているものが多いから、美しいと感じるもの、ソウルやエネルギーを感じられる対象は、とても近いものがあるかもしれない。私はヒロキと出かける小さな旅を愛していて、そのときによく骨董市巡りをします。インスピレーションを得る大切な場であり、新しい学びを得られる場でもあって。私が心惹かれたものについて彼に伝えると『ああ、僕もすごくいいと思った』と嬉しい反応がある。そんなふうに、自然に同じ感覚を共有しているんです」
「心に響き合うもの」。それが、いわば、二人の日常のスタンダードなのだろう。暮らしを便利にするものは、多くない。もののプロフィール的な事柄はさておき、自分たちの心を豊かにしてくれるかどうか。それが何よりも大事な観点だ。住まいには、古いものが多いが、意識して古いものを選んでいるわけではない。ヒロキさんは言う。「先入観を排除し、見て、触れて、何を感じるか。なぜそれを良いと思ったかは、後から考える。純粋にものと向き合う時間はすごくエネルギーがいるので正直、疲れます(笑)。でも、その時間に自分のアンテナを磨くことができるんです」

LIVING 暮らしを育むもの。

住んで20年ほど経つ、愛着を持って暮らしている江戸時代末期に建てられた茅葺き屋根の家。ヒロキさんとケルシーさんにとって、住まいは、創造のためのエネルギーを育てる場でもある。リビングには、さまざまな国の文化や歴史を感じられるプロダクトが点在する。
〝木工芸の芸術品〞とスピーカーマニアからの呼び声が高い、ラグジュアリーな家庭用スピーカー。幅2.6mほどのキャビネットに、ステレオ用のホーンユニットを組み込んだデザイン。「音楽は日常にあるもの。アナログで温もりある音色が気に入っています」
キッチンのそばに置いた食器棚は、日本の古いもの。「ケルシーと結婚した当時、購入しました。ここに並ぶのは、染付の色や絵柄に惹かれ、選び取った骨董の皿。明の時代に作られた『青花』と呼ばれる白地に青の絵付けが美しくて。目玉焼きが、とても映えます」
ヒロキさんとケルシーさんのデザートの定番は、小粒で果肉がぎゅっと詰まったオーガニックのいちご。染付の青といちごの赤のコントラストが目を楽しませる。蕎麦猪口にはデカフェコーヒーを。「コーヒーカップにちょうどいいサイズなので使い続けています」
V字形の脚のデザインが特徴的なヴィンテージの椅子。「17年くらい前にフランスで立ち寄ったギャラリーで購入しました。僕らが住んでいる古民家にとても合うと思って。ダイニングテーブルとセットで使っていましたが、今は部屋の至る所で愛用しています」

自然と繋がれる住まいに、身を置くこと。

ヒロキさんとケルシーさんは、カリフォルニアにも拠点を持つ。好奇心を携え、世界各国を旅しながら見聞を深め、心に留まったエッセンスをものづくりへと生かしていく。
日本のこの家で過ごすのは、一年のうち3分の1程度。どの土地で過ごしていても、二人の過ごし方はさほど変わらず、自然を感じて、居住空間や生活を心地よく整えることに重きを置いている。言葉にするととてもシンプルなことだが、どれだけ忙しい時間を過ごしても、地に足をつけて、自分たちならではの心地よさを追求することが、彼らのクリエイティビティを支えている。こうした行為そのものも、〝大切にしている基準〞。二人のコアな部分になっている。
ヒロキさんはソファに腰をかけ、梅の花が咲きはじめたばかりの庭の景色をしばらく静かに眺め、語りかけてくれた。
「感覚的な話ですが、自然とコネクトしていないと本能的な感性は弱まってしまうと思うんです。例えば、クヌギやコナラの樹液を求めて活動するカブトムシが、プラスチックの虫カゴの中に収められたら、生命力が弱まりますよね。僕ら、人間も同じ。だから、自分たちも自然の中の一部という感覚でいられたらいい。そういう精神を持ち続けるために、プラスチックのものは迎え入れない心がけをするのもいいと思うんです」
日常的に〝体で感じる感覚〞を研ぎ澄ませること。そうした体感が、自然からの恩恵で生み出されたプロダクトを選ぶ感性にも分かち難く結びついているのだろう。

ATELIER 創造をもたらす場所。

もともとは娘の部屋として使っていた空間を、ケルシーさんが創作する小部屋に。和のしつらえならではの陰影に富む。「閑静な住宅街に制作チームが揃い、情報共有するアトリエがあります。対して、こちらは私がひとりでドローイングや手芸に没頭する空間です」
天然の鉱石を細かく砕いて粉末にした、日本画に用いられる伝統的な絵の具。発色の美しさが特徴。〈visvim〉や〈WMV〉のものづくりにおいて、ケルシーさんの手描きによるアートワークは、手仕事のぬくもりを感じさせるシンボリックなモチーフになっている。
アトリエの窓辺に並ぶのは、アートブックや服づくりの資料など。ヴィンテージカー好きなヒロキさんが愛読する、フランス車〈シトロエン〉の洋書も。「江戸時代の着物のデザイン見本帳を参考にして、服づくりのイメージを膨らませることもあります」
着物を愛するケルシーさん。桐箪笥には、彼女が集めてきた大切なコレクションが大切に保管されている。着られる機会があれば、できるだけ着たいという想いも。生地の柄やパターン、綺麗なドレープを研究し、〈WMV〉の服づくりのディテールに生かしている。
ケルシーさんがドローイングや柄模様に取り組むときは、鉛筆を選ぶことが多い。同じものを繰り返し使うので、数をストックしている。「私は絵を描くのが好き。芯が軟らかいので、軽い力でもするすると描けて使いやすいところが気に入っています」

家で過ごす時間を、心地よく過ごすために。

住まいを彩るのは、古今東西のヴィンテージやアンティークの数々。それらは、人の手仕事の痕跡を感じられるものが多い。どれも、そのものが持っている美しさが最大限に引き出される、心地よい余白を残した配置がなされている。そうした空間のバランスを整えているのは、ケルシーさんである。
「家にあるものは、自分たちにとっては、すべて思い出があるものですし、大好きなものばかり。実用的なものも含めて、愛着を持って使っています。慣れ親しんだ我が家の定番的なものでもレイアウトを変更し、収納棚や道具を使ってデコレーションするだけでものの見え方が変わってくるのが面白くて。ささやかなことだけど、そうしたことは、新たな気づきが得られ、クリエイティブにもいい影響があります。変更するタイミングは、ヒロキが気分転換を欲していそうだな、とふと感じたときに。絶妙なタイミングを見極めて行うようにしています。そうすることで、家で過ごす時間がより楽しく、幸せなことだと感じられるような気がしています」
パートナーの生きる鼓動に耳を澄ませながら、空間に新たな風を送る。ものに宿るソウルや語りかけてくる何かを受け取り、対話するように、しつらえを考える。そんなふうに、ものと深く向き合う日々の累積が、シンプルで美しい暮らしを生み出していく。
長い間、大切に受け継がれた古い空間に、愛しいものが調和していること。二人にとって、そんな景色を眺める時間が、〝暮らしのスタンダード〞と言えるのかもしれない。

ELSEWHERE 日々の道具。

天井から吊るした竹製のポールに通した透け感のある着物は、二人の結婚式の際、ケルシーさんが着用したもの。「アンティークのテーブルクロスを手で縫って、ドレスにしました。特別な思い出が刻まれているものを、あえて日常の風景に溶け込ませています」
額装して壁掛けに。「古地図は時の羅針盤のような存在。眺めていると100年、200年前、街はどんな姿をしていたのか。人々の生活観や感性はどのようなものだったのか。とても興味深く思います。現代とは異なる、時間の感覚が感じられ、見入ってしまいます」
肌寒い季節に、重宝しているマルカ社の湯たんぽ。大正12年の創業以来、100年以上湯たんぽを作り続けてきた老舗の逸品。「翌日になっても、まだわずかに心地よい熱を放っている。体に優しいちょうどいい熱を与えてくれる、つくりの良さが気に入っています」
明治か江戸時代後期のものと思われる、インディゴの格子柄の敷布の上に小ぶりの碗を置いた。「敷布は、どこかフランスアンティークを思わせる趣が魅力的。深さがある碗には、僕がよく身に着けているネイティブアメリカンのシルバーバングルを収めています」
バスタイムは朝・晩のリラックスタイム。「古い家ならではの磨りガラスの窓から光が差し込むなか、湯に浸かるのが本当に心地よくて。檜風呂は新たに作ってもらったもの。バスグッズも同じ素材で合わせています。檜の香りに包まれる時間に幸せを感じていますね」
中村ヒロキ、ケルシー Hiroki and Kelsi Nakamura

2000年にスタートしたファッションブランド〈visvim〉でクリエイティブディレクターを務めるヒロキさんと、妻であり、ウィメンズライン〈WMV〉デザイナーとして活動するケルシーさん。素材を重視した着心地の良い、普遍的なものづくりをしている。

photo : Shinnosuke Yoshimori text : Seika Yajima

 

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