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世界最古級の植物画を発見、8000年前の「数学的思考」の証拠だった

  • 2026.2.12
最古級の植物画に見られる「数学的思考」の証拠 / Credit:Yosef Garfinkel(HUJI)et al., Journal of World Prehistory(2025), CC BY 4.0

人間の数学的思考はいつから存在していたのでしょうか。

数を記録する文字が生まれた後でしょうか。

それとも、もっと前から私たちは「分ける」「揃える」「数える」という感覚を持っていたのでしょうか。

イスラエルのエルサレム・ヘブライ大学(HUJI)の研究チームは、その問いに新たな視点を与えました。

約8000年前の北メソポタミアの土器に描かれた植物模様が、実は空間を分割する能力、すなわち初期の「数学的思考」を示している可能性があるというのです。

本研究は2025年12月5日付で『Journal of World Prehistory』に掲載されました。

目次

  • 8000年前の植物画を分析
  • 花弁の数に潜む「数学的な思考」

8000年前の植物画を分析

先史時代の芸術といえば、洞窟壁画に描かれた動物や人間像を思い浮かべる人が多いでしょう。

実際、旧石器時代から新石器時代にかけての芸術表現は、主に動物や人物が中心でした。

ところが、紀元前6200〜紀元前5500年頃に北メソポタミアで栄えたハラフ文化の彩文土器には、花や枝、低木、樹木といった植物モチーフが体系的に描かれていたのです。

研究チームは、ハラフ文化に属する29遺跡の発掘報告を横断的に精査しました。

全体としては数万点規模の彩文土器の資料があり、そのうち統計的に数えられた5148点の装飾土器の中から、植物が描かれた786点を抽出して分析しています。(※画像はこちら

これまで幾何学模様として扱われてきた文様の中に、植物として解釈できる図像が多数含まれていることに着目したのです。

その結果、植物モチーフは大きく4種類に分類されました。

花が375例、枝が291例、低木が90例、樹木が30例です。

注目すべき点は、これらが特定の一遺跡に限られた現象ではなく、ハラフ文化のほとんどの遺跡で確認される広がりを持っていたことです。

つまり植物は、偶然の装飾ではなく、意識的に選ばれた主題だったと考えられます。

さらにこの「最古級の植物画」からは、「数学的」な意味を読み取ることができます。次項で確認してみましょう。

花弁の数に潜む「数学的な思考」

研究の最も注目すべき発見は、花の描写に見られる花弁の数です。

いくつかの器の底部には、円形に広がる花が精密な対称構造で描かれています。

その花弁数は、4、8、16、32、さらには別の配置では64という数でした。

花弁の数は4、8、16、32、64で描かれている / Credit:Yosef Garfinkel(HUJI)et al., Journal of World Prehistory(2025), CC BY 4.0

これらの数は偶然ではなく、4から始まり2倍ずつ増えていく並び、つまり幾何級数を形成しています。

これは円をきちんと同じ大きさに分ける力がなければ実現できません。

たとえば花弁を16枚描くには、丸い面を16等分し、中心から同じ角度で線を引く必要があります。

つまり、空間を正確に分ける感覚があったことを示しているのです。

研究者たちは、これを「数学的な思考」の証拠だと考えています。

表現抽象的な数式や記号体系があったということではなく、文字よりも数千年も前に、生活の中で培われた分割や均衡の感覚が芸術に反映された可能性を指摘しているのです。

なぜそのような能力が必要だったのでしょうか。

研究者らは、共同耕作を行う村落社会における、収穫物を公平に分け合うといった場面で、「きっちり等分する力」が重要だった可能性を挙げています。

誰かが多く取りすぎないようにするためには、「同じ大きさに分ける」「同じ数だけ配る」といった感覚が自然と磨かれます。

その実践的な経験が、器の装飾という形で可視化されたのかもしれません。

さらに興味深いのは、描かれている植物が穀物や果樹などの食用作物ではないという点です。

農耕社会であるにもかかわらず、実用的な作物ではなく、観賞的な花や枝が中心に描かれていました。

これは儀礼的な豊穣祈願というよりも、美的な関心が背景にあった可能性を示唆しています。

研究者たちは、花の色や形の整った対称性が、人の気分を明るくすることも指摘しており、植物モチーフは「役に立つから」ではなく「見ていて気持ちが良いから」選ばれたと考えています。

つまりハラフ文化の土器は、単なる装飾品ではなく、空間認識、対称性の理解、分割の概念といった抽象的思考の痕跡を内包していた可能性があります。

文字も数字も存在しない時代に、すでに人々は「分ける」「揃える」「倍にする」という概念を感覚的に操っていたのかもしれません。

参考文献

World’s Oldest Botanical Art Just Revealed The World’s Earliest Mathematical Thinking
https://www.iflscience.com/worlds-oldest-botanical-art-just-revealed-the-worlds-earliest-mathematical-thinking-82513

World’s earliest botanical art discovered and evidence of prehistoric mathematical thinking
https://www.eurekalert.org/news-releases/1109316

元論文

The Earliest Vegetal Motifs in Prehistoric Art: Painted Halafian Pottery of Mesopotamia and Prehistoric Mathematical Thinking
https://doi.org/10.1007/s10963-025-09200-9

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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