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“闇の朝ドラ”とも言える【Netflixドラマ】 地上波では“実現できなかった”であろう話題作

  • 2026.5.13

4月27日からNetflixで配信がスタートした『地獄に堕ちるわよ』は、占い師として一世を風靡した細木数子(戸田恵梨香)の半生を描いた全9話の連続ドラマだ。

※以下本文には配信内容が含まれます。

物語は2005年から始まり、細木数子の小説を書くために作家の魚澄美乃里(伊藤沙莉)が、彼女の過去の話を聞く場面から始まる。
その後、舞台は1946年となり、数子の幼少期が語られる。 戦争で焼け野原となった町で数子は家族と共に生きることに必死だった。
やがて1955年になると町は少しずつ復興していたが、細木家の暮らしは豊かではなかった。高校生になった数子は貧乏から抜け出すために、年齢を詐称してキャバレーで働くようになる。
数子はキャバレーのオーナー・落合元(奥野瑛太)に恋をし、二人は結ばれる。いつか銀座に店を出したいという落合の夢を一緒に叶えたいと思った数子だったが、落合はキャバレーの客と数子の愛人契約を勝手に結び、数子を売り飛ばそうとする。

闇の朝ドラとしての『地獄に堕ちるわよ』

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左から戸田恵梨香、伊藤沙莉 (C)SANKEI

第1話では、幼少期から青春期にかけての数子の姿が描かれる。 劇中では、数子の姿と、経済発展して豊かになっていく昭和~平成の日本の姿と重ねて描かれるのだが、実在した女性をモデルにした主人公の活躍を通して戦後史を見せていく構成はNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)のようだ。

細木数子を演じる戸田恵梨香は2019年度後期の朝ドラ『スカーレット』でヒロインを演じており、もう一人の主人公と言える作家の魚澄を演じる伊藤沙莉は2024年度前期の朝ドラ『虎に翼』のヒロインを演じている。
つまり、本作は朝ドラヒロインを演じた二人の女優が物語の中心に存在する。
そして、男に食い物にされた数子が、商売を成功させることで何度も復活し、やがて占い師として大成していく姿は、女性の自己実現を描いてきた朝ドラを彷彿とさせる展開だと言える。だが、品行方正な朝ドラヒロインとは違い、細木数子は悪のカリスマ。ヤクザと繋がりがあり、占いで相談に来た客に高額の墓石を売りつける霊感商法が問題となった細木数子の人生はダークな要素が多すぎて、朝ドラで描くことは絶対にできない女性だ。 また、過去にテレビ番組にレギュラー出演していた彼女の物語を作ることは、民放のテレビ局では難しいだろう。
その意味で本作は、Netflixという動画配信サービスでなければ実現できなかったドラマだと言える。

Netflixは、『全裸監督』や『極悪女王』といった作品で、近過去を舞台にした実在する人物を主人公にした実録モノの連続ドラマを多数手掛け、高い評価を獲得してきた。 社会秩序から外れたアウトローの悪人を主人公にしたドラマをNetflixは作り続けているが、悪の側から世界を描くことによって生まれる禍々しい迫力は、かつては民放のテレビ番組が担っていたものだ。
それは『地獄に堕ちるわよ』の第1話冒頭で描かれた細木数子が出演する番組での過激な発言を観ればよく理解できる。
あのシーンではテレビ局の社員が総出で細木数子に媚びを売る場面が露悪的に描かれており、当時のテレビを批判しているように見える。 だが一方で、尊大な態度でズバズバ過激な発言を繰り返す数子の姿は力強いカリスマ性があり、ああいう胡散くさい人物を電波に乗せる自由さと度胸が当時のテレビには存在したが、その力を失ってしまった今のテレビを嘲笑っているようにも感じる。 何より、戦後から2000年代までという長いスパンの物語を描けたことは、Netflixドラマにとって新境地だったのではないかと思う。
朝ドラでは触れることができない闇の偉人が日本にはまだ大勢いる。細木数子のような闇のカリスマを主人公にした歴史性のあるドラマを作り続けることができれば、Netflixドラマは、これまで以上に強い存在感を見せることができる。その意味で本作は、大きな鉱脈を掘り当てたといえる。

どこまでが事実なのか?

配信されるとすぐにSNSで話題になった『地獄に堕ちるわよ』だが、細木数子の人生をどこまで忠実に描けているかについては評価が分かれており、よくぞここまで描いたと絶賛する意見がある一方、踏み込みが甘いという批判も少なくない。
また、戸田恵梨香が細木数子と似ていないというビジュアル面での批判も多い。
確かに第1話冒頭で描かれたテレビ番組に出演している時代の数子の姿は今も多くの視聴者の記憶に残っているため、ビジュアルを比較されるのは仕方がないとは思うが、本作の真骨頂は10代の無知な少女だった数子が男に騙される経験を経たことで、悪のカリスマとして覚醒していく姿にある。話が進むにつれて、数子は成長し、男と対等に渡り合い多くの人を魅了する人間としての凄みを獲得していく。やがて単純な物真似とは異なる戸田恵梨香ならではのカリスマ性のある細木数子が完成するのだが、その数子が変わっていく過程こそが本作の見どころだ。
また、描写が甘いと感じた方は、第1話の数子の過去は、彼女が話したことが映像化されたものであることを意識して、作品を観てほしい。

人は自分の過去を語る時に都合の悪い部分は語らず美化してしまうものだ。ましてや自分自身の小説を書かせるために彼女は自分の過去を語っているのである。
そこに何らかの意図が介入しないはずがない。
そのことを踏まえて観ると、作家の魚澄がもう一人の主人公として配置されたことの意図が、おのずとわかるはずだ。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

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