1. トップ
  2. 狂気的ヌルヌル…南沙良の体当たり演技がヤバすぎる!変態VS怪異が楽しい『禍禍女』をレビュー

狂気的ヌルヌル…南沙良の体当たり演技がヤバすぎる!変態VS怪異が楽しい『禍禍女』をレビュー

  • 2026.2.11

お笑い芸人、俳優、ラッパー、声優、ラジオパーソナリティとマルチに活動するゆりやんレトリィバァの初監督作『禍禍女』が公開中だ。自身の恋愛経験を投影させた本作は、愛を暴走させていくヒロインと謎めいた存在“禍禍女”を中心に、ホラーや恋愛映画の枠を超えた予測不能なドラマを繰り広げる。

【写真を見る】同じ学校に通う男性に愛情を向ける早苗役・南沙良の演技が狂気的!

正直、私はこの映画を完全に舐めていた。「ゆりやんレトリィバァの初監督作だなんて、彼女のお笑いの世界をちょっと膨らませたくらいだろう」。そう思い込んでいる節があったのだ。ところが、蓋を開けてみてビックリ。これはエンタテインメントとして非常に発想豊かでおもしろい。次にどんな展開が飛びだすのかワクワクするあまり、私は途中からゆりやん監督作であることさえすっかり忘れていたほどだ。

彼女に愛されたら終わり?男たちを恐怖のどん底に陥れる“禍禍女”

皆さんは“禍禍女”をご存知だろうか?もしも夜道で「パッ…パッ…」と謎の破裂音が聞こえてきたならどうか気をつけて。それはどこかで彼女がじっと見つめているサインだから。身長2メートルを超す巨体に、ボッサボサのロングヘア、しかもピンクなドレスに身を包んだ人影。好意を寄せる男性の元に現れては、様々な方法で自分の気持ちを受け入れてもらおうとアピールするのだが…。彼女に愛されたら(=憑かれたら)命だけでなく、両目まで奪われてしまうのだから恐ろしい限りである。

南沙良というもう一人の怪物、ここに爆誕

本作は、無数の男たちが次々と禍禍女の餌食となりゆくさまをチャプター形式で描いていく。彼らはまったく関係性のない人たちなのに、なぜ一様に犠牲者となったのか?そしてそもそも禍禍女とは何者なのか?

【写真を見る】同じ学校に通う男性に愛情を向ける早苗役・南沙良の演技が狂気的! [c]2026 K2P
【写真を見る】同じ学校に通う男性に愛情を向ける早苗役・南沙良の演技が狂気的! [c]2026 K2P

同じ美術大学に通う、大好きな「ひろしくん」(前田旺志郎)を亡くしたことをきっかけに、この謎をひたすら追究し始めるのが本作のヒロイン、上原早苗だ。演じるのは南沙良。『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)をはじめ揺るぎない演技で我々を魅了する実力派女優である。

なるほど、主演の彼女は、まさに我々の目となり耳となり、本作を解決へと導く頼もしい存在…なんて安心できると思ったら大間違い!クールで物静かな存在感を逆手に取り、物語が進むごとに我々を驚愕させ、衝撃を与え続ける。

もはや怪演という言葉では足りない。怪人と呼んでもいいくらいだろう。なぜなら早苗は禍禍女に匹敵するくらいの異様なストーカーで、自宅内にはひろしくんをかたどったオブジェが並ぶ。指を打ち鳴らし、彼への愛を表現するミュージカル然としたステップを披露したかと思えば、今度はまさかのローションを頭からかぶり、ヌルヌル状態になったまま、巨大な顔面オブジェの口へ…自分でなにを書いてるのか頭が痛くなってきたが、とにかく変態である。恍惚の表情で純愛に身を捧げる変態。これほどぶっとんだ南を観るのは初めてである。

恐怖のさらに先をゆく、ゆりやんの演出術

一触即発状態の早苗と恋のライバルの瑠美(アオイヤマダ) [c]2026 K2P
一触即発状態の早苗と恋のライバルの瑠美(アオイヤマダ) [c]2026 K2P

でも我々は、そんな南の背後に、ほかでもないエンターテイナー、ゆりやんの存在を意識すべきなのだろう。監督としての彼女はきっと、細かなステップから身のこなし、顔の口元のクイッとした印象的なニュアンスに至るまで、率先してあれこれ手本を見せながら演技プランを示したのではないだろうか。特にひろしくんの遺影の前で繰り広げられる女同士のバトルは、最小限の動きと表情だけで2人の間に流れる究極の泥試合を描いており、試合終了のゴングが鳴るその瞬間までクレイジーかつ秀逸なワンシーンに仕上がっている。

監督ゆりやんの才能が際立つ場面はほかにもたくさん。例えば、早苗の決め台詞が決まった瞬間から、突如チャンネルをザッピングするように始まる恋愛リアリティショー(的なチャプター)。そのアイデアに思わず「やられた!」と面食らった。禍禍女に呪われるという道筋は同じでも、そこに至るまでの道筋をこれほどバリエーション豊かに提示できる発想力がすばらしいし、これらの爆弾のような演出で観客をとことん翻弄できるのも、ゆりやんの肝っ玉の大きさゆえ、という気がしてならない。

男女5人でシェアハウス中の明人(九条ジョー)にも魔の手が迫る… [c]2026 K2P
男女5人でシェアハウス中の明人(九条ジョー)にも魔の手が迫る… [c]2026 K2P

一方で、恐怖演出も本当にしっかりしている。しっとりと始まり、徐々に空気を醸成させ、ドスンと落とすかと思えば、さらに輪をかけた展開で楽しませる。単なるエピソードの集積かと思っていた構成も、後半になって密に連携して真相への包囲網が狭まっていく。実は思った以上に複雑な脚本構造ではあるのだが、ゆりやんの手にかかると、怖すぎることなく、楽しさを保ちつつ、それでいて我々の予想や常識を軽々と超えてくるのだ。

主人公、早苗と禍禍女をつなぐものとは?

ゆりやん演出で最高のシーンとして挙げたいのが、巨大オブジェの「口」を介し、時空を飛び越える場面である。なぜヌルヌルなのか。なぜここから禍禍女の出現場所へ移動が可能なのか。説明はなにもない。が、それでもストーリーが成立するのは、もはやなにが起きても受け入れ可能な世界観を構築しているから。そしてこの映画は、ホラーに終始せず、核心をしっかりと伝えようとしている点にも注目したい。

早苗のまっすぐな愛情はしだいに暴走し、狂気を孕んでいく [c]2026 K2P
早苗のまっすぐな愛情はしだいに暴走し、狂気を孕んでいく [c]2026 K2P

そもそも物語の中心にいるのは禍禍女で、早苗はそれを追いかける側。2人の対決は避けることのできない一つの宿命である。と同時に、彼らには共通項も多い。なにより両者の根底には「執着」がある。禍禍女が犠牲者の目を収集するのも、自分だけを見てほしい、ほかの人へ目を逸らすなんて絶対に許さない、という強い情念の表れのように思う。

一方で早苗はひろしくんが死んだというのに、部屋に帰ると悲しむのではなく、むしろ彼の特別だったライバルが許せなくて「くやしい!」と泣き喚く。実体としてのひろしくんは死んでも、早苗のなかで偶像化された彼はずっと存在し続けているかのようだ。

この、愛をこじらせた執着とどう決着をつけるのかがポイントであり、おそらく禍禍女も早苗も、別個の存在でありながら、どこかで重なり合う者同士。だからこそ例の「口」はなにか常識を超えた情念の力で、互いを強く引きつけるのだろう。

高圧的な夫と幼い息子と共に暮らしている玲子(田中麗奈) [c]2026 K2P
高圧的な夫と幼い息子と共に暮らしている玲子(田中麗奈) [c]2026 K2P

そして、田中麗奈演じる女性、渡瀬玲子のエピソードにも引き寄せられた。彼女は、夫という化け物に支配され身動きが取れなくなっている人物。しかし、愛する息子を守るため、早苗とは違うアプローチで禍禍女に立ち向かっていく。様々なバックボーンを持つ人物たちがそれぞれの場所で連動するかのように、己の本心と向き合い、目の前の怪物と対峙して、情念を断ち切り、自分の足で人生を踏みだそうとする。

恐怖、笑い、驚き…いくつもの層を超えた先にある本作の核心には、過去のしがらみや感情を乗り越えて前に進むあらゆる人を応援するメッセージが込められているかのよう。男女の性差など関係ない。本作を見終わった果てには、スカッと晴々とした想いが待ち受けているはずである。

文/牛津厚信

元記事で読む
の記事をもっとみる