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漫画家・大友しゅうまが『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』を描き下ろし!「最低&最高な主人公と卓球への狂気的情熱にフォーカス」

  • 2026.3.12

ティモシー・シャラメが主演し、『グッド・タイム』(17)、『アンカット・ダイヤモンド』(19)などのジョシュ・サフディが監督を務めたA24の最新作『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』(3月13日公開)。卓球の世界チャンピオンを目指す青年が、数々の試練に見舞われながら夢を追いかける。ざっくりあらすじを説明すると、何度もなぞられてきたサクセスストーリーという印象だが、本作はそんなステレオタイプには収まらない。その主たる要因になっているのが、とにかく最低で最高な主人公マーティ・マウザーだ。

叔父の靴屋から渡航費を強奪し、イギリスの世界選手権に出場するマーティ

そんな本作をいち早く鑑賞し、「衝撃を受けっぱなしだった」と語るのは“映画紹介マンガ”でおなじみの大友しゅうまだ。今回、様々な映画をポップなキャラクターのマンガに落とし込み、見どころや魅力を紹介してきた大友が『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』のマンガを制作。イラストを描くうえでのポイントやマーティの魅力、クリエイターとして憧れる理由についても語ってもらった。

「スポーツものかと思っていたら…まったく予想と違いました」

鑑賞前、作品に関する情報はほとんど入れなかったと振り返る大友。「ポスターを見る限り卓球の映画であることはわかったので、スポーツものかと思っていたら…まったく予想と違いました。マーティには卓球で有名になりたいという野望があって。その過程で大女優のヒロインを口説き落とすなど濃密な人間ドラマがぐちゃぐちゃに入り乱れて押し寄せてくるので『これどうなっちゃうの?』と、どんどんのまれていく感覚でした」。

先が読めず、怒涛の展開にも圧倒される本作に大満足だった様子。一方で、物語をなぞっていくと、よくある王道ストーリーに見える恐れがあり、かつ内容を語りすぎるとこれから作品を観る人の楽しみも奪ってしまいかねない。どこを切り取ってマンガにしようかと頭を抱えるなか、ポイントになったのがマーティの卓球に対する狂気的なまでの情熱だったという。

ティモシー・シャラメが最高で最低な卓球選手の主人公を演じる『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』 [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
ティモシー・シャラメが最高で最低な卓球選手の主人公を演じる『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』 [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

「マーティのアンニュイな目つきを再現したい」

1952年のニューヨーク。叔父が経営する靴屋でセールスマンをしているマーティ(シャラメ)は、口が巧く営業成績も優秀。しかし街の小さな靴屋で満足する気などさらさらなく、まもなくイギリスで開催される卓球の世界選手権で優勝し、世界チャンピオンになるという野望を声高らかに公言している。

「マーティ役のティモシー・シャラメといえば、繊細でクールでカッコいいイメージ。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』でのウィリー・ウォンカ役が好きだったのですが、今回は真逆でギャップに驚きました。卓球に魂を売っていて、目的のためならなんだってできる。最初はかわいいところもありましたが、言動がどんどんエスカレートしていきます。でも、ここまで振り切っていると逆に気持ちいいですよね。彼を描くうえでは、まずアンニュイな目つきは再現したいと思いました。そして、作品のテンポ感を損なわないように、数ある“サイテーエピソード”のなかから、どのシーンをピックアップしていくかで試行錯誤しました」。

大友が語るとおり、マーティは平気で嘘をつくし、周囲への迷惑も顧みない。マンガのなかでも、イギリスへの渡航費を手にするため、同僚を銃で脅して店の金庫から金を強奪するという、目的のためには手段を選ばないエピソードが描かれている。

【写真を見る】卓球で成功をつかむためなら同僚にだって銃を向ける!?マーティの狂気的な情熱(1/4ページ) マンガ/大友しゅうま
【写真を見る】卓球で成功をつかむためなら同僚にだって銃を向ける!?マーティの狂気的な情熱(1/4ページ) マンガ/大友しゅうま

「漫画家として憧れるところもあります」

劇中ではほかに、賭け卓球で弱いフリをし、相手を油断させて賭け金を吊り上げるといった傍若無人っぷりを次から次へと活写。しかし、こうした姿はある意味では卓球に対するストイックさの表れでもあり、映画を観ているうちにどこか共感を覚え、応援したくなる気持ちが不思議と湧いてくるのだ。

「(当時、スポーツとは見なされていなかった)アメリカにおける卓球の認識を変えたい。そのために必要なのは自分がビッグになること。そんな自信に揺るぎがないところにはワクワクしました。私も漫画家として、ほかのことを削ぎ落として制作に100%注力したいという気持ちが常にあるので、憧れるところもあります。あそこまで周りに迷惑はかけられないですが(笑)」。

順調に勝ち進んでいくマーティだったが… [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
順調に勝ち進んでいくマーティだったが… [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

「クールで高貴な女性がなんだかんだ口説き落とされてしまうのがかわいい」

シャラメ以外では、『アンティル・ドーン』(25)の新星オデッサ・アザイオンがマーティの幼なじみレイチェル役で、「シャークタンク」(アメリカ版の「¥マネーの虎」)に出演する投資家のケビン・オレアリーが大富豪ミルトン・ロックウェル役で、世界的ラッパーのタイラー・ザ・クリエイターがマーティの親友ウォーリー役で出演。これら個性派キャストのなかで大友が特に印象的だったと挙げるのが、『恋におちたシェイクスピア』(98)や「アイアンマン」シリーズのグウィネス・パルトロウ演じるかつての名女優ケイ・ストーンだ。

マーティとケイはずぶずぶの愛人関係に [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
マーティとケイはずぶずぶの愛人関係に [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

ロックウェルと結婚し、俳優業から半ば引退状態にあったケイは、イギリスの高級ホテルでマーティに見初められ猛烈なアプローチを受けることに。当初は得体の知れない若者を分不相応とはねのけるが、あまりの厚かましさに押し切られ、ずぶずぶと愛人関係に発展してしまう。「最初はクールで高貴な女性という感じで登場しましたが、マーティの大胆なアプローチに屈してなんだかんだ口説き落とされてしまうのがかわいかったです」とのこと。マンガでもシャワー室で2人が関係を持つなか、マーティがケイの首からこっそりネックレスを盗む描写が切り取られている。

「試合のシーンは『ピンポン』を参考にしています」

このように女性関係にもだらしないマーティだが、卓球の実力だけは本物で、自身の優勝を信じて疑わない。世界選手権でも並みいる強敵を撃破しながら順調に勝ち進んでいく。しかし、迎えた決勝戦で無名の日本人選手コウト・エンドウが立ちはだかり、完膚なきまでにプライドをへし折られてしまう。

エンドウを演じるのは、東京2025デフリンピック卓球男子団体の銅メダルを獲得した本物の卓球選手である川口功人。川口の映像を見たサフディ監督の希望でエンドウ役での出演が実現した。エンドウに敗北したマーティは「ラケットを使ったイカサマだ!」と猛抗議するが聞き入れられない。この際の発狂ぶりもマンガのなかで絶妙に表現されている。

無名の日本人選手にまさかの完敗を喫したマーティは日本で開催される次の世界選手権でのリベンジに燃える!(2/4ページ) マンガ/大友しゅうま
無名の日本人選手にまさかの完敗を喫したマーティは日本で開催される次の世界選手権でのリベンジに燃える!(2/4ページ) マンガ/大友しゅうま

エンドウについて大友は「強キャラ感にワクワクした」と気に入った様子。マーティは次に日本で開催される世界選手権でのリベンジに燃えており、ライバルの存在が作品を熱くしているとも説明する。

「エンドウという宿敵がいてよかったです。特にクライマックスの試合はめちゃくちゃ熱くて、一番刺さりました。どこか少年マンガチックで『ピンポン』のペコに対するドラゴンのような。細かいところですが卓球のスマッシュの擬音をどう表現しているのかが気になり、試合のシーンは『ピンポン』を参考にしています」。

卓球の描写はマンガ『ピンポン』を参考に(3/4ページ) マンガ/大友しゅうま
卓球の描写はマンガ『ピンポン』を参考に(3/4ページ) マンガ/大友しゅうま

「バスタブシーンで空気が一変した」

監督のジョシュ・サフディといえば、本作以前まで共同監督を務めてきた弟ベニーと共に、犯罪を重ねることでしか生きられない兄弟を描いた『グッド・タイム』、宝石商の男がギャンブルで借金苦から抜けだそうとする『アンカット・ダイヤモンド』など、人生に追い詰められた男がそこから這い出ようとする姿を題材にしてきた。本作におけるマーティもまた、叔父から強盗で訴えられ、幼なじみのレイチェルには彼の子を妊娠したと告げられるなど、様々なピンチに陥る。

というわけで、マーティは金策のためにあの手この手で駆け回るのだが、どれもこれもがことごとく失敗。どんどん負のスパイラルに陥っていき、挙句の果てに命を落としかねない状況にも直面する。

金策のため、マーティは街中を駆け回る! [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
金策のため、マーティは街中を駆け回る! [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

再起を図るマーティの奮闘ぶりをスピード感あふれる展開で映しだし、ブラックユーモアも差し込まれるなど、観る者をまったく飽きさせない。こうした演出面についても大友は「大胆で観ていて気持ちいい」と絶賛。「バスタブのシーンは衝撃的でとても驚きました。痛々しい描写でもあるので空気も一変したと思います(笑)。また、マーティがユダヤ人であることから、ホロコーストでの出来事が語られるなど歴史と地続きになっているのも印象的でした」など忘れがたいシーンばっかりだったと振り返る。

『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』で単独映画デビューを果たしたジョシュ・サフディ監督 [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』で単独映画デビューを果たしたジョシュ・サフディ監督 [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

「戦後の日本が忠実に再現されていると感じました」

撮影監督はデヴィッド・フィンチャーの『セブン』(95)やミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』(12)、アリ・アスターの『エディントンへようこそ』(25)にも参加したベテランのダリウス・コンジ。35mmフィルムとヴィンテージレンズを使用し、本当に1950年代のニューヨークで撮られたようなざらついた質感はリアリティ抜群で、観客をスクリーンにぐんぐん引き込んでいく。

「当時の空気感、雰囲気がちゃんと出ていました。きれいすぎると違和感があったかもしれません」と映像面のすばらしさにも言及する大友。続けて、東京の上野恩賜公園などで撮られた日本の描写にも触れ、「もちろん、戦後の日本を体験しているわけではありませんが、作り込みの細やかさからも忠実に再現されていると感じました。映像にはその説得力がありますし、日本人としてもうれしいです」と語っている。

当時のアメリカにおいて卓球はスポーツというよりも遊びだった [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.
当時のアメリカにおいて卓球はスポーツというよりも遊びだった [c] 2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

「いい意味で裏切られたという衝撃を受けてほしい」

最後に本作をこれから観る人にオススメするなら?と聞いてみると、「紹介マンガを描いている身ではあるのですが」と前置きしたうえで、「理想を言うとあまり前情報を入れずに観ていただいて、いい意味で裏切られたという衝撃を受けてほしいです。今回のマンガでもマーティのクズっぷり、狂気的な卓球への情熱にフォーカスしました」と述懐。ジェットコースターのように浮き沈みのあるマーティの奮闘にただ身を任せるのが、この作品を最もおもしろく観る方法なのかもしれない。

強引なマーティの口説き文句に落ちてしまうかつての名女優ケイ・ストーン(4/4ページ) マンガ/大友しゅうま
強引なマーティの口説き文句に落ちてしまうかつての名女優ケイ・ストーン(4/4ページ) マンガ/大友しゅうま

第98回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など9部門にノミネートされている『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。賞レースでも話題を集めている本作の衝撃をぜひ没入感ある劇場で体感してほしい!

取材・文/平尾嘉浩

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