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棺の中から聞こえた“死者のジョーク”「おーい、出してくれ!」は本当だった!?

  • 2026.3.27

棺の中から聞こえた“死者のジョーク”「おーい、出してくれ!」は本当だった!?

1万体以上の検死・解剖に立ち会ってきた法医学医が見てきた、事件現場の“人間の物語”。一見すると不可解な死も、わずかな手がかりをたどることで、事件の真相が浮かび上がってきます。ノンフィクションでありながら、まるでミステリーのように読み進められる世界。『死体は語りだす』フィリップ・ボクソ著(三笠書房刊)から、一部抜粋してお届けします。第2回は、本当にあった「死者のジョーク」の話。

棺の中から聞こえた「死者のジョーク」

生きたまま埋葬される可能性に言及する話はごまんとある。

何らかの事情で死者を掘り起こしたところ、

・髪や髭が伸びていた
・死者が棺の中で姿勢を変えていた
・棺の蓋の内側に、爪で引っ掻いたような跡があった
などの話は誰もが耳にしたことがあるだろう。

これら全部が嘘ではない。例えば、人が亡くなっても、すべての細胞が同時に死ぬわけではなく、髪や髭をつくる皮膚細胞は活動を継続するので、人が死んだ後も髪や髭は数ミリ伸びる。頭を剃っていない限り髪の毛の伸びは目立たないが、髭をたくわえていない男性の場合、死後に髭が数ミリ伸びれば気づかれる。

死者が棺の中で姿勢を変えたとしたら驚きであるが、これも説明が可能だ。運搬時の揺れを主な理由として、埋葬時の死体の姿勢が棺を閉じる前とは違っていてもおかしくない。私は若いころ、コワント教区でミサの侍者を務めていた。地下の納骨堂に埋葬する場合、狭い入口を通すために棺を横に傾けることがあったのを覚えている。

ただし、棺の内側の引っ掻き傷は一度もお目にかかったことがない。

これは都市伝説だろう。

そうは言っても、仮死状態で埋葬された者が墓場から出てきたら……と恐れる読者は安心していただきたい。生きたまま葬られた人間は15分以上、生き延びることはない。我々の体が生き延びるためには酸素が不可欠だからだ。地表から少なくとも1メートル半の深さに埋葬された棺の中では、空気は循環しないし、換気も不可能だ。体が酸素を消費するにつれて血中の二酸化炭素濃度は上昇し、やがて人は意識を失い、心停止によって死が訪れる。墓穴から脱出して、葬儀に来てくれた人々に一言でも礼を述べようと思っても、時間切れになることは確実だ。

時は2019年10月12日。場所はアイルランドの小さな墓地。シェイ・ブラッドレイという人物の埋葬が執り行なわれていた。寒いが、太陽は燦燦(さんさん)と照っている。

棺が墓穴に降ろされたところで、「お~い、お~い、お~い、出してくれ!」とシェイが叫ぶのが聞こえた。

会葬者たちは一瞬戸惑ったが、笑い出した。

冗談好きだったシェイは、長患(ながわずら)いで死を覚悟したときにこれを録音し、葬式で流すように家族に頼んでいたのだ。「Shay Bradley」でネット検索すれば、シェイの埋葬の様子を映した動画を見ることができる。

死が私たちに微笑みかける前に、こちらから死に微笑みかけるべきだ。だがシェイは、それ以上のパフォーマンスをやってのけた。

死後に自分の死を笑い飛ばしたのだから!

著者 Profile

フィリップ・ボクソ(Philippe Boxho)
法医学医。作家。
1965年生まれ。ベルギーを代表する法医学医であり、同分野の第一人者。リエージュ大学法医学教授、および同大学法医学研究所所長を務める。そのキャリアにおいて6000体を超える検案、4000体以上の司法解剖を執刀。膨大な専門知識を有する医学の権威として、重罪裁判所での証言回数は300回以上に及ぶ。医学・学術界への貢献に加え、作家としてもフランスやベルギーで絶大な人気を誇り、本書を含め、著作は世界で累計160万部を売り上げる。「死」や「法医学」という厳粛な現実を、人々の知的好奇心を揺さぶる一級の物語へと昇華させるその筆致は、多くの読者を魅了してやまない。

※この記事は『死体は語りだす』フィリップ・ボクソ著、神田順子訳(三笠書房刊)の内容を、ウェブ記事用に再編集したものです。

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