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Netflixの制作統括が見据える未来と、日本発作品の現在地

  • 2026.2.3

日本におけるNetflix、新たなる挑戦

Photo_ Hiroyuki Tsutsumi for Next on Netflix 2026
Photo: Hiroyuki Tsutsumi for Next on Netflix 2026

日本上陸から2025年で10周年を迎え、契約者数も2024年上半期で1000万世帯を超えました。日本におけるNetflixの立ち位置を今、どう捉えていますか。

この10年でいちばん変わったのは、Netflixが日本の制作に対して、どこまで関与する存在なのか、という認識だと思います。以前は配信先の一つでしたが、いまは多くの作品を通して、制作環境や意思決定のプロセスそのものに、一定の責任を持つ立場になっている。日本映像業界のイノベーションを追求することが、映像業界の活性化にも繋がり、結果、良い作品の循環となって我々のビジネスを伸ばすと信じています。

制作環境への関与という点では、東宝スタジオとの連携が発表になりました。

東宝スタジオのNo.1/No.2ステージを2028年から複数年にわたって使用する契約を結びました。どちらも約260〜300坪規模のサウンドステージで、大規模なセットを組んだり、複数作品を同時に進めたりすることができます。制作キャパシティとしては、従来の2倍以上、年間で最大15本規模の撮影体制が視野に入ってきました。ただ、単に場所を確保するという話ではなくて、企画の段階でスケールやクオリティを理由に諦めなくていい環境をつくる、という意味合いが大きいと思っています。

日本オリジナル作品を作るうえで、以前、坂本さんは「オーセンティック」という言葉を使われたと思います。オーセンティックとは、具体的にはどのような基準になりますか?

私たちが言っているオーセンティックは、物語を作る上でのリアリティを、どう追求しているか、ということです。その描写が、物語の中でちゃんと意味を持っているかどうかを見ています。キャスティングや所作、空気感も含めて、それが作品全体のリアリティにつながっているか。そして日本の文脈の中で考えたときに、嘘がなく、自然に捉えられるかどうか。そのあたりを一つひとつ見ています。

世界的に成功したディズニープラスのシリーズ『SHOGUN/将軍』は米国制作ですが、日本の描き方に関しては「オーセンティック」という言葉を使われていました。

もし日本を舞台とした作品が企画された場合、制作のドライブは基本的に日本のチームが担うのが、私たちのやり方です。日本を題材にする作品の場合、その土地の感覚をどれだけ内側からわかっているかが大事になります。言語だけでなく、文化的な文脈や細かい感覚の部分ですね。そこをどこまで理解できているかで、作品の方向性は変わってくると思います。

「グローバル向けに日本を描く」という考え方と、Netflixは正反対ともいえるアプローチをとるのですね?

最初からグローバルを意識して日本像を作る、というよりは、まず日本向けの描写をきちんと掘り下げることを重視しています。ローカルのチームが中心になって作っていく中で、結果的にグローバルに届くものが出てくる。その順番のほうが自然だと思っています。

その文脈でいうと、韓国発の『イカゲーム』は象徴的な成功例です。『イカゲーム』シリーズが日本チームに与えたインパクトとは?

正直に言えば、あそこまでの成功を事前に予測できた人はいなかったと思います。だからこそ、ヒットには方程式がない、ということをあらためて認識しました。「次も同じことをやれば当たる」という考え方はあまり意味がない。むしろ、なぜ届いたのか、どこが予想と違っていたのかを振り返ることのほうが大事になります。

振り返りは、どのように行われているのでしょうか。

作品が終わったら、すぐに振り返ります。結局、ヒットの方程式はないので、唯一できるのは失敗からどれだけ最速で学ぶか。だから、うまくいかなかったときは「なんでうまくいかなかったか」をみんなにシェアして、同じ失敗を繰り返さないようにする。そのほうが大切だと思っています。

その姿勢は、日本チーム全体にも共有されているのですか?

共有しています。成功した話だけが残ると、次の判断がしづらくなる。うまくいかなかった判断も含めて共有することで、次に考える人が同じところでつまずかなくなる。その積み重ねが必要だと思っています。

東宝との初の共同プロジェクトである『ガス人間』は、1960年に公開された東宝の特撮映画『ガス人間第一号』をオリジナルストーリーとしてリブートするシリーズです。『新感染』で知られる韓国のヒットメーカー、ヨン・サンホ監督が脚本・プロデュースに参加している点でも注目されています。どのような経緯で動き出した企画なのでしょうか。

東宝のプロデューサーが、「『ガス人間』をやりたい」と持ってきてくれたのが最初です。3〜4年前ですね。そこから企画の議論を重ねていく中で、シリーズとしてやっていくこと、そして日本はもちろん、海外にもきちんと届く作品にしたい、という思いをお互いに強く共有していった。その熱量があったから、自然とプロジェクトが前に進んでいきました。

東宝がイニシアチブを持っているのですか?

『ガス人間』に関しては、企画の主導は東宝が担っています。監督の選定についても、もちろん我々も会話はしていますが、東宝側から片山慎三監督、そしてヨン・サンホさんがプロデュースに入る、というある程度固まったビジョンを提示していただいた。その時点で、「これは面白くなりそうだ」と思えたので、そこから脚本制作や編集のプロセスに広げていった、という流れです。

実際にティザーを見ると、かなり“韓国的”なテイストも感じられました。

VFXもかなり入っています。単に派手にしたいという話ではなくて、この企画をどう現代的にアップデートするか、その一つの答えとして、あの表現がある、ということだと思っています。

日本のクラシックな作品を、韓国の作家性と結びつける。その判断は、Netflixとしても重要なチャレンジだったのでは?

そうですね。ただ、我々としては「違う国同士の組み合わせが新しいからやる」という判断ではないんです。東宝が長年培ってきた大事な作品を、どう次の世代に向けて更新できるか。そのために必要でベストな作家性や視点は何か、という議論の延長線に、ヨン・サンホさんの存在があった。そして、そこから自然につながった、という感覚に近いですね。

Photo_ Hiroyuki Tsutsumi for Next on Netflix 2026
Photo: Hiroyuki Tsutsumi for Next on Netflix 2026

最初からグローバルも強く意識した企画なのでしょうか。

はい。ただしここでも考え方は同じで、まず日本できちんと届くよう、クオリティをこだわり抜くことが大前提です。そのうえで、その物語や世界観が、結果として海外でも届くかどうか。日本の企画を、無理にグローバル仕様に変換するというよりも、日本の文脈をしっかり持ったまま、どう広がっていくか。その挑戦として、『ガス人間』は非常に象徴的なプロジェクトだと思っています。

2025年に配信された『イクサガミ』は、北米の映画批評家賞であるクリティクス・チョイス・アワードで「外国語シリーズ」部門にノミネートされました。制作時には、アワードはどれほど意識していたのでしょうか?

作り手の努力が認められ、作品がきちんと評価されることは本当に喜ばしいですし、ありがたいのですが、正直制作時には意識していませんでした。精魂込めて作り出した作品が、後からどう評価されるか、という話だと思っています。社内にはそうした評価や文脈を見るチームもいますし、どう届けるかは考えていますが、作る側としては、まず日本の編成ラインの中で、きちんと作品を作り、皆さんに届けていくことが先ですね。

データ・ドリブンではない作品づくり

日本制作の作品にグリーンライトを出す決定権を坂本さんはお持ちだと思いますが、多くの企画を見る中で、「これは面白くなる」と感じるのはどんなときですか。

映画、シリーズ、アニメ、アンスクリプテッド(恋愛リアリティ、コメディなど、脚本のない作品)と、それぞれのジャンルの中で、どう挑戦をして、どうアップデートしていくか、という点です。少し見ただけで展開が読めてしまう企画は、なかなか選ばれにくい。「こう切ってくるんだ」という視点があるかどうか。その新しさは大切にしています。

Netflixはテクノロジー企業という印象もありますが、データ・ドリブンで企画を決めるわけではないわけですね?

マーケットで流行っているから、という理由だけで企画を選ぶことはほぼありません。「これ、なかったな」「これ見たいな」という感覚を大事にしています。そこにはリスクも伴いますけど、その先に視聴者の驚きがあると思っています。

アニメ分野では『呪術廻戦』などでも知られるアニメ制作会社「MAPPA」とのパートナーシップも発表されました。アニメ制作にも注力していかれるのでしょうか?

日本のアニメはビジネスとして今、とても強いと思いますが、制作の現場が潤っているかというと、そうではない。実際に作っている現場はかなり厳しい状況です。だから、単発で発注する関係ではなくて、制作環境や人材の部分も含めて、もう少し長い目で一緒にやっていく必要がある。MAPPAさんとは、短期ではなく、5年、10年先を見ながら話をしています。

最後に、これからのNetflix日本作品をどう見てほしいですか。

ヒットの方程式はありません。だからこそ、失敗から何を学び、次にどう活かすかが重要になる。日本の文脈に深く根ざしながら、更新を恐れずに語り続ける。そのプロセスも含めて、私たちの作品を見てもらえたらと思います。

Netflixのヒットメーカーが推す、2026年最注目作品

実在の人物たちの半生を描くキャラクタードラマ

「『全裸監督』などもそうですが、実在の人物の半生をNetflixならではのアプローチでエンターテイメントに昇華して描くこのジャンルでは、物語の裏側のリアリティを大切にすることで、国外の人にも新鮮味を感じてもらえる作品ができると考えています」と語る坂本氏。2026年にも、はるな愛の実話をもとにした映画『This is I』や戸田恵梨香が細木数子を演じるドラマシリーズ『地獄に堕ちるわよ』など注目作が続く。

映画『This is I』2月10日

幼いころからアイドルを夢見ていたケンジは、親に内緒でショーパブで働きはじめ、アイという名前でステージに立つようになる。患者を救えなかったトラウマを抱えた医師・和田はある日、そんなアイと出会い、その苦悩を知り、性別適合手術を引き受ける。タレント・はるな愛の実話をもとにした映画。昭和・平成のヒットソングとダンスによるミュージカルシーンも見どころだ。
幼いころからアイドルを夢見ていたケンジは、親に内緒でショーパブで働きはじめ、アイという名前でステージに立つようになる。患者を救えなかったトラウマを抱えた医師・和田はある日、そんなアイと出会い、その苦悩を知り、性別適合手術を引き受ける。タレント・はるな愛の実話をもとにした映画。昭和・平成のヒットソングとダンスによるミュージカルシーンも見どころだ。

シリーズ『地獄に堕ちるわよ』 4月27日

2000年代にお茶の間で絶大な人気を誇り、“視聴率女王”と称された占い師・細木数子の半生を描くドラマシリーズ。戦後の焼け野原で飢え、高校を中退して夜の街へ。20歳そこそこでナイトクラブを次々と成功させ“銀座の女王”となり、40代で占い師へ転身──知られざる激動の人生が綴られる。主演は戸田恵梨香。細木を取材する作家役に伊藤沙莉、生田斗真、三浦透子、杉本哲太らが共演。
2000年代にお茶の間で絶大な人気を誇り、“視聴率女王”と称された占い師・細木数子の半生を描くドラマシリーズ。戦後の焼け野原で飢え、高校を中退して夜の街へ。20歳そこそこでナイトクラブを次々と成功させ“銀座の女王”となり、40代で占い師へ転身──知られざる激動の人生が綴られる。主演は戸田恵梨香。細木を取材する作家役に伊藤沙莉、生田斗真、三浦透子、杉本哲太らが共演。

正解がない「アンスクリプテッド」はブルーオーシャン

「リアリティショーやコメディなど脚本がない作品であるアンスクリプテッドと言われるジャンルは、まだ新しく、正解がない分、挑戦しがいのある分野です。『ラヴ上等』が韓国で爆発的にヒットしているのもうれしい驚きでしたが、2026 ワールドベースボールクラシック(WBC)のライブ配信をはじめとして、今後はスポーツのライブ配信などにも注力していきます。今年はマツコ・デラックスさんと3年近く会話した結果、ついに作品が形になります」

日本のクラシック作品のアップデート

「長年培ってきた作品・物語を、どう次の世代に向けて更新できるか。そのために必要な作家性や視点は何か」を重視した作品づくりの先陣として、『ガス人間』にも注目したい。

シリーズ『ガス人間』2026年

1960年に公開された東宝映画『ガス人間第1号』をシリーズとしてリブート。ガス化した人間による連続殺人事件をモチーフにしたクライム・サスペンス。『新感染』の大ヒットで知られる韓国のトップクリエーター、ヨン・サンホ監督を脚本・プロデューサーに迎え、片山慎三が監督を務める。主演の小栗旬、蒼井優ほか、広瀬すず、林遣都、竹野内豊など豪華キャスト陣も話題。
1960年に公開された東宝映画『ガス人間第1号』をシリーズとしてリブート。ガス化した人間による連続殺人事件をモチーフにしたクライム・サスペンス。『新感染』の大ヒットで知られる韓国のトップクリエーター、ヨン・サンホ監督を脚本・プロデューサーに迎え、片山慎三が監督を務める。主演の小栗旬、蒼井優ほか、広瀬すず、林遣都、竹野内豊など豪華キャスト陣も話題。

Text: Atsuko Tatsuta Editor: Yaka Matsumoto

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