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美容ジャーナリストの齋藤薫さんが紐解く、現代の「日本人と香り」の関係性【香りの力 vol.12】

  • 2026.1.12

古代から香りに魅せられ、儀式をはじめとして健康や癒しのため、魅力を高めるためなど、折に触れ活用してきた人類。香りが心身に与える影響の研究も進んだ現代では、よりいっそう、生活のさまざまなシーンに香りが浸透しています。私たちを魅了してやまない香りの力を、さまざまな側面から掘り下げます。

今回は、日本のフレグランス事情を長きにわたり見てこられた美容ジャーナリスト、齋藤薫さんに、今の「日本人と香り」の関係性について考察していただきます。

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<Profile>
齋藤薫/美容ジャーナリスト
雑誌 『25ans』編集部を経て独立。多くのメディアで連載エッセイを持つ他、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザーなどで活躍。最新刊『年齢革命 閉経からが人生だ!』(文藝春秋)。『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)など著書多数。

これはブームではない。鼻の覚醒であり、進化である

Photograph / Stanislaw Pytel/Getty Images

東大が“におい”にまつわる驚くべき論文を発表した。それはズバリ、 “排卵期の女性が放つ香りの成分は、人を心地よくさせると同時に、その女性の顔印象まで良く見せる作用を持つ”というもの。つまり良い香りを体臭として放つときの女性は、顔まで美しく見えるということなのだ。これは、女性の体臭が秘めた生物学的意義を示すだけでなく、見た目まで美しく見せてしまう神秘的な“においの力”を完全に裏付けるものとなった。そして何より、人はなぜ香りを纏うのか? に、歴史的とも言える重要な回答を得たわけで、「香水を纏うと美しく見える」という、“そうあったらいい”という漠然とした願いに、まさかの信憑性をもたらしてくれたことになる。

コロナ禍の巣ごもり生活で香りを愉しむ喜びに目覚めたことが、新たな香りブームのきっかけとなり、「どう思われるか」より「自分がどう思うか」、自分主体の新たな香り選びを主流にしたとされるけれど、大人の香り選びは独りよがりになってはいけない。あくまで社会性を備えるべきで、だから今こそ人を心地よくし、自分を見るからに美しくする至極の香り選びを始めたいのだ。

五感で唯一、脳とダイレクトにつながっているからこそ、嗅覚は最も強い。それはまだ明かりもない太古の昔、人は命を守るために暗闇の中で危険を察知しなければいけなかったから。瞬時に喜怒哀楽を決める脳に直結し、記憶をつかさどる海馬にダイレクトに信号を送ることができるのも、実はそのためなのだ。香りほど瞬時に劇的に心を支配するものはないこと、人間の成り立ちに戻って理解しておきたい。そうだからこそ、実は24時間良い香りで自分を包んでおくことが人生レベルで幸福度の高い生き方をするこの上ない決め手であることも、もう一度心に留めおきたいのだ。なぜ香りはこれほど人を惹きつけるのか? 脳が直に香りを嗅ぐのだから当然のことなのである。

それどころか、食における「美味しい」という味覚もまた、舌より先に鼻で感じているとさえいわれる。嫌いなものを鼻をつまんで食べるのも味がしないから。嗅覚はそこまで強力なのである。タイには古代から、気分がすぐれないときにミント系の香りを吸い込むヤードム(香りの薬)という習慣がある。熱帯の国ならではの生活の知恵である。今や亜熱帯化する日本でも、心身を穏やかに保つためにヤードム的な習慣がマストになっていくのではないだろうか。昔の欧米貴族の“気付け薬”のように。

もともと「纏う」より「愛でる」のが日本の香り文化であったのも、より繊細な嗅覚をDNAとして持ち続けてきたから。香道への傾倒も、本能的な嗅覚の求めなのだろう。

しかし知らず知らず香りは進化し、日本人の繊細な鼻と秘めやかに響き合う香水も増えてきた。だからこれは、ブームではない。私たちの中で起きている覚醒であり進化。フレグランスでなければ決して得られない悦楽の境地へ、精神的高みへ、日々自らを運んでほしいのである。

初出:リシェスNo.54 2025年11月28日発売

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