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タクシーチケットだと思って受け取った、“予想外のもの”にタクシー運転手が思わず冷や汗をかいたワケ

  • 2026.3.28
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役タクシードライバーのけんしろです。

タクシーの車内には、さまざまな事情を抱えたお客様がご乗車されます。
同じお酒を飲んだ帰り道でも、仲間同士の楽しいお酒、ひとりで飲むお酒、上司と部下、接待。

そして、ときどき想像できない出来事もあります。

その夜は、スナックまで3人組をお迎えしました。みなさん少しほろ酔いで、その中のひとりが、とても陽気な方でした。
事件はそのいつもの風景から始まりました。

「これあげる」と渡された1枚の紙

別れ際、陽気な方が紙を1枚差し出してきました。

40代くらいのサラリーマンで、とても感じの良い方です。

「これあげる」

「ありがとうございます!」

ノリが良くて勢いのある言い方だったので、そのノリのまま受け取り、とりあえずポケットに入れました。

その時は、まさかあとで自分の背中が冷たくなるとは思っていませんでした。

その陽気な方はタクシーには乗らず、「自分は歩いて帰る」と言ってその場を離れました。
私は残るお二人を乗せて、長めの送迎へ向かいました。

「チケット預かってるよね?」

しばらく走り、ひとり目のお客様が降りる時です。

その方が何気ない口調で、こう言いました。

「運転手さん、タクシーチケット預かってるよね?」

その瞬間、血の気が引きました。

あわててポケットの中の紙を確認すると、渡されていたのはコンビニのレシート。タクシーチケットではありません。

つまり私は、支払い方法をきちんと確認しないまま、かなりの距離を走っていたことになります。

料金で言えば、およそ4000円ほどの運行でした。

車内にはあとお一人様。
安全にお送りしなければなりません。

メーターが上がるたびに焦りが増える

私はメーターをちらりと見ました。

5000円。

6000円。

数字が上がるたびに、胸の奥がざわつきます。

「もし連絡がつかなかったらどうなる?」

そんな考えが頭をよぎりました。

タクシーでは売上の扱いに神経を使います。不足が出れば、運転手が負担する場合もあるからです。
だからこの手の“確認漏れ”は、地味ですがかなり怖い。

お二人目のお客様が降車されたとき、メーターは8000円を超えていました。

もちろんご乗車されたお客様から料金を頂く訳にはいきません。
ご乗車されたお二人は、「接待された側」だからです。

私はすぐに配車室へ相談し、歩いて帰った陽気な方へ連絡を取ってもらいました。

でも深夜に別れた相手と、連絡がつくとは限りません。つかない方が自然です。
ほとんど諦めていました。

そして、奇跡はおきた

けれど幸い、その方とは連絡がつきました。
しかもまだ飲んでいたらしく、事情もすぐに伝わりました。

「えっ、それレシートだった? ごめんごめん!」

お客様はきっとお客様用、ご自分用、2枚のタクシーチケットが手元にあることを確認されたのでしょう。

「奇跡が起きたー!」

私は深夜の路上でガッツポーズをしました。

その後、その陽気な方が帰りの便で“指名”してくださって、今度はきちんと乗車。

2枚のタクシーチケットを受け取りました。
さっきまでの冷や汗が嘘みたいに、帰り道は二人で大笑いしながら走りました。

深夜のタクシーで学んだこと

深夜のタクシーは、お酒と会話の勢いでいろんなことが起きます。

でもこの夜にあらためて思ったのは、こういう場面ほど支払い方法を早めに確認しておくことの大切さでした。

現金なのか。チケットなのか。それとも別の方法なのか。
そして、受けと取った「紙切れ」の違和感。

ほんのひと言確認するだけで、運転手もお客様もずいぶん安心できます。
便利な時代でも、最後に頼りになるのはやっぱり基本です。

深夜のタクシーには、ときどきこういう“ヒヤッとする夜”があります。
でもそのたびに、運転手としての基本を思い出させてもらっている気がします。


ライター:けんしろ

現役タクシードライバー。
日々さまざまなお客様と向き合う。現場での経験をもとに、移動の裏側にある人間模様や、サービス業における対応力について発信。密室空間だからこそ見える感情の機微を大切に、実体験をもとにしたコラムを執筆している。