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中谷美紀さんがもてなす賛美の茶席。世界的ソプラノのハンナ=エリザベット・ミュラーさんとオーケストラメンバーでご主人のティロ・フェヒナーさんを迎えて

  • 2026.1.29
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2025年10月に行われたウィーン国立歌劇場の来日公演でアンバサダーを務めた中谷美紀さんが、同公演で『フィガロの結婚』に出演した世界的ソプラノのハンナ=エリザベット・ミュラーさんとオーケストラメンバーであるご主人のティロ・フェヒナーさんのため、特別なお茶席をもうけました。「音楽とオペラ」をテーマとし、国境や言葉の壁を越えて、互いの文化への敬意、そして美意識が共鳴するひとときをご紹介します。

photo: Wiener Staatsoper / Michael Poehn

<Profile>
Hanna-Elisabeth Müller(ハンナ=エリザベット・ミュラー)
ウィーン国立歌劇場2025年日本公演『フィガロの結婚』(左写真)にてアルマヴィーヴァ伯爵夫人役を演じたドイツ出身のソプラノ歌手。「伯爵夫人は寛容でエレガント、かつ高貴で美しい性格。モーツァルトはこの役に最も美しい音楽を与えました」と語る。2014年のザルツブルク復活祭音楽祭でクリスティアン・ティーレマン指揮『アラベラ』のズデンカ役を演じ、一躍有名に。メトロポリタン歌劇場やミラノ・スカラ座などに出演。

文化を愛でる心を通わせる、エスプリ薫るおもてなし

これまでカジュアルに抹茶を楽しむことはあったものの「お茶室に入り、正座をして正式な点前でお茶をたててもらうのは初めて」とティロさん。「日本の文化に興味を持つヨーロッパの若者も増えています。本格的なお茶室の中の空気感は心地よい緊張感がありますね」と語ります。凛とした佇まいで点前に臨む中谷さんの手元を静かに見つめていました。 MASATOMO MORIYAMA

華やかな音楽の殿堂、ウィーン国立歌劇場が9年ぶりに来日公演を行いました。本公演のアンバサダーを務めたのが俳優の中谷美紀さんです。オーケストラメンバーとして、ご主人のティロ・フェヒナーさんも来日。中谷さんは以前、ティロさんと日本庭園を散策していた際にお茶室に興味を持つ姿を見て、以来、海外からのゲストやご主人を迎えたお茶会を開く夢を抱いていたといいます。

茶会が行われたグランドプリンスホテル高輪「茶寮 惠庵」。本席の茶室「花」は国宝・如庵を写したもの。 MASATOMO MORIYAMA

今回、同歌劇場来日公演の『フィガロの結婚』に出演した世界的ソプラノのハンナ=エリザベット・ミュラーさんとティロさんをお迎えし、その思いを実現。音楽とオペラ、和洋文化の交流をテーマにしたお茶席で一座建立の時間をもうけました。

床の間には、羊皮紙にイカの墨を使って音符が描かれた四線符のグレゴリオ聖歌の楽譜を。花入はアール ヌーヴォーの燭台を見立てて使用。西洋の教会文化を連想させます。「ヤマコウバシの黒い実が音符のようにも見えますね」と中谷さん。西洋からのお客さまのために、香合は英国のアンティークの茶葉入れを見立てて。 MASATOMO MORIYAMA

お二方を迎えるにあたり、中谷さんが床の間に選んだのが羊皮紙に描かれたグレゴリオ聖歌の楽譜でした。賛美に最もふさわしい音楽といわれるグレゴリオ聖歌。今日までのクラシック音楽の土台を築き、教会文化には欠かせない存在です。

主茶碗は樂 直入さんが十五代吉左衞門を襲名した際の初個展に出展されたもの。薄茶には伊藤園「和悦」を使用。このお茶銘は時代が令和になり、慶祝記念として裏千家今日庵坐忘斎御家元が命銘。 MASATOMO MORIYAMA

ハンナさんには「山韻」という銘のついた樂 直入さんの皪釉(れきゆう)茶碗でお茶をたてました。「音楽や歌に欠かせない韻という言葉が銘に入っていることから、主茶碗に選びました。また、『フィガロの結婚』には花嫁が2人登場します。こちらのお茶碗の白色釉からも彼女たちが着る純白のウエディングドレスを連想していただければ」と中谷さん。

鉱物の一種であるドロマイトを釉薬に使用したルーシー・リーの茶碗。 MASATOMO MORIYAMA, Estate of Lucie Rie

そして、ティロさんにはウィーン生まれの陶芸家、ルーシー・リーのお茶碗を。「ルーシー・リーも日本から大きな影響を受けました。文化は国境を超えて、互いに刺激し合い、発展してきたものだと感じます」。自由な発想で、お客さまの文化に寄り添う取り合わせです。

はったい粉を練り込んだ焼きたての葛焼き。 MASATOMO MORIYAMA

通常とは異なりタイトなスケジュールで行われる日本公演。出演するアーティストにとっては体調管理も重要です。少しでも体のコンディションにプラスになるようにと、中谷さんはお菓子に「葛(くず)」を選びました。「葛湯は喉のケアとしても良いとされてきました。今回は、鍵善良房さんにご無理を申して砂糖を使わない葛のお菓子を作っていただきました」と心遣いをみせます。当日は鍵善良房のご主人、今西善也さんが京都から駆け付け、水屋で葛を焼き、温かいうちにお菓子をお客さまに召し上がっていただくという趣向に。ハンナさんもティロさんも、その細やかな心尽くしに感嘆していました。

初めてきものを着たというハンナさんとティロさん。ハンナさんがお召しの京友禅の付下げには花菱の柄があしらわれていました。「何枚も着重ねるので驚きましたが、とっても心地よいです。それに“花”が私の名前と同じ響きというのもうれしいです」とハンナさん。きもの、帯、帯揚げ、帯締め(全てAoyama Yagi/青山 八木) MASATOMO MORIYAMA

「お茶室で頂くお抹茶は格別でした。ゆったりした時間の余韻、静寂が心に残りました」とハンナさん。

東西の伝統が美しいハーモニーを奏でたお茶席。一服のお茶を通して、文化を愛する心と心とがつながったひとときとなりました。

本物の日本文化に触れ、学ぶことができたことはとてもよい経験になりましたと語るティロさん。 MASATOMO MORIYAMA
松枝紋の京友禅付下げに葡萄唐草の塩蔵繭袋帯を合わせた中谷さん。亭主として控えめで上品なたたずまいながらも、シルクロードをたどって日本に渡ってきた伝統模様があしらわれた帯で、東西の文化交流の席にふさわしい装いに。きもの、帯、帯揚げ、帯締め(全てAoyama Yagi/青山 八木) 草履(スタイリスト私物) MASATOMO MORIYAMA

茶室に響く洗練された“レス・イズ・モア”

絢爛豪華なオペラの舞台に対し、引き算の美を表現するお茶室。しかし、今回のしつらえには西洋のものも大胆に取り入れ、随所に中谷美紀さんらしい美意識が宿ります。

床の間に生けた草花は青山・<a href="https://aoyama-hanacho.com/" target="_blank" rel="nofollow">花長</a>にて。『フィガロの結婚』の演出で香水をまとうシーンがあることから“香”にちなんだ「ヤマコウバシ」を。「フランネルフラワー」はオーストリアの国花であるエーデルワイスを想起させます。「ウエディングドレスのような一輪がまるで『フィガロの結婚』の余韻を映すよう」と中谷さん。 MASATOMO MORIYAMA
シュッシュと甑口(こしきぐち)の天明釜から勢いよく立ち上る湯気がいっそうの風情に。「首のある釜の形が金管楽器を思わせますね」と中谷さん。 MASATOMO MORIYAMA
赤いジャケットがトレードマークのティロさんにちなんで朱棗を。茶杓の銘は鶴。鶴は仲睦まじい夫婦の絆の象徴。黒田辰秋と飯塚小玕齋という近代工芸を代表する作家同士の取り合わせ。 MASATOMO MORIYAMA
教会の鐘やベルにも通じる釣り鐘形の古備前水指。「今回の『フィガロの結婚』ではベルを鳴らしてお手伝いさんを呼ぶシーンがありますからね」と中谷さん。舞台にちなんだお道具を。 MASATOMO MORIYAMA
寄付で黒豆茶を内田智裕さんの白磁のカップに入れて。お菓子は鍵善良房製のきな粉の落雁、佃 眞吾さんの豆形の茶托皿と合わせて豆づくしのおもてなし。カップと茶托皿は中谷さんが信頼する京都の<a href="http://koukyoto.com/" target="_blank" rel="nofollow">ギャラリー昂kyoto</a>にて見つけたもの。 MASATOMO MORIYAMA
内側の面の部分だけに溜塗を施した炉縁。 MASATOMO MORIYAMA
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問い合わせ先
青山 八木
TEL/03-3401-2374
URL/www.aoyama-yagi-shop.com

初出:リシェスNo.54 2025年11月28日発売
PHOTOGRAPHS:MASATOMO MORIYAMA, WIENER STAATSOPER / MICHAEL POEHN
HAIR & MAKEUP:ERI SHIMODA
KIMONO FITTING:YUKARI MORI
NAIL:MICHIKO KAWAMURA(NAIL HOUSE AKIKO)
EDITING :NATSUKO OTSUKI
SPECIAL THANKS:MITOCHU KOEKI, KAGIZEN YOSHIFUSA, HITOMI NAGAMATSU, MARIA WIESINGER

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