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欧州の若手ソリストが19世紀のバレエを舞った、ラ・ボーテ・ドゥ・ラ・ダンス。

  • 2026.2.10

ダンス教師として活躍するジル・イゾアールがアーティスティック・ディレクターとして、エカテリナ・アナポルスカヤとともにオーガナイズするガラ『Les Beautés de la danse』。パリ・オペラ座と海外のバレエ団のトップクラスのソリストが一堂に会して、クラシック作品を踊るというもので、3月8日に第6回目の公演が予定されている。

それに先立って1月30日、『Les Beautés de la danse』の特別バージョンとして世界の若手ソリストによる『19世紀のバレエの宵』が開催された。会場はいつも通り、パリ隣接のブローニュのラ・セーヌ・ミュージカル。出演したのはパリ・オペラ座からイネス・マッキントッシュ、カン・ホヤン、クララ・ムセーニュ、フランチェスコ・ムラ、ロレンツォ・レッリ、シェール・ワグマンの6名。ミラノ・スカラ座からはリンダ・ジュベッリ、アニェーゼ・ディ・クレメンテ、ナヴリン・ターンブル、エドワード・クーパーの4名。英国ロイヤル・バレエ団からはマルコ・マスキアーリに代わって中尾太亮、ヴィオラ・パントゥーゾに代わったのは英国バーミンガム国立バレエ団の栗原ゆう。12名全員が20代という、若さあふれる公演だった。

出演した12名のダンサーとヴァイオリニストのティエリー・プーレ(後列)、ガラをオーガナイズするジル・イゾアール(後列中央)、エカテリナ・アナポルスカヤ(中列右)。photography: Francette Levieux

今回のプログラムを構成したのは、タイトルにあるように19世紀に作られた10作品。ミラノ・スカラ座バレエ団のリンダ・ジュべリ、アニェーゼ・デイ・クレメンテ、エドワード・クーパーによるピエール・ラコット版『パキータ』のパ・ド・トロワで開幕した。この時代はなんといってもロマンティック・バレエの時代である。カン・ホヤンとフランチェスコ・ムラによる『ラ・シルフィード』(1832年)、カン・ホヤンとロレンツォ・レッリによる『パピヨン』(1860年)、リンダ・ジュベッリとナヴリン・ターンブルによる『ゼンツァーノの花祭り』(1858年)の3作品。どれもダンサーが身体から自然に放つ叙情性、柔らかなアームス、軽やかなステップにより、時代の雰囲気を匂わせながらも古さを感じさせないパフォーマンスで観客を魅了した。ダンスのガラはどうしてもテクニックを競い合うプログラムになりがちだけれど、この晩、公演の質と格を上げたのがこの3作品の存在だったと言える。

フレッシュな幕開けは『パキータ』のパ・ド・トロワで。左からアニェーゼ・ディ・クレメンテ、エドワード・クーパー、リンダ・ジュベッリ。photography: Francette Levieux

ブルノンヴィル版『ラ・シルヴィード』、カン・ホヤンとフランチェスコ・ムラ。photography: Omnia Pro Motu

『ゼンツァーノの花祭り』ナヴリン・ターンブルとリンダ・ジュベッリ。photography: Francette Levieux

『ル・パピヨン』。ロレンツォ・レッリとカン・ホヤン。photography: Omnia Pro Motu

その3作品中ふたつを踊ったカン・ホヤンはパリ・オペラ座バレエ団に2018年に入団し、2025年からプルミエール・ダンスーズとして活躍している。しっかりしたテクニックの持ち主だがそれをデモンストレーション的に見せることはせず、常に芸術面を込めて繊細に踊るダンサーである。『ラ・シルフィード』『パピヨン』の2作品では、どちらも背に羽をつけたコスチュームを纏い、浮遊感ある軽やかでフェミニンなダンスをステージ上で披露した。ピュアでありながらセンシュアリティを感じさせ、かついたずらっ子のような面もうまく表現。あまり踊られることのない『パピヨン』だが、これはマリー・タリオーニによる唯一の創作でオッフェンバックの音楽で1860年にパリ・オペラ座で初演された2幕、4タブローの作品である。1976年にエトワールのドミニク・カルフーニをパートナーに、ピエール・ラコットが自ら再創作したパ・ド・ドゥを踊った。その後彼は1982年、ローマ・オペラ座のために完全版を再創作している。蝶々に姿を変えられた首長の娘をホヤンが踊り、パートナーのハンサムな王子役を務めたのはロレンツォ・レッリ。カルポー・ダンス賞を1月末に受賞した、将来を嘱望されているダンサーだ。ふたりはパリ・オペラ座の前シーズンに『眠れる森の美女』の主役を共に初役で踊っている。カンパニーの新世代ダンサーのトップカップルと言えるふたりは、4月オペラ・バスティーユにて『ロミオとジュリエット』で再び共演する。

カン・ホヤン。左は『ラ・シルフィード』、右は『ル・パピヨン』。白いロマンティック・チュチュが似合う、たおやかな踊りで観客を魅了した。photography: (左)Omnia Pro Motu、(右)Francette Levieux

ロレンツォ・レッリはイネス・マッキントッシュと『白鳥の湖』第2幕のパ・ド・ドゥも踊った。photography: Francette Levieux

この公演でパリ・デビューしたナヴリン・ターンブルのダンスは往年のバレエファンの声を借りると、3年前に亡くなったミカエル・ドナールを思わせるそうだ。『ゼンツァーノの花祭り』でのつま先のしなやかさ、ひざ下の繊細で美しい動きを見ていると『リーズの結婚』でフルート吹きを踊った若きマチアス・エイマンを思い出させる。シドニー生まれの彼は2015年にローザンヌ国際コンクールに参加し、その結果2015年から3年間ジョン・クランコ・スクールで学んでいる。そして、2018年マニュエル・ルグリが芸術監督を務めるウィーン国立歌劇場に入団。そしてすぐに彼は『シルヴィア』のアミンタ、『くるみ割り人形』のフランツ役などを託されたのだ。2020~21年にバイエルン国立バレエでソリストとして踊ったのち、2021年にルグリが芸術監督のミラノ・スカラ座にソリストとして入団した。そして今年1月に『眠れる森の美女』のプリンス役を踊って、プリンシパルダンサーに任命された。今回パリで、その中のプリンスのヴァリアッションが踊られた。踊り手によってはひどく単調で長いソロとなってしまうのだが、ナヴリンの感情こもった滑らかで端正な踊りはいつまでも続いて欲しいと願うほどの美しさだった。『ゼンツァーノの花祭り』でも同様である。この晩のガラで彼のダンスを初めて見たパリの観客の中には、ウイーンで彼を発見した時のルグリの喜びが手に取るように感じられたのではないだろうか。

『眠れる森の美女』のプリンスのヴァリアッションを踊るナヴリン・ターンブル。日本では昨年夏にプレミアム・シアターでTV放映された『ペール・ギュント』で主役を踊る彼に注目した人もいるのでは? 技術、芸術性、エレガンスを備えたダンサーだ。photography: Francette Levieux

幕間20分を挟み、プログラムは合計10作品。締めくくりとなったのは、イネス・マッキントッシュとシェール・ワグマンによる『海賊』(1856年/マリウス・プティパ)だった。テクニックで魅せるシェール・ワグマンと歩調ぴったりのイネス・マッキントッシュ。このパ・ド・ドゥは時に超技巧のやりとりに終わってしまいがちだが、イネスが彼女特有の憂いのあるポエジーを込めて作品に深みを与えていた。シェールの回転も跳躍も見せ所となり、フィナーレを飾る作品としてふさわしいパフォーマンスで拍手を浴びていた。

『海賊』シェール・ワグマンとイネス・マッキントッシュ。photography: Francette Levieux

若者版のレ・ボーテ・ドゥ・ラ・ダンス。これは来年も開催されるのだろうか?と気になるところだ。ジル・イゾアールはこの夏東京で『エスプリ・ドゥ・ラ・ダンス』を開催する。パリ・オペラ座のダンサーを中心にした構成のガラだという。このラ・セーヌ・ミュジカルの舞台でも活躍した若手の参加が期待できそうだ。公演の詳細を主催者NBSが2月中旬に発表するというので、楽しみに待とう。

パリで3月8日に開催される第6回『レ・ボーテ・ドゥ・ラ・ダンス』。出演するのはパリ・オペラ座からはマチュー・ガニオ、ポール・マルク、英国ロイヤル・バレエ団からはマヤラ・マグリ、マシュー・ボールといったこの公演でおなじみの顔ぶれに加え、今回はアリナ・コジョカルが参加する。彼女はフレデリック・アシュトンの『マルグリットとアルマン』をマシュー・ボール、エステバン・ベルランガと踊る予定だ。また今回初めてミラノ・スカラ座からニコレッタ・マンニとティモフェイ・アンドリヤシャンコの名前もあがっている。開催ごとに公演内容が厚みを増してゆくガラ。あいにくと発表されているオルガ・スミルノヴァは健康上の理由で参加できなくなったそうだが、第6回も観客席を沸かす良いプログラムが披露されることだろう。

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1月30日の公演プログラム『パキータ』パ・ド・トロワ/リンダ・ジゥベリ、アニェーゼ・ディ・クレメンテ、エドワード・クーパー(ミラノ・スカラ座バレエ団)『ラ・シルフィード』/カン・ホヤン、フランチェスコ・ムラ (パリ・オペラ座バレエ団)『白鳥の湖』第2幕のパ・ド・ドゥ/イネス・マッキントッシュ、ロレンツォ・レッリ(パリ・オペラ座バレエ団)『眠れる森の美女』プリンスのヴァリアッション/ナヴリン・ターンブル(ミラノ・スカラ座バレエ団)『白鳥の湖』第3幕のパ・ド・ドゥ/クララ・ムセーニュ、シェール・ワグマン(パリ・オペラ座バレエ団)****『ル・パピヨン』パ・ド・ドゥ/カン・ホヤン、ロレンツォ・レッリ(パリ・オペラ座バレエ団)『眠れる森の美女』第3幕 パ・ド・ドゥ/栗原ゆう(バーミンガム国立バレエ団)、中尾太亮(英国ロイヤル・バレエ団)『ドン・キホーテ』パ・ド・ドゥ/クララ・ムセーニュ、フランチェスコ・ムラ(パリ・オペラ座バレエ団)『ゼンツァーノの花祭り』/リンダ・ジゥベリ、ナヴリン・ターンブル(ミラノ・スカラ座バレエ団)『海賊』/イネス・マッキントッシュ、シェール・ワグマン(パリ・オペラ座バレエ団)

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