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「普通の肩こりとは違う」娘が見つけた異変。88歳・養老孟司先生のがん治療との折り合いをつける方法

  • 2026.2.8

「普通の肩こりとは違う」娘が見つけた異変。88歳・養老孟司先生のがん治療との折り合いをつける方法

2020年に心筋梗塞、2024年にはがん、そして2025年4月には再発がんが見つかった養老孟司先生。88歳を迎えたいま、治療を受けながら淡々と日々を重ねる姿を、教え子であり医師の中川恵一先生と共に綴った1冊が、いま注目を集めています。『病気と折り合う芸がいる』(養老孟司・中川恵一共著/エクスナレッジ刊)から、一部抜粋してお届けします。第3回は、対談—抗がん剤治療と副作用について。

つらい治療を受けて延命するのか、体調のよい状態を優先するのか

中川 すでに抗がん剤治療を2回終えましたが、今回は少し副作用が出ているようですね。

養老 ちょっと厳しいかな。

中川 それはそうだと思います。昨年の治療では自覚的な副作用はほとんどありませんでしたから。

養老 副作用かどうかはわかりませんが、体力はなくなってきましたね。ちょっとだるいとか元気がないといった類いの。でもそれは年のせいかもしれません。普通、90歳近くになって「元気です」と言うのもおかしいでしょう。がんの治療をしたからといって、その後で元気になるなんて、あるわけないんですよ。

中川 だるいとか、元気がないというのは、抗がん剤の副作用ですね。治療中だけでなく、少し時間が経ってから副作用が出ることもあります。養老先生の場合、副作用が少ないほうだと思いますが、それでも副作用があるということです。ただ、今くらいの副作用でしたら、あと2回、つまり抗がん剤を4回受けてください。

ただ続けるかどうかは養老先生が決めることです。副作用がきつくなって、「もういいや」と思ったら、やめていいんです。いつも養老先生は文句を言わずに治療を受けていますが、治療をやめたいと思ったなら、養老先生自身が決めなければなりません。

養老 副作用というよりも、生活の質の問題じゃないでしょうか。抗がん剤のために入院したら、1週間病院食を食べながら、病院で寝ていてくださいと言われるわけですから、生活の質がいいとは言えないかもしれません。

中川 患者さんによっては、抗がん剤を続けることが人生みたいな人もいます。がんが完治しないとわかっていても、抗がん剤を続けることが人生の目的になっているような患者さんもいるんです。

私にしたら、それはおかしなことだと思います。治療にはプラスもマイナスもあります。この場合のプラスというのは、単に戸籍上、生きている時間を長くすることが目的になるわけですから。

——つらい治療を受けながら寿命を延ばすのか、残された日々をおだやかに過ごすのか、それを選ぶのは悩ましい問題ですね。

中川 誕生して亡くなるというのは、日本国の場合は戸籍が管理するわけですから、死亡診断書に書かれるまでの時間を長くすることに過ぎません。抗がん剤を続けていれば、そのプラスの恩恵は受けられます。しかし、本人の体調ということになれば、マイナスの要素もあるわけです。それは本人にしかわかりません。

養老先生の体調は私にはわからないので、ご自分で決めなければなりません。ただ、養老先生のご家族が治療を続けてほしいと言う可能性はありますね。

養老 そういうことは抽象的にしか考えられません。さっきの死の具体性とは逆で、この病気は抽象的です。なにしろ病気が悪いと言われるのも、CTとかの結果でしかありませんから。

中川 そうです。がんはそういう病気です。養老先生も、昨年原発がんが見つかったときは、がんが骨に接していたため痛みがあって、それが治療でやわらいで、よくなっていくという具体性がありました。ところが再発のときは症状がまったくありません。だから養老先生にとっては雲をつかむような話なんです。

養老 あの痛みが、がんのせいだと思いませんでした。ずっと肩こりだと思っていたんです。僕はこり性ですから、肩こりがどうしようもなくなると、痛みがともなってくることは昔からよくありました。肩こりは自分の体の一部だと思い込んでいるようなところがありますからね。

中川 お嬢さんが、これは普通の肩こりではないと思って、東大病院の受診を強くすすめたことが、がんの発見につながったわけです。お嬢さんは鍼灸師という職業柄、養老先生の体の異変に気付きやすかったこともあったと思いますが、それ以上に、お父様に対する愛情がすごく強かったのではないでしょうか。

Profile

養老孟司(ようろう・たけし)
1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。'89(平成元)年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。新潮新書『バカの壁』が大ヒット、460万部超えのベストセラーとなる。また新語・流行語大賞、毎日出版文化賞特別賞を受賞した。『養老先生、病院へ行く』『唯脳論』『かけがえのないもの』『手入れという思想』『人生の壁』『まる ありがとう』『ものがわかるということ』など著書多数。

中川恵一(なかがわ・けいいち)
1960年(昭和35)年、東京都月島生まれ。東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部放射線医学教室入局。社会保険中央総合病院放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師、准教授を経て、現在、東京大学大学院医学系研究科 特任教授。2003年~2014年、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。共・著書に『医者にがんと言われたら最初に読む本』『養老先生、病院へ行く』『人生を変える健康学がんを学んで元気に100歳』など多数。

この記事は『病気と折り合う芸がいる』養老孟司・中川恵一共著(エクスナレッジ刊)の内容を、ウェブ記事用に再編集したものです。

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