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徹夜すると脳が「起きたまま睡眠モード」に入り、集中力と引き換えに自分を洗い始める

  • 2026.1.30
徹夜すると脳が「起きたまま睡眠モード」に入り、集中力と引き換えに自分を洗い始める
徹夜すると脳が「起きたまま睡眠モード」に入り、集中力と引き換えに自分を洗い始める / Credit:Canva

アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)で行われた研究によって、徹夜明けの「ぼんやり瞬間」には、脳のまわりを流れる透明な水のような液体(脳脊髄液)が、大きな波になってドクンと押し出され、ふだんは眠っているときにしか見ないような「睡眠っぽい動き」をしていることが分かってきました。

この波は、脳の中にたまったいらない物質を外へ運び出す「お掃除」に関わっていると考えられており、眠らずにいると、起きているあいだにそのお掃除モードが少しだけ顔を出し、その間だけ注意力がガクッと落ちて、簡単な合図さえ見逃してしまう瞬間が増えるようなのです。

しかし、なぜ脳脊髄液の流れが、意識をフッと遠のかせてしまうのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年10月29日に『Nature Neuroscience』にて発表されました。

目次

  • どうして寝不足」で注意が崩れるのか
  • 睡眠不足でフッと意識が飛ぶとき、脳の中で何が起きているのか──MITの徹夜実験
  • 「徹夜のミス」は脳と体全体のモード切り替えサインだった

どうして寝不足」で注意が崩れるのか

どうして寝不足」で注意が崩れるのか
どうして寝不足」で注意が崩れるのか / Credit:Canva

誰もが経験することですが、睡眠不足の翌日は集中力が続かず、授業中や会議中につい意識が飛んでしまうことがあります。

たった一夜の睡眠不足でさえ認知機能の低下を招き、簡単な合図に反応できなくなる「注意力の失敗」が起こります。

例えば車の運転中に一瞬ウトウトしてしまうと、命に関わる重大な事故につながる危険があります。

それほど危険だと分かっていても、私たちの脳はどんな状況でも眠らずにはいられないようにプログラムされているようです。

実際、睡眠不足になると脳全体の活動に大きな変化が現れ、動物実験では脳の一部に睡眠時のような波(ゆっくりした脳波)が出ることさえ確認されています。

ですが「不注意になるその一瞬に、脳と身体の中で実際に何が起きているのか」は、これまではっきりとは分かっていませんでした。

ただ、この謎に近づくためのヒントはいくつかありました。

そのうちの一つが「睡眠中の脳のお掃除」です。

脳は眠っている間に脳脊髄液という液体を、大きく脈打つ波のように循環させ、日中に溜まった老廃物を洗い流していると考えられています。

2019年の研究では、この脳脊髄液の波が眠りの深さに合わせて規則正しく出入りしていることが報告されました。

では、もし眠るはずの時間に眠れなかったら、この「脳のお掃除プロセス」はどうなってしまうのでしょうか。

睡眠不足のときでも脳は休息を求めており、もしかすると起きている最中にこっそり“睡眠まがい”の動作を挿入しているのかもしれません。

そこで今回、研究者たちは「徹夜明けの人の脳で、注意力が切れた瞬間にどんな現象が起きているか」を詳しく調べました。

本当に起きている最中に、脳が勝手に「昼のメンテナンス」を始めてしまうことなどあるのでしょうか。

睡眠不足でフッと意識が飛ぶとき、脳の中で何が起きているのか──MITの徹夜実験

睡眠不足でフッと意識が飛ぶとき、脳の中で何が起きているのか──MITの徹夜実験
睡眠不足でフッと意識が飛ぶとき、脳の中で何が起きているのか──MITの徹夜実験 / Credit:Canva

果たして脳は起きている最中に“勝手なお掃除”を始めてしまうのでしょうか。

この疑問に答えるために、研究チームはまず26人の健康なボランティアを集め、通常どおり睡眠をとった翌朝と、一晩完全に徹夜した翌朝のそれぞれで脳と体の状態を計測しました。

具体的には、被験者に朝から注意力テスト(画面上の標的の変化に気づいたらボタンを押す課題)を行ってもらいながら、脳波、MRI、脳脊髄液の流れ、心拍、呼吸、瞳孔サイズといった脳と体の働きを同時にモニタリングしました。

その結果、徹夜明けでは予想どおり反応時間の平均が遅くなり、押し忘れも大きく増えました。

しかし本当に驚くべきなのは、その「ミスの瞬間」に合わせて、脳と体にどのような変化が起きていたかという点です。

研究チームは、テスト中のデータを60秒ごとの区切りで、「高い注意(すべて速く反応)」「やや注意低下(遅い反応が混じる)」「注意の失敗(押し忘れを含む)」の3つの状態に分類しました。

すると、注意が落ちた区間ほど、脳脊髄液の低周波の揺れが大きくなっていることが分かりました。

さらに、徹夜明けの「起きている休憩時間」の脳脊髄液の動きを調べると、0.04ヘルツ前後の大きな波が現れ、その強さは通常のN2睡眠(浅いノンレム睡眠)とほぼ同じレベルに達していました。

つまり、目を開けて起きているはずの状態に、睡眠特有のゆっくりした脳脊髄液の波が侵入してきていたのです。

「ミスが起きる瞬間」をさらに細かく見ると、その様子は一段とドラマチックです。

ボタンを押し忘れる試行の少し前から、脳波は「眠りに落ちかけ」のパターンに変わり、瞳孔はキュッと縮み、心拍や呼吸も落ち着いた状態へと沈み込んでいきます。

その数秒後に、第四脳室という場所から脳脊髄液が外側へ押し出される大きな波が現れ、さらに数秒たつと今度は逆向きに戻ってきます。

注意が戻るころには、瞳孔は再び開き、心拍や呼吸も元のリズムに戻ります。

つまり徹夜明けの「ぼーっとしている十数秒」は、脳波・血流・脳脊髄液・瞳孔・心拍・呼吸がまとめて眠りに近いパターンへ揃い、脳の中を脳脊髄液の大きな波が行ったり来たりしている時間だと考えられます。

起きているのに、脳のほうは短時間だけ睡眠のような機能を挟み込んでいる――その姿が、今回の研究で見える形でわかったのです。

「徹夜のミス」は脳と体全体のモード切り替えサインだった

「徹夜のミス」は脳と体全体のモード切り替えサインだった
「徹夜のミス」は脳と体全体のモード切り替えサインだった / Credit:Canva

今回の研究により、「徹夜したあとの注意力の崩壊」は、単なる集中力不足ではなく、脳と体全体がまとめて「眠りかけ+脳脊髄液大流量モード」に切り替わる瞬間と結びついていることが示されました。

著者らは、こうした注意の失敗が、脳が眠る機会を失ったときに現れる「どうしても休みを取りたい」という神経調節システムの表現型かもしれない、と結論づけています。

つまり、注意の失敗は単なるドジやうっかりではなく、脳と体が一体となった状態変化のサインとして見えてきたのです。

その「サイン」が出ているあいだ、脳波は眠りに似た姿に変わり、脳脊髄液は大きな波として押し出され、心拍や呼吸も一緒に揺れています。

このことから、起きている/眠っているの境界は、スイッチのオン・オフではなく、目には見えない「波」として行き来しているのかもしれません。

MITのルイス准教授は「夜に出るはずの脳脊髄液の波が、徹夜すると昼間の覚醒中に割り込んでくる。その代償として注意が落ちる」とコメントしています。

また第一著者のヤン氏は、「脳がどうしても必要な機能を回復するために、高い注意状態と高い脳脊髄液流量状態を行ったり来たりしているのかもしれない」と述べています。

では、徹夜したときに感じる「意識がフッと遠のく感じ」と脳脊髄液の流れは、どのようにつながっているのでしょうか。

ここでポイントになるのが、「脳のモード切り替えスイッチ」が一つしかないという考え方です。

脳の奥には、ノルアドレナリンという物質を使って「今は集中モード」「今はおやすみモード」を調整している部分があります。

このスイッチがしっかり働いているとき、私たちはシャキッと目が覚めていて、血管もほどよく締まり、脳脊髄液の流れも落ち着いています。

ところが、一晩中起きていて眠気が限界に近づくと、このスイッチがガクッと「おやすみ寄り」に傾きます。

すると、大脳の活動は眠りかけのときのパターンになり、血管はゆるみ、血液の量がゆっくりと増えたり減ったりします。

その結果として、頭の中のバランスを保つために、脳脊髄液がドクンと押し出されたり、スーッと吸い込まれたりする大きな波が生まれます。

同じ瞬間に、注意をつかさどるネットワークの働きも弱まり、「あ、今なんか一瞬飛んだ」と感じるような小さな“意識の穴”が生まれます。

つまり、脳脊髄液の流れを見ることができれば、脳がおやすみモードに入りかけているかどうかを知る手がかりにもなるのです。

将来、この知見が発展すれば、徹夜シフト中の医療現場や運転席で、「いま脳が掃除モードに入りかけています」と警告してくれるデバイスが生まれる可能性もあります。

あるいは、脳の脳脊髄液と血流のリズムを整えることで、注意力を保ちつつ脳の健康を守る新しい休憩法や勤務スケジュールの設計につながるかもしれません。

もし今後徹夜明けにうっかりぼんやりしてしまうことがあったら、「仕事サボっている」ではなく「脳が大掃除中」と考えてみると、前向きな気持ちになれるかもしれません。

元論文

Attentional failures after sleep deprivation are locked to joint neurovascular, pupil and cerebrospinal fluid flow dynamics
https://doi.org/10.1038/s41593-025-02098-8

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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