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最終話直前で明かされた“生々しい展開”… 淡々と映された“ショッキングな色模様”から目が離せない【水曜ドラマ】

  • 2026.3.25

演技を見せることに特化した淡々とした演出と杉咲花が演じるヒロインの人物造形が物議を呼んだ恋愛ドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』が、いよいよ最終回を迎える。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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『冬のなんかさ、春のなんかね』第9話(C)日本テレビ

本作は、小説家の土田文菜(杉咲花)が主人公のラブストーリーだ。
文菜は、夜のコインランドリーで知り合った美容師の佐伯ゆきお(成田凌)と付き合っていたが、実は小説家の先輩・山田線(内堀太郎)とも二人だけで居酒屋やホテルに行く関係だった。
文菜は過去の様々な恋愛経験が原因で、きちんと人を好きになって相手と向き合うことを避けるようになっていた。

NHK連続テレビ小説『おちょやん』や、医療ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』といった作品での演技が高く評価されている国民的人気女優の杉咲花が、平然と浮気をする女性を演じたことは衝撃だった。
同時に驚いたのが文菜の人物造形で「魔性の女」という言葉では片付けられない複雑な内面を抱えた女性に思えた。夜のコインランドリーで知り合ったゆきおと仲良くなっていく彼女の姿は妖精のようにかわいくてどこか幻想的だったが、一方で彼女が古着屋で働いている姿や山田と居酒屋で飲んでいるシーンはとても生々しく、何気なく立ち寄った居酒屋や喫茶店に、文菜がいてもおかしくない実在感が存在する。

監督と脚本を担当する今泉力哉は、映画『愛がなんだ』やAmazon Prime Videoで配信された連続ドラマ『1122 いいふうふ』といった現代の若者の性と恋愛を描いた作品が高く評価されており、淡々としたトーンの映像で役者の芝居を丁寧に撮る演出に定評がある。
『冬のなんかさ、春のなんかね』は、これまで今泉が作ってきた作品の延長線上にある連続ドラマだが、水曜ドラマ(日本テレビ系水曜夜10時枠)という民放のプライムタイムで放送された時の異物感はすさまじいものがあり、どのシーンも目が離せなかった。

過去の恋愛を通して見えてくる文菜の心の中

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『冬のなんかさ、春のなんかね』第9話(C)日本テレビ

文菜は恋人のゆきおと付き合いながら、先輩の山田との関係を続けていく。
そんな彼女に片思いしているのが、かつて同じバイト先の先輩だった早瀬小太郎(岡山天音)で、最終的に文菜がこの3人の誰かを選ぶ物語となるのではないかと序盤は思われた。
一方で深く掘り下げられていくのが、文菜が過去に恋した男たちとの関係だ。
第3話では、高校時代に文菜が付き合っていたが大学進学で遠距離恋愛となったことで別れた柴咲秀(倉悠貴)。
第4話では、大学卒業の前後に付き合っていて、文菜が小説を書くきっかけとなった売れっ子小説家の小林二胡(栁俊太郎)。
第5話では、大学3年生の時に告白されて付き合ったが、付き合って2か月で別れたいと言われた佃武(細田佳央太)。
そして、第6話では、2年前に文菜がすごく好きだったが、想いが成就しなかった音楽関係の仕事をしている田端亮介(松島聡)との過去が描かれた。

主人公の女性が過去に好きだった男性がこんなに大勢登場するドラマもめずらしいが、その時々の文菜の心情を杉咲花が繊細な演技で紐解いていくため、当初は何を考えているのかわからない存在に思えた文菜の気持ちが次第に理解できるようになっていく。
それはゆきおや山田といった他の登場人物に対しても同様で、自分とはかけ離れた存在に思えた各登場人物の心情が次第に理解できるようになってくると、どの登場人物も愛おしい存在へと変わっていく。
おそらく、理解できない存在に思えた文菜たちのことを、映像と芝居を通して少しでも身近な存在だと感じてほしいというのが、今泉力哉たち作り手の願いだったのではないかと思う。

最終話直前で明らかとなったゆきおの本当の気持ち

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『冬のなんかさ、春のなんかね』第9話(C)日本テレビ

ゆきおと温泉旅行をした文菜は、自分の中にあるゆきおに対する気持ちに気付き、山田と別れて、ゆきおときちんと向き合おうと決意する。だが、ゆきおは文菜との関係に苦しさを感じており、彼女と別れたいと考えていた。

恋愛には、こういう悲しいすれ違いもあるよなぁと思い、切なくなったが、ここでゆきおが自分の心情を告白する相手が、ゆきおと同じ美容室で働く同僚の紗枝(久保史緒里)だというのが、このドラマならではの残酷さだと言える。
紗枝はゆきおに対して恋愛感情を持っており、会話から察するにゆきおもまた浮気をしていたということなのだろう。
普通のドラマならとてもショッキングな場面だが、本作では、家に届いた荷物をゆきおが受け取る場面から始まり、部屋に戻ると彼女が座っていて、二人がいっしょに食事をする姿がさらっと描かれていたため、自然な出来事として受け入れてしまった。
淡々とした抑制された映像が続くため、どれだけショッキングなシチュエーションを描いても自然な出来事に見えてしまうのが『冬のなんかさ、春のなんかね』の面白さだが、淡々と描いているからこそゆきおと紗枝の食事のシーンは生々しく衝撃だった。

第9話終盤、文菜はゆきおとコインランドリーで待ち合わせをした後、どこかへ向かう。そこに『冬のなんかさ、春のなんかね』というタイトルが表示されて第9話は終わる。
第1話冒頭のコインランドリーでの二人の出会いと対比されたきれいなシーンである。
そのため、ここで終わっても納得してしまうくらい綺麗な終わり方だったが、おそらく最終回となる第10話では文菜がゆきおと向き合い、自分の気持ちを伝える場面が描かれるのだろう。文菜にとっては苦い別れとなりそうだが、彼女がきちんとゆきおと向き合えるのなら幸せな最終回である。


日本テレビ系 水曜ドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』毎週水曜よる10時~

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。