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アキレス腱を10分振動させるだけで出力が上がった──運動のライフハック

  • 2026.1.9
アキレス腱を10分振動させるだけで出力が上がった──運動のライフハック
アキレス腱を10分振動させるだけで出力が上がった──運動のライフハック / Credit:Canva

カナダのモントリオール大学(UdeM)で行われた研究によって、アキレス腱を10分間ブルブルするという簡単な刺激が大きな効果を持つことが示されました。

研究では足首のアキレス腱と、ひざのお皿の下の腱(けん)を10分間ブルブル振動させたあと、固定式の自転車をこいでもらいました。

すると本人の「キツさスコア」はほぼ同じなのに「中くらいのしんどさ帯」ではこぎ出す力が平均で約2割上がり、「かなりキツい強さ」では連続時に約8%ほど落ちていたパワー低下がほとんど起きませんでした。

つまり感じているしんどさは同じなのに、パフォーマンスが明確に上昇していたのです。

この結果はごく簡単な振動が人間の「しんどさメーター」をハックできる可能性を示唆しています。

しかし、いったいなぜ腱をブルブルするだけでここまで大きな差が出たのでしょうか?

研究内容の詳細は『Journal of Sport and Health Science』にて発表されました。

目次

  • しんどさメーターはどこで決まるのか
  • 10分のブルブルで出力とパワー維持力が上昇
  • なぜ腱の振動が有効なのか?

しんどさメーターはどこで決まるのか

しんどさメーターはどこで決まるのか
しんどさメーターはどこで決まるのか / Credit:Canva

同じスピードで一緒に走っているのに、自分だけゼエゼエしていて、隣の友だちはケロッとしている。

体育の時間や部活動で、そんな経験をした人は多いと思います。

マラソン大会のテレビ中継を見ても、ある選手はまだ余裕の表情なのに、別の選手は苦しそうに顔をゆがめています。

心拍数や筋力も違うのでしょうが、「どれくらいしんどいと感じるか」は、人によってかなり違います。

研究者たちは、この「努力感」が、運動をやめるか続けるかを決める大きなスイッチだと考えてきました。

同じ運動量でも「もう無理」と感じてしまう人はそこでやめてしまい、「まだいける」と感じる人はもう少し先まで行けます。

努力感は、単に筋肉や心肺の状態だけではありません。

従来のモデルでは、この「脳の命令のコピー」が主役だとされてきましたが、近年の研究は、筋肉から脳に戻ってくる情報も努力感に効いていそうだと示唆しています。

そこで今回、研究者たちは「腱振動で筋紡錘からの信号を変えてやると、「しんどさメーター」と実際の出力の関係がズレるのではないか?」と考えました。

もし筋肉に操作を行うことで脳に向かう「しんどさメーター」の感度をズラせるならば、同じしんどさでも、より強い力を出せる可能性があるからです。

しかし本当にそのような「しんどさメーターのハッキング」ができるのでしょうか?

10分のブルブルで出力とパワー維持力が上昇

「しんどさメーター」のハッキングは可能なのか?

答えを得るため研究者たちは被験者たちの腱に振動を加えることにしました。

具体的には、足首のアキレス腱とかかと、膝蓋腱とそのすぐ下の部分を両脚とも装置で挟み、座ったまま十分間、毎秒百回(百ヘルツ)の速さで一ミリメートルほどの小さな振動を加えました。

そして自転車こぎを「中くらいにキツイ」と感じる強さで3分間行ってもらいました。

結果、腱振動のあとの三分では、参加者たちの平均パワーはもとの値からおよそ2割増え、心拍数と筋電図も有意に上がっていました。

それでも本人たちが報告した「中くらいのキツさ」のスコアは変わりませんでした。

これは、同じ「中くらい」のつもりでこいでいるのに、実際にはギア一段分重いペダルを踏めてしまっていたことを意味します。

次に「かなりきつい」と感じる強さで自転車こぎを2セット行ってもらいました。

すると、偽の弱い振動条件では、同じ参加者において1セット目と2セット目を比較すると疲労のためにパワーが約8パーセントほど落ちていました。

しかし本物の腱振動を行った条件では、同じ参加者でも2セット目でのパワーの低下はほとんどみられませんでした。

つまり、限界近くの強度でも、「いつもならそろそろ失速する」タイミングを少しだけ先送りできていたことになります。

では、なぜ腱を振動させるだけで、同じキツさのつもりで実はもっと頑張れてしまうのでしょうか。

なぜ腱の振動が有効なのか?

なぜ腱の振動が有効なのか?
なぜ腱の振動が有効なのか? / Credit:Canva

なぜ腱の振動が有効なのか?

著者たちは、筋紡錘からの信号がカギだと考えています。

筋紡錘は、筋肉の長さや伸び縮みの速さを測る「長さセンサー」で、今どれくらい力がかかっているかを脊髄や脳に報告し続けています。

過去の実験ではアキレス腱や膝蓋腱(しつがいけん)を数分〜十数分にわたって細かく振動させると、腱反射が抑えられ、筋紡錘からの信号が弱まることが報告されています。

そのため研究者たちは、腱を十分間も振動させ続けると、同じ場所が何度も刺激されるため、「しんどさ信号」の量も減る可能性があると考えています。

精密な物理センサーを測定前に乱雑に振るうと正確な測定ができなくなるのと似た現象が起きたと言えるでしょう。

そして脳の側ではセンサー側の信号が少なくなれば、「思ったほどきつくない」と評価され、そのぶん運動指令を上乗せしてしまうことになったのだと考えられます。

これは、「努力そのもの」をどうにかするのではなく、「努力の感じ方をチューニングする」という、新しいアプローチの現実味を示すデータだと言えます。

ただ全ての運動においてこの効果が適応されるかは不明です。

研究代表のベンジャミン・パジェー教授は「この効果はまだ3分間の短いサイクリング運動でしか確かめられておらず、マラソンのような長時間運動ではテストされていません」と慎重に述べています。

また、努力感が軽く感じられるということは、逆に言えばオーバーワークやけがのリスクも高める可能性があります。

医療やフィットネスの現場で使うには、安全性と長期的な影響について慎重な検証が必要です。

それでも、この成果から見えてくる未来はなかなか魅力的です。

多くの人がつまずくのは、「最初の数分がきつすぎて、そもそも続ける気になれない」というところです。

もし今後の研究で安全性が確認され、ウォームアップのあいだに軽く腱を振動させることで、「同じつもりの努力」でほんの少しだけ多く動けるデバイスが開発されれば、運動習慣の“最初の壁”を下げる力になり得ます。

もしかしたら未来の世界では、ジムやリハビリ施設の片隅には「腱の振動装置」が当然のように置かれているかもしれません。

元論文

Prolonged passive vibration of Achilles and patellar tendons decreases effort perception during subsequent cycling tasks
https://doi.org/10.1016/j.jshs.2025.101061

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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