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南仏の片田舎でアンティーク店を営む69歳。魔女の館のような中世の家で語る「修復とは、家の魂を尊重すること」

  • 2026.3.18

南仏の片田舎でアンティーク店を営む69歳。魔女の館のような中世の家で語る「修復とは、家の魂を尊重すること」

南フランスの田舎でアンティークショップを営む69歳、クリスティーヌ・カーズさんが暮らすのは、20年かけて手入れしてきた中世の元商家。好きなものに囲まれ、暮らしと仕事がとけあうその空間には、物との向き合い方——そして、人生との向き合い方が宿っていました。第2回は、中世の元商家の様子を、パリに住む日本人ライターがお届けします。

400㎡の中世の家で磨かれる美意識

「Entre Cour et Jardin」
クリスティーヌさんのお店の名前は、フランス語で「中庭と庭のあいだ」を意味します。この店名は、建物の構造から自然に生まれたもの。

クリスティーヌさんの家には、2つの入口があります。ひとつは小路に面した中庭に、もうひとつは広場に面した庭側に。どちらからでも訪ねることができる、そのオープンな在り方が、この店の精神そのものを表しているようです。

2階建て+屋根裏部屋、約400㎡と聞くと、ひとりでふつうに暮らすには持て余すように感じてしまいますが、買いつけた品々を保管し、洗い、修復する、アンティーク商の仕事がら、必要な広さです。

まるで自宅に招かれたような商品のディスプレイなので、居住空間と店舗が一体化しているように思われますが、実際はプライベートなスペースと仕事場、店舗はきちんと分かれています。

ただ、流れる空気は同じ。暮らしと仕事がとけあって、ひとつの世界をつくっています。

家の「魂」を尊重する修復

この家の好きなところはどこですか?と尋ねると、
「たくさんあるけど、古い家には、その家固有の個性と運命があって、それをとても強く感じるところ。元々が商人の家だからかもしれないけど、ここにこうディスプレイしたら良いんじゃない?というアイデアも浮かびやすいの」

家のリフォームや修復という作業も、クリスティーヌさんにとっては特別な意味を持ちます。

「修復するとは、その家の魂とアイデンティティを尊重すること」と彼女は言います。傷んでいた中世の商家を、20年かけて少しずつ手入れしてきたその積み重ねが、今のこの良い魔法使いの館のような、素敵な空間につながったのですね。

そして、とりわけ彼女の心を捉えて離さないのが、玄関扉についた鉄のハート型の装飾です。

「ハート型なんて、珍しいでしょう?若い鍛冶屋が恋をしながら打ち込んだのかもしれないな、とつい想像してしまいます。時を経た家だから、過去にここに暮らしたり関わった人たちの物語を想像するのも楽しいものですよ」

アンティーク商としても、彼女が惹かれるのは、そうした「作り手の息吹」が宿るもの。なかでも、アール・ポピュレール(民衆芸術)と呼ばれる素朴な工芸品への愛が深いと言います。

「素朴な素材を、想像力と職人の手仕事で美しく、かわいらしく、そして使いやすく昇華させた品々。そこに流れる職人の心意気が見えるものが私は大好き」

物は手放しても、次の出会いがある

素晴らしい!と買い付けた商品も、お客さんの購入が決まると、お気に入りの品物も手元を離れてしまいます。仕事の性質上、仕方がないことですが、寂しくないのかと問えば、それでいいのだと彼女は言います。

「数ヶ月でも手元に置いて、眺めることができれば十分。私にも、その商品にも、次の出会いがあるから」

所有することより、手放すことを惜しまず、次の出会いを信じる。物が流れて出会いが続いていく——それは、クリスティーヌさんの生き方そのものとも重なります。

Profile

クリスティーヌ・カーズさん

フランス南西部生まれ。子ども時代をアフリカや南太平洋の島で過ごし、16歳で再び家族でフランスに。1990年代に古物商として独立。約20年前よりフランス南西部の村Saint-Antonin-Noble-Val(サンタントナン・ノーブルヴァル)でアンティーク店「Entre Cour et Jardin(アントル クー エ ジャルダン)」を営む。中世の元商家を修復し、住居兼店舗として暮らす。家族は成人して独立したお嬢さんが二人。現在69歳。
インスタグラム:entrecouretjardin_3
インスタライブ:mimizu_brocante

次回は、69歳の軽やかさを支える食と体のお話です。

撮影/安田佑輔 @mimizu_france @mimizu_brocante

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