【システムメンテナンスのお知らせ】1/14(水) 2:00〜4:00 TRILLサイトをご利用いただけなくなります

  1. トップ
  2. 恋愛
  3. 過酷な環境ほど、サルたちの同性間の性行動が多いことが分かった

過酷な環境ほど、サルたちの同性間の性行動が多いことが分かった

  • 2026.1.13
過酷な環境ほど、サルたちの同性間の性行動が多いことが分かった
過酷な環境ほど、サルたちの同性間の性行動が多いことが分かった / Credit:Canva

イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)で行われた研究によって、乾燥地帯に住みエサが乏しく天敵(捕食者)が多い――そんな「地獄みたいな」過酷な環境で、こうした同性間の性行動が見られやすい傾向が示されました。

研究では霊長類491種を対象にした大規模調査で、そのうち59種(全体の約12%)ものサルや類人猿に同性での性行動が確認されました。

また同性間の性行動頻度も分析対象になっており、1時間あたり0.003回というごくまれな種から、約2.8回程度という“しょっちゅう起きている”種まで幅があることも分かりました。

さらに統計分析の結果、大きく複雑な群れを作る種も、同性間の性行為がみられやすいことも示されました。

子どもを産まないはずの性行動が、なぜそんなサバイバルの修羅場で、しかも複雑な社会をつくるサルたちのあいだで、しぶとく生き残っているのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年1月12日に『Nature Ecology & Evolution』にて発表されました。

目次

  • なぜ子どもが生まれない行動が進化で残るのか
  • 過酷な世界ほど増える、不思議な同性愛的行動
  • 同性間の性行動は環境に始まり社会が決める

なぜ子どもが生まれない行動が進化で残るのか

なぜ子どもが生まれない行動が進化で残るのか
なぜ子どもが生まれない行動が進化で残るのか / Credit:Canva

動物の性行動というと子孫(しそん)を残すためだけのものと思われがちですが、野生動物では1,500種以上でこうした同性どうしの性行動が観察されています。

たとえばボノボという類人猿は、性行動を通じて平和を保つサルの代表格のように紹介されることもあり、雌同士で性行動を通じて仲直りする習性(ホカホカと呼ばれる)があるとされます。

とはいえ、このような“同性どうしのイチャつき”が具体的にどんな役に立っているのか、長らく謎でした。

動物の世界で見られる同性間性行動(同じ性別どうしの性行動)は、かつては「ダーウィンのパラドックス(進化論の矛盾)」と呼ばれてきました。

子孫を残せない行為は自然淘汰(生存競争)で不利になるはずだ、と考えられていたからです。

しかし近年の研究で、この“寄り道”にも生物なりのメリットがある可能性が浮上してきました。

たとえばオス同士で交尾を行うオスザルは同盟を組んで他のオスを押さえ込み、最終的により多くのメスと交尾できる可能性がある――そんな観察結果も報告されています。

さらに、オスのアカゲザルでは同性間の性行動がどれくらい家系に乗っているかも調べられていて、その“遺伝の割合”はおよそ6%強と推定されています。

つまり少しだけ生まれつきの要素もありつつ、多くはそのときの環境や社会の状況で変わりうる行動だと考えられています。

また別の研究では、群れの緊張を和らげたり絆を強めたりする効果があるのではないか、と指摘されることもありました。

しかし霊長類全体を通じて、この行動がどれだけ広がり、どんな条件で起きやすいのかを体系的に調べた例はほとんどありませんでした。

(※人間の同性愛の遺伝率は双生児研究ではだいたい男性では34〜39%で女性では18〜19%くらいが遺伝要因と推定されるとされています)

そこで今回、インペリアル・カレッジ・ロンドンなどの研究チームは、霊長類の大規模なデータ分析によってこの謎に挑みました。

もし本当に「同性どうしでイチャつく」ことが社会の役に立っているなら、どんな環境や社会を持つサルでその行動が多いのでしょうか?

本当に「地獄みたいな環境ほど、サルは同性愛に走る」──そんな逆説めいた傾向は、あり得るのでしょうか?

過酷な世界ほど増える、不思議な同性愛的行動

過酷な世界ほど増える、不思議な同性愛的行動
過酷な世界ほど増える、不思議な同性愛的行動 / Credit:Canva

研究チームは霊長類491種についての文献記録を徹底的に調査し、それぞれの種でオス同士やメス同士の性的ふるまい(たとえばオス同士でマウント(背乗り)したり、メス同士で性器をこすり合わせたり)が報告されているかどうかを洗い出しました。

その結果、チンパンジーやマカク(マカク属のサル)、ゴリラを含む59種の霊長類で、こうした同性間の性行動が確認されたのです。

さらに、同性間性行動が報告されている59種は、旧世界ザルや類人猿だけでなく、キツネザルのような原始的なサル(原猿)まで含まれていて、「進化の木をほぼ一周する勢い」で散らばっていました。

つまり、調査対象のおよそ8分の1の霊長類で“ホモセクシュアル”な営みが見られたことになります。

さらに各種について、生息環境(乾燥度、食糧の乏しさ、捕食圧の大きさなど)や寿命、オスとメスの体格差といったライフヒストリー(生涯の特徴)、群れの大きさや階層の有無といった社会構造まで、15項目にわたるデータを集めました。

そして、霊長類同士の進化上の近縁関係を考慮する統計手法(系統的回帰分析)を用いて、これらの要因と同性間性行動の関連を解析しています。

解析の結果、同性間性行動がみられるサルたちの生息環境や社会性に興味深い共通点が発見されました。

1つめは環境要因で、乾燥した土地に暮らし、食べ物が少なく、周囲に捕食者が多い種では、そうでない種に比べて同性間の性行動が観察されやすいことが分かりました。

2つ目は体の要因で、寿命が長くオスとメスの体格差が大きい種(オスがかなり大柄でメスが小柄な種)でも、同性間の性行動が観察されやすくなっていました。

3つ目は社会的要因で、階層がはっきりしたなどの“複雑な社会”を営む霊長類では、とりわけ同性間の性行動が見られやすいことがわかりました。

さらに研究チームは、「どの要因がどれを押し動かしているのか」をまとめて調べるために、要因どうしのつながりを調べました。

その結果、「厳しい環境 → 生活史の特徴(たとえば性的二型性)や群れの構造が変化する → 大きくて階層のある群れ社会ができやすくなる → そういうややこしい群れだと同性間の性行動が“役に立ちやすい場面”が増える」という流れが見えてきたと考えられます。

では、なぜ社会が複雑だと同性間の性行動が増えるのでしょうか?

研究者たちはこの行動の機能について、新たな絵図を描き出しました。

過酷な環境下で競争の激しい大所帯を切り盛りするには、仲間との絆や同盟関係が欠かせません。

そこで「同性同士でイチャつく」こと自体が、争いを和らげ信頼を築く一種の社交スキルになっているのかもしれません。

実際、本研究の共著者であるサヴォレイネン教授は「同性間の性行動は仲間同士の絆を深め、緊張と攻撃性を減らし、その種が直面する課題を乗り切るのを助ける“仲良し戦略”のようだ」と述べています。

要するに、子どもを作らない寄り道のように見える性行動が、霊長類では「絆づくり・同盟づくり・空気をなだめる」ための多目的ツールとして機能している可能性が浮かび上がったのです。

同性間の性行動は環境に始まり社会が決める

同性間の性行動は環境に始まり社会が決める
同性間の性行動は環境に始まり社会が決める / Credit:Canva

今回の研究により、霊長類では環境が苛酷で社会が複雑な種ほど、同性どうしで性的なふるまい(同性間性行動)をする傾向があることが示されました。

これは、霊長類における「同性どうしの性」の進化上の意味を問い直す成果です。

論文でも、これらの知見が霊長類における性的行動の多様性や社会の進化を理解する手がかりになると記されています。

研究チームのビンセント・サヴォレイネン教授も「野生の動物社会の行動を理解するには、同性間の性行動も他の子育てや食事、争い(捕食者から身を守ること)と同じくらい重要なものとして考慮しなければならない」と強調しています。

これは、子どもを作る行為以外の“寄り道”も動物たちの自然な社会生活の一部だという指摘です。

言い換えれば、生殖に直接関係しない性行動も、進化の中で無視できない役割を果たしてきたということでしょう。

もちろん、この傾向をそのまま人間に当てはめることはできません。

人間の性的指向(恋愛や性愛の志向性)は自分自身の認識や文化的背景など独自の要因にも左右されます。

それでも、この研究は「性の多様性は進化的におかしな例外ではなく、むしろ厳しい世界を生き抜くための社会技術の一部かもしれない」という視点を、霊長類全体の地図から示しているように見えます。

この研究成果をきっかけに、動物における同性間の性行動の役割に一層の注目が集まることが期待されます。

性のあり方を「子作り」中心に捉えてきた従来のイメージは、今後アップデートを迫られるかもしれません。

もしかしたら未来の世界では、「同性どうしでイチャつくサルたち」の姿が、ただの“珍行動”ではなく、「過酷な環境を生き抜くための知恵」として教科書に載っているかもしれません。

元論文

Ecological and social pressures drive same-sex sexual behaviour in non-human primates
https://doi.org/10.1038/s41559-025-02945-8

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる