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元AV女優で作家…異色の経歴を持つ鈴木涼美さん(42)が描く「生」と「性」の物語

  • 2026.1.14

AV女優から新聞社記者、作家という異色の経歴を持ち、芥川賞候補作など話題作も豊富な鈴木涼美さん。季刊「スピン/spin」連載をまとめた自身初となる長編小説「典雅な調べに色は娘」(河出書房新社)を発売し「圧巻の描写」「引力が強すぎる」と話題に。本作に込めた想いや、現代社会に対する細かな分析について伺いました。

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“みんな心に小さなカスミ(主人公)を飼っているのでは”

今回の作品は、タイトルに「TENGA」と「iroha」が入っていたりかなり遊び心も交えていますが、まずは女性たちに過去のセックスを振り返ったり変な男たちを思い出したりしながら楽しんでもらえたらなと思って書きました。セックスに絡んだちょっとした傷つきとか違和感とかを感じていた女性って結構いるんじゃないかなと思って。例えば男性は「俺、コンドーム苦手なんだよね」という風に平気で言う。それに対して女性は、どう抵抗していいのかわからなくて割と黙ってきたと思うんですよ。男性も自分の肌質に合うものを選べばいいし、女性があらゆる化粧品を20代の時から試して40代ぐらいになってなんとなく自分に合うものが分かってくる、それと同じようなことやれよ、と思いますよね。セックスの話題って女性同士では多少話していても、男性と女性の間では話していなかったり、男性同士では話しているようでただの下ネタだったり。「これって普通じゃないんだ」ということって、日常生活の他のこと、例えば食事の仕方とかに比べると、誰しも気づきが遅くなるというか。二人で密室で起きていることだから。「こういう違和感、私にもあったな」でもいいし「こんな男いやだな」でもいいし、まずは女性が面白がって読んでほしいなと思っています。

「これを書いたら、読んだ男性は萎えるだろうな」と思って書きました

官能小説にしても性的なコンテンツにしても、基本的に女性の裸をアップにしたり描写するものが多いですよね。男性の身体や仕草とか反応とか、そういうものをつぶさに描写したものってあまりない。それ書いたら男性はすごく萎えるだろうなと思い、書きました(笑)。つまり、自分は見ているつもりだったけど見られていたんだと。「あの人鼻毛出ていたな」とか「すごく汗をかいていたな」とか女性たちは確実に見ているんですよ、品があるから言わないだけで。女子会の話題とかにはしますけど…少なくとも私の世代や少し上の世代くらいまでの男性は、自分が「見る側」だという意識をナチュラルに持っていることが多い。セックスする時の身体だけじゃなくて、何気なく言う言葉とかにおいても、自分は「見られている」とか「批評されている」という意識が凄く低いなと思うことがあります。

タイムリミットを持つ女体と”時限爆弾的なプレッシャー”

私もですが、カスミ(主人公)は夜職(よるしょく)出身。夜職というのは、始めた時が一番若くて一番価値が高くて年々価値を剥ぎ取られていくような業界なんですよ。25歳過ぎるくらいまではあまり気づかないけど、その後やはりそのことを残酷に気づかされていって。何のキャリアもない、若くて可愛かっただけの自分が一番価値が高くて、経験とキャリアを積んで人に気遣いもできるようになったら価値が低くなっているというのは、やっぱり他の仕事以上に残酷さがあります。最近はおじさん差別みたいなものもあるけど、でもやっぱり女性が受けてきた「老いること」に関するネガティブな社会的な仕打ちとか、あるいは逆に「若さ」に対するすごく不相応な価値、すごい大きな価値を背負わされちゃっているというのは、男性の比ではないと思うんですよね。別に20代に比べて40代が無価値になるわけじゃない。結婚しようが母親になろうが、女性的な喜びも持っているしおしゃれする権利もある。だんだんと見直されて、40代50代になっても口紅ひいたりミニスカート履いたりすることが否定されなくなったっていうのはすごくいいことですよね。

ミドルクライシスに必要なのは女友達との連帯なのかも

カスミ(主人公)と会社の同僚や、夜の街時代の先輩との関係も、この作品にとってのミソかなと思っています。彼女は、男性とは信頼のおけるパートナーシップを結んでいないわけなので、女性同士の盛り上がりみたいなものがどちらかというと生きがいに繋がるのかなと思ったりします。私自身、男性とうまくいっているかより女友達と会えているか、よく話せているかどうかが、結構その時の充実度に関わるタイプ。40歳まで独身の友達と固まっていたから、皆お互い「この子が結婚したら孤独だわ」って思っていました。私、多分その集団の中でも1、2を争う固めの独身だったので(笑)。結婚しないだろうと思われていたので、裏切り者の気分も少しあるんですよ。私としては、結婚してもそんなに価値観とか変わらないと思っているし、子供ができても自由を失いたくないと思っていますが……。20代半ばくらいで子供を産んだ子って、周りの友達もみんな子どもについてよくわからないし仕事も忙しい時期だし、孤独だっただろうなと思いますね。もっと優しくすればよかったなとすごく思います。でもその代わり、今彼女たちは子育てがひと段落して、私がすごい老体に鞭を打ってこんなぶくぶく太りながら子育てしている間に、体型とか全く遜色ない状態で新しい仕事始めたり、自己実現もできていて賢明だなとは思いますね。いずれにせよ、私もいわゆるミドルクライシスみたいな年齢になってきて、そこそこ楽しんでここを乗り越えるためには女友達との交流、あるいは連帯みたいなものが大事なのではないかなと感じています。

典雅な調べに色は娘 鈴木涼美(河出書房新社)

「まだ0時前、夜は長い」

大手鉄道グループの子会社で広報を担当するカスミ(27歳/祖父のコネ入社/夜職上がり)。先輩女性社員との微妙な友情、SMホテルではしゃぐノリのいい課長補佐や離婚上司、さらに不幸自慢の経済記者やカスミを「最後の恋人」にしたいと宣(のたま)う鼻毛・還暦の環境学者らとの愛なき逢瀬(?)の日々。そんな気だるい空気を洗い流すように、今日も彼女は新宿のアフターバー「ナスティ・シューズ」を訪れる。ある日、同じマンションに住む40歳手前の男・小宮に出会い、何かが始まりそうな予感がするのだが……。

鈴木涼美さんprofile

1983年生まれ。東京都出身。作家、エッセイスト、コメンテーター。慶應義塾大学在学中にAVデビュー。東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社に5年半勤務。著書に『「AV女優」の社会学』、『JJとその時代~女のコは雑誌に何を夢見たのか~』、上野千鶴子氏との書簡集『往復書簡~限界から始まる~』、『ギフテッド』『グレイスレス』 (両作とも芥川賞候補)、『YUKARI』(三島賞候補)他多数。フジテレビの秋元優里氏とのポッドキャスト番組「ねーきいてよ」がSpotify、Apple Podcastなどで好評配信中。

撮影/佐藤俊斗 ヘアメーク/川村友子 取材/香取紗英子

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