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自由で大胆な「マルニ」への帰還。メリル・ロッゲ、思索の現在地

  • 2026.3.26
Hearst Owned
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Courtesy of Marni

ベルギー出身。法学の学士号を取得後、アントワープ王立芸術アカデミーでファッションを学ぶ。「マーク ジェイコブス」で経験を積み、「ドリス ヴァン ノッテン」にてウィメンズのヘッドデザイナーを約4年間務める。2020年に自身の名を冠したブランド「メリル ロッゲ」を設立し、数々のファッションアワードを受賞。2025年7月、「マルニ」のクリエイティブ・ディレクターに就任。2026秋冬コレクションにて、就任後初のショーを発表した。

意味をもち、感情に訴える服

「マルニ」2026秋冬コレクションより。 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT

私がデザイナーとして大切にしているのは、誠実に、パーソナルな場所からデザインすること。そして自分がつくり、世の中に提案するものに、きちんと責任を持つこと。だから服には必ず、意味がなくてはいけないと思っています。クリエーションには、より深い考察や思考のプロセス、対話が必要だと感じます。そうでなければ、ただ物体としての服をつくるだけになってしまう。私にとって、そのもう一層奥にある思慮深さや芸術的な表現こそが、作品を特別にし、価値をもたらしてくれるのです。

同時に、ファッションは感情に訴えるものでもある。力強くなりたい日もあるし、ときには美しく、魅力的に、センシュアルに感じたいかもしれない。あるいは、大胆に冒険したいときもある。その瞬間の自分を表現する「道具」となってくれる服が、私のつくりたい服です。

幻想ではなく、リアルな生活の中で

@meryllrogge.personal via Instagram

自分のインスピレーション源を挙げるとすれば、やはり大量に持っている60年代、70年代、80年代のヴィンテージピースでしょう。これらは実際に手に取り、着ることができる貴重なアーカイブです。写真から得られる情報ももちろん多いのですが、実際の服に触れることはまったく別の体験。デザインチームとしても、どう縫製されて、どんな仕上げで、どんな糸が使われているのか、細部にとても関心があります。だからこそ、具体的なレファレンスや実物のピースがとても重要なんです。

また私自身が女性なので、実際に服を着てみることも大きな意味があると思います。“服が人に何をもたらすべきか”を実感できますから。今の私は、軽くて心地いい服が好きなんです。子供も2人いますし、チクチクする服に付き合っている時間はないですよね(笑)。私たちは人生を軽やかに進んでいかなければならないけど、人生はいつも簡単なわけではない。だからこそ、服が人生という体験を豊かにしてくれるなら、こんなに素晴らしいことはないと思うんです。服はファンタジーだけのものではなくて、リアルな生活の中で意味をもたらすものであってほしいと願っています。

「マルニ」とは、共感できる女性像でつながっている

創業者のコンスエロ・カスティリオーニが最後に手がけた「マルニ」2017春夏コレクションより。 Getty Images

実は、私はティーンエイジャーの頃からの「マルニ」ファン。長い時間をかけて少しずつピースを手に入れてきたので、ブランドのアーカイブを見に行かなくても、自分の手元に当時の服があるんです。

私がファッションに出会った頃、強く共感できる女性像を示しているブランドがいくつかありました。それは、自分だけの声と自立した精神を持ち、ファッションに対して大胆な解釈をする女性。人生の中で大切にしていることがたくさんあって、ファッションもそのひとつではあるけれど、それだけではない。アートやカルチャー、人生を前に進めてくれるさまざまなものに関心を持っている。そういう女性像でした。

創業者のコンスエロ・カスティリオーニに共感するというより、彼女の女性像が私のファッション観を形づくった、という感覚のほうが近い。若い頃に受けた影響は大きく、「マルニ」とのつながりはその頃から始まっていたんですね。彼女をはじめ、当時のデザイナーたちを通して知った“女性の描き方”が、今でも自分の中に残っています。

ブランドを再定義したデビューコレクション

「マルニ」2026秋冬コレクションより。 LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT / Getty Images

私の役割は、見た瞬間に「マルニ」の手仕事や息づかいが感じられる服をつくること。色やプリントの話ではなく、創業当初からブランドが体現してきた精神や本質です。すぐに興味を失うようなものではなく、いつか親しい誰かに譲りたくなるような、ちゃんと残っていくもの。それこそが、このブランドの特別な点だと思っています。

初めてのコレクションにも、その視点を反映しました。新しい“トランケット”バッグは「マルニ」のエッセンスを持ちながら今の時代に合わせて再解釈した、全色オーダーしたいくらいのお気に入りです(笑)。大きなロゴがないのにすぐ「マルニ」とわかる、モダンな雰囲気で、昼から夜まで使える機能性も兼ね備えています。

新開発したテクニックから生まれたニットは、色も糸の風合いも美しく、とにかくやわらかくて着心地がいい。レースアップのブーツは履くのに少し時間がかかりますが、その時間が自分を整える儀式のようで、気分も高まり、ドレスアップの喜びになってくれます。

フェミニンとマスキュリンが混在しながら、常に健やかな“曖昧さ”がある。「マルニ」は人々がそれぞれの解釈で自由にピースを選び取り、自分のものにできるよう開かれているべきですから。

世代を超えて愛されながら、先へ進む

「マルニ」2026秋冬コレクションのショー会場。オランダを拠点とするデザインスタジオ、「フォルマファンタズマ」とのコラボレーションで制作された。 @marni via Instagram

「マルニ」はこれまでも、レディ・トゥ・ウェアやアクセサリーにとどまらず、常に芸術的探求の余地を持ちながら、ノスタルジーではなく先へ進んできたブランド。そして、幅広い世代に開かれてきたブランドでもあります。私が10代の頃は、私もいとこも50歳年上の叔母も、「マルニ」が好きで着ていました。人それぞれに惹かれる理由があったのです。次世代に届けながら、創業時からのファンにも同時に語りかける――「マルニ」がずっとやってきたように、私もそうしていきたいです。

また、個人的な環境の変化も、デザインに新しい気付きをもたらしています。「マルニ」のために家族でミラノに移住しましたが、仕事や旅ではなく生活のなかで文化を味わうのはまったく別の体験。ミラノは歩けば歩くほど、建物の魅力や隠れたディテールが見えてくる街。私がベルギー出身で外からの視点を持っているからこそ、ミラノの個性や人々の装いがより鮮明に見えるんです。きっとそれは、クリエーションにも影響してくるでしょう。発見がたくさんある生活に、ワクワクしています。

interview:MAKIKO OJI

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