1. トップ
  2. エンタメ
  3. 東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第37回(野尻)「私が東大に入れたのも、漫才がウケるのも、家に金があったからです」

東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」/第37回(野尻)「私が東大に入れたのも、漫才がウケるのも、家に金があったからです」

  • 2026.5.7
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵 野尻
東大卒コンビ・無尽蔵のコラム連載「尽き無い思考」 提供:無尽蔵 野尻

サンミュージックプロダクションに所属する若手の漫才コンビ・無尽蔵は、ボケの野尻とツッコミのやまぎわがどちらも東大卒という秀才芸人。さまざまな物事の起源や“もしも”の世界を、東大生らしいアカデミックな視点によって誰もが笑えるネタへと昇華させる漫才で、「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出・「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出し、次世代ブレイク芸人の1組として注目されている。新宿や高円寺の小劇場を主戦場とする令和の若手芸人は、何を思うのか?“売れる”ことを夢見てがむしゃらに笑いを追求する日々を、この連載「尽き無い思考」で2人が交互に綴っていく。第37回は野尻回。

第37回(野尻) 「私が東大に入れたのも、漫才がウケるのも、家に金があったからです」

こんにちは。無尽蔵の野尻です。ダ・ヴィンチWebによって付された当連載の紹介文にて、われわれは「東大卒の秀才芸人」と説明されております。また先月始まったラジオ番組『無尽蔵のワードマイスター』の概要欄には「超高学歴な若手芸人・無尽蔵」との文言があります。私が東京大学を卒業したことは紛れもない事実ですが、私に「東大」のラベルが貼られることに最近ある種の負い目や申し訳なさを感じるようになったのです。今回は私が背負うこの「東大」の二文字を通し、自己省察を試みようと思います。

結論から申し上げますと、私が東大に入れたのは首都圏の中流家庭に生まれたからであって、特別に頭が良いからでも、特別に努力をしたからでもありません。もちろん勉強はたくさんしたのですが、経済事情や家庭環境がそれを妨害するということはほとんどありませんでした。努力できたのは「努力をすれば正当な見返りがある」という価値観を持てるほど恵まれた環境にいたからに過ぎず、物事をストイックに頑張れる高邁(こうまい)な精神を持っていたからではありません。入学したての頃は「俺の努力と実力が東大の重い扉を開いた!とにかく褒め称えられたい!シャーオラ!」と傲慢なことを思っておりましたが、卒業してしばらく経ち、それは視野狭小な思い上がりだと気づきました。

近年の東大コンテンツの氾濫によって、世間が無闇に東大の二文字を神格化する向きはさらに強まったと思います。芸人として売れるためにその流れに乗じ、東大の威を借りて注目を集めようとするのは正攻法だと言えますが、私にはその期待に応えられるほどの知性も品格もありません。金も環境も与えられた私が、その幸運を棚に上げて「東大芸人」を声高に名乗って賢ぶるとき、皆さまを欺瞞しているような負い目を感じるのです。ノーベル賞を取ったわけでもないし、M-1を優勝したわけでもないのに、何が「インテリ」で、何が「芸人」なんだと。

お笑いにおける努力はどうでしょうか。「俺が賞レースで良い結果を残せているのは、俺に才能があって、俺が頑張ったからじゃい!シャーオラ!」と内心では思うときも多いですが、冷静に考えてみれば、19歳のときに優れた相方と出会うことができ、周りの人に意地悪をされず、そもそも大学というモラトリアムの中で4年間活動ができたという余裕もあり、加えて近年の大学お笑い熱の高まりによる追い風も吹いていたという外的要因が作用して得られた成果であることは間違いないのです。自分のネタには自身がありますが、自分の努力に自信はありません。お笑いも結局、運ゲーなのでしょうか。

しかしお笑いの活動は大学受験と違って10年、20年と続いていくものです。2、3年の短期決戦である大学受験は環境の違いが結果に直結しやすいですが、お笑いには粘り強さという重要なパラメータがあります。勝負は常に時の運ですが、その勝負が何度も何度も続く。そのため汗と才能によって、いずれ運の悪さをねじ伏せることができるでしょう。「売れるための確実な方法は、売れるまでやめないことだ」という言葉が芸人の間にはありますが、これは「売れるかどうかなんて運だ」という言説を否定するものです。そういうお笑いの持つごまかしの効かなさを私は愛しています。

私は、「東大」のラベルで受けた恩恵を否定しません。それは私のキャリアに刻み込まれた消えない幸運です。ですがその幸運に甘んじる限り、私のコラムもラジオも誰かを欺瞞し続けるでしょう。「東大芸人」の「東大」の部分は運と環境によるものです。もう覆りません。なぜなら大学受験はとっくの昔に済んだことなので。でも「芸人」の部分は、もう少し欲張らせてください。俺の起こした笑いは、俺の汗と才能によるものだと心から思いたいのです。いつかM-1グランプリを優勝するくらいの、東大なんか置き去りにするくらいの、華々しい成果をあげたとき、初めて「東大」の二文字が私の肩書きから消え始めるでしょう。そのとき私は「世話になったね、ありがとう」とその二文字に告げるのでしょうか。

 提供:無尽蔵 野尻
提供:無尽蔵 野尻

■無尽蔵

サンミュージックプロダクション所属の若手お笑いコンビ。「東京大学落語研究会」で出会った野尻とやまぎわが学生時代に結成し、2020年に開催された学生お笑いの大会「ガチプロ」で優勝したことを契機としてプロの芸人となった。「UNDER5 AWARD 2025」では決勝に進出、「M-1グランプリ」では2024年から2年連続で準々決勝に進出。

無尽蔵 野尻 Xアカウント:https://x.com/nojiri_sao

無尽蔵 野尻 note:https://note.com/chin_chin

無尽蔵 やまぎわ Xアカウント:https://x.com/tsukkomi_megane

元記事で読む
の記事をもっとみる