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ヴィンテージを愛するヴィクトル・ギチェヴが生み出す、一点物のアップサイクルピース【若手デザイナー連載】

  • 2026.1.10
マイク・スキナー主催のクリスマスディナーでのアレクサ・チャン。
マイク・スキナー主催のクリスマスディナーでのアレクサ・チャン。

先日、ヴィクトル・ギチェヴという、ブルガリア出身のとても素敵なファッション業界人に出会った。本職はデザイナーだが、そもそもがヴィンテージオタクで、普段はジョン・ガリアーノJOHN GALLIANO)期のディオールDIOR)のしなやかなドレストム・フォード期のグッチGUCCI)のファーコートといった貴重なアーカイブアイテムがあふれるブティックOne Of A Kindにいる。ロンドンのポートベロー・ロードにあるこのブティックでは、8年前、セントラル セント マーチンズCENTRAL SAINT MARTINS)在学中にギャップイヤーをとっていたときに働き始めた。「(One Of A Kindは)自分の一部のように感じられるもので、働いている人たちは家族同然です」と言うギチェヴは、自身のブランドを持ち、若手デザイナーとして勢いに乗り始めている今でも店を離れる気はない。

ギチェヴのブランドは、すでに寿命を迎えた服の端切れを芸術的なイブニングウェアに変身させたアンティークピースを中心に扱っている。行く先々で出会う人たちとすぐに打ち解ける彼は、クライアント、生地の仕入れ先、ヴィンテージを通してたまたま出会った人たちとの会話から、こういったアップサイクル品ならではの良さを生かしたブランドを立ち上げることを思いついたという。最近では1997年よりロンドンで開催されている「Frock Me! Vintage Fair」に行き、70代のテキスタイルデザイナーと知り合った。古いヴィクトリア朝のカーテンから作られた美しいスカートを穿いていた彼女にすっかり魅かれ、早速近々飲みに行く予定だとギチェヴは話す。「人とのつながりにとてもインスパイアされるんです」

「生地に語らせる」ことで生まれる、魂が宿った服

UK版『VOGUE』主催のベストドレッサー・パーティーでのアジョワ・アボアー。
British Vogue And Omoda Celebrate Vogue's 50 Best DressedUK版『VOGUE』主催のベストドレッサー・パーティーでのアジョワ・アボアー。

「長い間、屋根裏部屋で忘れ去られていた虫食いにあった服」とギチェヴ自身が表する奇抜で物語のある彼のピースは、早くもアレクサ・チャンアジョワ・アボアーといったイギリス屈指のファッショニスタたちの注目を集めている。昨年12月にあかれたラッパーのマイク・スキナー主催のクリスマスディナーにチャンは花柄のカーテンを再利用したオペラコートを着用し、アボアーはUK版『VOGUE』の第1回ベストドレッサー・パーティーになめらかなゴールドのラメジャケットデニムに合わせたコーデで参加した。

1920年代と70年代のスタイルを掛け合わせたようなアボアーのジャケットは、パーティーウェアらしい華やかなピースだ。流麗なゴールドの生地はサンローランSAINT LAURENT)を代表するペイズリーモチーフの生地などをかつて手がけ、そのほかの名だたるメゾンにも生地を卸していたイギリスの老舗生地メーカーAbrahamから調達された。ジャケットの裏地はシルクのストライプ柄があしらわれており、着る者だけが楽しめるディテールとなっている。

「それぞれのタイミングで、(作るべき)ピースが自分のもとへやってくる」「生地に語らせる」というギチェヴの創作プロセスはほかとは違う。というのも、彼が好んで使う日焼けした、穴のあいたようなアンティーク生地はどれも脆く、作れるものはかなり限られている。そのため、デザインを構想してから作る、という通常の制作工程は踏めない。だが、ギチェヴはそういった素材の制限を逆手に取り、長年大切に受け継がれてきた生地や衣服をAlfies Antiques Market、Etsy、eBayなどで調達し、革新的な方法で生まれ変わらせる。

「ドレスに穴がひとつだけあいていると、うっかりあいてしまったように見えますが、いくつもあいていれば意図的なデザインのように見えます」と説明するギチェヴは、レースをあえて焼き、焼け跡の周りに繊細なビーズ刺繍をあしらったりする。

そういった技法を駆使した、考え抜かれたアップサイクルピースをギチェヴは3年前に友人たちのために作り始めた。それがなぜ、突然イットガールやセレブの琴線に触れたのかについて聞くと、「偽善に満ちたファッション界に皆うんざりしていて、本当に美しいものが渇望されているんです」と彼は答える。「ファッションは心に強く訴えるもので、私が作る服には魂が宿っています」

ララ・ワーシントンのために手がけたシアーなランジェリー風のガウン。『アバター_ファイヤー・アンド・アッシュ』のパリプレミアにて。
"Avatar: Fire And Ash" European Premiereララ・ワーシントンのために手がけたシアーなランジェリー風のガウン。『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』のパリプレミアにて。

“虫に食われたドレス”というと聞こえは悪いが、虫食い穴をも繊細なデザインに昇華させるギチェヴの服には時代を超越する魅力がある。One Of A Kindで扱う希少で非常に高価なアーカイブピースとは異なり、彼が手がける服は、20年代、30年代、70年代、80年代とあらゆる時代からインスピレーションを受けている点でもユニークだ。

One Of A Kindに週4日出勤し、空いた時間にはパリの蚤の市に足繁く通うギチェヴはいつも個人的に強く思い入れのあるものからインスピレーションを得ており、トレンドに便乗することはない。ブルータリズム建築などが多く見られたブルガリア人民共和国で育った彼は子どものころ、祖母の家のちぐはぐな壁紙とソファの柄、彼女がいつ何時も刺繍していた鮮やかなタペストリーが大嫌いだった。だが、かつて嫌いだったこれらは、今ではルックを構想するとき、真っ先にインスピレーションとして思い浮かぶという。「まったく調和の取れていない、あり得ない組み合わせだったのに、なぜかとてもまとまっていたんです」

セレブ間でヴィクトル・ギチェヴの人気が高まるのは、時間の問題だろう。だが、ギチェヴは相変わらずブレず、自分のビジネスを花の成長に詩的に例える。「私はビジネスのセンスはないですが、直感はあります」と彼は言う。「心と心のつながりが大切で、いつも自分の動くべきタイミングがわかるんです」

Text: Alice Newbold Adaptation: Anzu Kawano

From VOGUE.CO.UK

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