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「シャチ同士の共食い」が発生か? 2つの集団が衝突した可能性

  • 2026.3.5
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

海の頂点捕食者として知られるシャチ。

その社会は高度で、家族単位の結びつきが非常に強いことで知られています。

ところが最近、「シャチがシャチを食べた可能性」を示す奇妙な証拠が見つかりました。

ロシアの海岸に打ち上げられたシャチの背びれに、別のシャチによるものとみられる歯の跡が刻まれていたのです。

もしこれが事実なら、シャチの社会構造の成り立ちを説明する重要な手がかりになるかもしれません。

研究の詳細は南デンマーク大学(SDU)により、2026年2月8日付で学術誌『Marine Mammal Science』に掲載されました。

目次

  • シャチには「別の文化を持つ集団」が存在する
  • 共食いの恐れが「強固な家族社会」を生んだ?

シャチには「別の文化を持つ集団」が存在する

北太平洋のシャチは、同じ種でありながら生活様式の異なる集団に分かれています。

代表的なのが次の2つです。

レジデント型シャチ

魚を主食とし、巨大で安定した家族集団をつくります。

母系社会で、子どもは成長しても生まれた群れを離れず、生涯家族と行動を共にすることが知られています。

ビッグス型シャチ

こちらはアザラシやクジラなど海洋哺乳類を狩る捕食者です。

群れは小さく流動的で、個体は出生群を離れることも多いとされています。

この2つの集団は行動や食性、鳴き声などが大きく異なり、互いに接触したり交配することはほとんどありません。

研究者の間では、亜種あるいは別種に近い存在ではないかとも議論されています。

そして従来、この2つのタイプは基本的に互いを避けて生活していると考えられていました。

ところが、その関係に疑問を投げかける出来事が起きたのです。

ロシアの海岸に漂着した「歯跡だらけの背びれ」

2022年8月、ロシア極東のベーリング島の海岸で、1枚のシャチの背びれが発見されました。

発見者はロシア太平洋地理学研究所の研究者セルゲイ・フォミン(Sergey V. Fomin)です。

その背びれには、シャチ特有の歯型と一致する傷が多数残っていました。

【海岸に打ち上げられたシャチのヒレの画像がこちら

このような歯跡は、ビッグス型シャチがクジラやイルカを襲って食べた際にも見られるものです。

しかし今回のケースでは、被害者がシャチ自身だった可能性がありました。

さらに2年後の2024年7月、同じ地域で2枚目の背びれが見つかります。

こちらも同様の歯跡が刻まれていました。

研究チームはDNA解析を行い、これらの背びれがレジデント型シャチ由来であることを確認します。

つまり、魚を食べるタイプのシャチが、別のシャチに襲われた可能性が浮上したのです。

研究者たちは、この背びれの主が海洋哺乳類を狩るビッグス型シャチに捕食された可能性を考えています。

ただし注意すべき点もあります。

これが「殺して食べた」のか、それともすでに死んでいた個体の死骸を食べたのかは、現時点では断定できません。

それでも研究者は、興味深い仮説を提示しています。

共食いの恐れが「強固な家族社会」を生んだ?

もしビッグス型シャチが、時にレジデント型シャチを襲うことがあるなら、それはシャチ社会の進化を説明する重要な要素になります。

実はレジデント型シャチの社会構造は、哺乳類の中でも非常に特殊です。

多くの動物では、子どもは成長すると群れを離れます。

しかしレジデント型シャチでは、オスもメスも生涯にわたって母親の群れに留まり続けるのです。

この極端な「家族密着型社会」は長年研究者を悩ませてきました。

今回の研究では、その理由として捕食圧が提案されています。

もしビッグス型シャチが潜在的な捕食者であるなら、大きく結束した群れを作ることは重要な防御戦略になります。

実際、研究者の観察では

・レジデント集団の大きな群れが小規模のビッグス群を追い払う

・ビッグス型シャチがレジデント群のいる海域を避ける

といった行動も報告されています。

つまり、団結することで捕食者を遠ざけている可能性があるのです。

似た行動は他のクジラにも見られます。

たとえばゴンドウクジラの群れは、シャチに対して集団で立ち向かうことで知られています。

ただし今回の研究については、慎重な意見もあります。

背びれの歯跡だけでは捕食を断定できないため、社会進化を説明するには証拠がまだ十分ではないという指摘もあるのです。

シャチにとっては「共食い」ではないのかも

もし今回の解釈が正しければ、シャチの世界では「同種捕食」に近い出来事が起きていることになります。

しかし研究者は、シャチ自身にとってそれは必ずしも「共食い」ではない可能性も指摘しています。

レジデント型とビッグス型は生活様式も文化も異なり、互いに交流することがありません。

そのため彼らにとっては、同じシャチというより「別の種類のクジラ」に近い存在かもしれないのです。

研究者は次のように述べています。

「彼らは互いに交流することも、一緒に過ごすこともありません。彼らにとってはただの別のクジラなのです」

海の頂点捕食者として知られるシャチ。

しかしその社会は、単なる捕食者の世界ではなく、複雑な文化と進化の歴史が交差する場所でもあります。

今回見つかった2枚の背びれは、その謎の一端を垣間見せているのかもしれません。

参考文献

Chewed-up orca fins on Russian beach point to cannibalism, and scientists say it may explain why some pods are so tight-knit
https://www.livescience.com/animals/orcas/chewed-up-orca-fins-on-russian-beach-point-to-cannibalism-and-scientists-say-it-may-explain-why-some-pods-are-so-tight-knit

元論文

Predation by Mammal-Eating Bigg’s Killer Whales (Orcinus orca rectipinnus) May Shape the Unique Social Structure of “Resident” Fish-Eating Killer Whales (O. o. ater) in the North Pacific
https://doi.org/10.1111/mms.70142

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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