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「80歳を過ぎてもお店を続けるのが夢」 50代でかなえた【焼き芋屋開業】働き方のヒントも

  • 2026.3.3

「80歳を過ぎてもお店を続けるのが夢」 50代でかなえた【焼き芋屋開業】働き方のヒントも

「小さなお店をやりたい」という女性は多いですが、その夢を50代でかなえた人がいます。「まさか私が焼き芋屋さんをやるとは夢にも思っていませんでした」という小森京子さんの、いくつもの偶然に導かれ、自宅で開業したストーリーを聞きました。

Profile
小森京子さん 「長瀞壷焼き芋専門店moriko」店主

こもり・きょうこ●1964年埼玉県生まれ。
高校卒業後、観光バス会社や化粧品店勤務を経て結婚。89年に長男、96年に二男を出産。
薬局・アパレル店での接客や自動車の営業に携わり、2017年に父の介護を機に退職。20年に母の介護が始まる。
同年、焼き芋カーを始める。22年に自宅の一部にmorikoをオープン。

始めてわかった焼き芋屋さんの苦労

そして、ついに22年9月に「長瀞壷焼き芋専門店moriko」をオープンした。

実際にお店を始めてみて、予想と大きく違ったことは?

「お芋の仕入れに苦労したことです。おいしいお芋がないことには商売になりませんが、それが意外にも難しかった」

たとえば、世間では9月に入るとおいしいさつまいもが出回ると考えるが、焼き芋のハイシーズンに、品質のいいさつまいもを仕入れるには激しい競争が。

「その時期、農家さんは収穫に忙しく、また、お芋を寝かせる時期でもあるため、なかなか発送してもらえないこともあるんです」

サイズの問題もある。

「大きすぎず小さすぎないMサイズが欲しくても、『Mサイズばかりは出せない』と、壺に入らないほど大きなものやホルダーから落ちてしまう小さなものが送られて来たりして……」

「食べた人が笑顔になる、とびきりおいしい焼き芋を販売する、というこだわりだけは譲れない」と小森さん。届いたさつまいもに納得できず、販売に至らなかった芋も数知れず、という。

「今は、おいしいお芋を提供してくれる農家さんとめぐり合えたので、このご縁を大切にしつつ、さらにおいしいお芋との出合いを求めていきたいです」

小森さんの探究心はとどまるところを知らない。

焼き芋を買いに訪れた常連のご夫婦に、その日のお芋の種類を説明する小森さん。ホカホカの焼きたてを手にすると、誰もが笑顔に。

常に最高のお芋を追い求めていきたい

お店をやっていて嬉しいことは?

「『おいしい焼き芋屋さんができたと聞いて買いに来た』と言われたりすると、何よりやりがいを感じます」

こんなこともある。

「女性客を想定していましたが、蓋を開けてみたら意外にも男性客が多くてびっくり。焼き芋好きって結構いるんですね。『この子がファンで』というワンちゃん連れの方も多いです」

こんなお客さんもいる。

「介護施設に入っている奥さまを、たまに車で外出させている男性で、遠くからわざわざ来てくださるんですが、先日、『自分が胃がんを宣告されてしまい、本当は妻より長く生きなきゃしょうがないんだけど無理かもしれない』と。冷やし焼き芋がお好きで、いつも『冷やし、あるかい?』って。だから、来店されるとわかるときは作っておくんです」

オープン時からのメニューは、焼き芋以外に焼き芋のスムージーとブリュレ。

「他のスイーツを販売したこともありますが、手を広げず、3品くらいがちょうどいいのかなと思っています」

morikoの定番メニュー、さつまいものブリュレ。表面のこんがり焼けたカスタードクリームの中から、ねっとり甘いさつまいもがあらわれる。自然な甘さで、あっという間にペロリ。

腰が曲がっても焼き芋で笑顔を届けたい

ひとりでお店を切り盛りしているため、土日は手が回らなくなることも。絞った品を極めていこうと考えるようになった。

実は、昨今の物価高は焼き芋業界をも直撃している。

「さつまいもの値段がお店を始めた4年前と比べて、5キロで500円くらい上がりました。炭も、炭をおこすガスも値上がり。でも、それに合わせて焼き芋の値段を上げることはできません。観光地とはいえ、この地域の相場があるので」

それでも、小森さんは焼き芋屋を続けていく覚悟だ。

「80歳を過ぎても続けるのが夢。その頃は、体力的に焼き芋だけになるかもしれないけれど、腰が曲がってもやり続けたい」

壺焼き芋屋さんを始めたい人を応援

「以前はそれほど焼き芋好きではなかった自分が、人生を賭けるほど夢中になるとは想像もしなかった」という小森さん。

「好きなことに出合えて、それを続けられるのは幸せなことだと思います。でも、子育てや介護などもあって、女性が仕事を続けるのは大変。それに、夫は私のやりたいことに反対しないタイプですが、そういう家庭ばかりではありません。私の場合は、やりたいと思うと歯止めが利かないので、『やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいい』と、ここまで突っ走ってきてしまいましたが」

おいしい焼き芋で多くの人を喜ばせることで頭がいっぱいの小森さんだが、24年12月にお店がテレビ番組で紹介されたことで思わぬ展開があった。

「定年後の第二の人生に壺焼き芋屋を始めたいので見に行ってもいいですか?という問い合わせを、結構いただくようになりました。なので、いつか開業教室のようなことができたらいいな、と思っています。簡単にできると思っている人が多いのですが、仕入れの大変さや、焼き上がるまでの約2時間は意外と手間がかかること、外見からはわからないお芋の病気のことなど、やってみないとわからないことがいろいろあるので」

今、壺焼きの焼き芋屋さんは徐々に増加しているという。

「遠赤外線でじっくり焼くので、焦げ目がつかず、均一に甘くなるのが特長です」

五感をフルに使って、お芋の焼け具合を判断する小森さん。ベストな焼き上がりをつかめるようになるのに約2年かかった。

「でも、まだまだ極めたい」

焼き芋のためにも健康でいなくては、と力強くほほ笑んだ。

「焼け具合は香りや音で判断します」と小森さん。中身が見えないので、勘が頼りだ。頃合いを逃すと破裂することもあるそうだ。

長瀞壷焼き芋専門店 moriko

埼玉県秩父郡長瀞町野上下郷1633-1
TEL:090-6360-6354
営業:11:00~17:00(なくなり次第終了)
定休日:火・木曜
インスタグラム:@moriko0809

撮影/junko
取材・文/依田邦代

※この記事は「ゆうゆう」2026年3月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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