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その推し活、大丈夫?「つらい推し活」にしないための大切なポイントを禅僧・枡野俊明さんがアドバイス

  • 2026.1.6

その推し活、大丈夫?「つらい推し活」にしないための大切なポイントを禅僧・枡野俊明さんがアドバイス

今回は、「大ファンで推しているアーティストの握手会に何度も参加しているのに、覚えてもらえない」という相談です。「推し活はおすすめ」という禅僧・枡野俊明先生に、その理由や健全な推し活とは何かを伺いました。

門を開けば

「開門福寿多(門を開けば福寿多し)」
自ら門を開くことで福を招き入れようという禅の言葉です。

人生を前向きに元気に楽しむために「推し活はおすすめ」という枡野さん。さて、その理由は?

<今月のテーマ>
「大好きな推しに覚えてもらえません」

大ファンで応援しているアーティストの握手会に数えきれないほど参加しています。会えるのはとてもうれしいのですが、いつになっても、何度参加しても自分のことを覚えてもらえない悲しみも感じます。

心が震える体験は年齢が上がるほど大事

大好きな「推し」がいるというのは、それだけでとても素敵なことだと思います。その人を追いかけてコンサートに行ったり、CDショップを回ったり、ファンクラブの情報をチェックしたり、毎日がアクティブになっていきますよね。

以前、私の寺にお参りに来られた年配の女性が、とてもかっこいいTシャツを着ていました。よく見るとイギリスのロックバンド、クイーンのTシャツだったのです。「クイーンがお好きなのですか?」と聞くと、「若い頃から大ファンなんです」と言います。何年か前の来日公演にも行かれていて、そのときに販売されていたライブTシャツなのだそうです。しかも驚いたことに、東京でのコンサートだけでなく、大阪と名古屋にも駆けつけたのだとか。その話をうれしそうに語るお顔がキラキラ輝いていて、50歳以上若返ったかのように見えました。

禅には「花を見るものは老いを知らず」という言葉があります。年齢を重ねると、どうしても若い頃のように感動することが少なくなりがちです。多くの経験を重ねたがゆえに、何を見ても新鮮さがなくなってしまうのかもしれませんね。だからこそ、花の美しさに心を震わせることができる人は、いつまでも若々しくいられるのです。

この「花」とは「推し」と同じ意味だと思います。相談者さんは美しい花を愛でるように、「推し」に胸をときめかせ、心を揺さぶられているのです。それは「推し」のもつ強いエネルギーを全身で受け止め、命が共鳴しているからなのでしょう。その命のみずみずしさは、若者に負けてはいません。そんな気持ちにさせてくれる存在がいることそのものが、幸せなのだと私は思います。

看花老不知——はなをみるものは おいをしらず

美しい花を愛する心をもつ人は
いくつになっても老いを知らない。
推しを応援する心も同じです

覚えてもらわなくても幸せを感じられるはず

ただ、相談者さんは「推しに覚えてもらえない」と悲しい気持ちになっています。一方通行の片思いはつらいですが、「推し」は一般人ではありません。握手して言葉を交わすことができるとはいえ、その人数は膨大なもの。なかには覚えてもらえる人もいるかもしれませんが、それはかなり運のいい人でしょう。相手にとっては何千人、何万人のファンの一人であることを忘れてはいけません。

先ほど「花」と「推し」は同じ意味だと言いましたが、花をどんなに見つめたとしても、花は私たちに何かしてくれるわけではありません。ただそこで咲くだけです。「推し」も同じで、ただアーティストとして活動するのが本来の姿です。その姿を見守ることこそ、推し活の醍醐味といえるのではないかと、勝手ながら思うのです。

健全な推し活こそが人生を豊かにしていく

今の社会はSNSの広がりもあり、実際に会ったこともない人を批判したり、攻撃したり、誹謗中傷を繰り返したりする人が少なくありません。その矛先はときに、アイドルやタレント、俳優などに対しても向けられます。ひどい場合には相手をつけ回したり、暴行したりするケースもあります。「推し」を自分だけのものにしたい、思うように動かしたいという我欲が強く働いてしまうからなのでしょう。それは最悪の推し活です。

相談者さんは現在、とても健全に推し活を楽しんでいることと思います。でも「気づいてもらえない」ということで悲しい気持ちが強くなると、マイナスの感情に振り回されてしまう可能性がないとはいえません。そんなときには、少し距離を置くことも大切だと思います。

純粋な推し活は、自分を成長させる活動です。そこには感動があり、誰かを応援することで自分自身も成長します。大好きだと思える人に出会えたこと、感動をもらえること、それだけを純粋に楽しんではいかがでしょうか。

そしてこれを読んでいる人たちにも、ぜひ「推し」を作ってほしいと思います。私たちは誰しも、幼い頃には時間を忘れて何かに夢中になったはずです。大人になるにつれて「やらなくてはいけないこと」が増えると、そちらの優先順位が高くなって、好きなことをする時間を置き去りにしてきたのではないでしょうか。自由な時間が増えた今こそ、再び何かに熱中できるチャンス。それは人生をアクティブにし、老いを遠ざけます。

「推し」は人間でなくてもいいのです。動物でも植物でも鉄道でも、旅行などの体験でもいい。もちろん一つにこだわる必要もありません。夢中になれるものがあればあるほど、人は幸せに生きられるのですから。

アドバイスいただいたのは

枡野俊明さん
曹洞宗徳雄山 建功寺住職
1953年神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山 建功寺第18世住職。庭園デザイナー。多摩美術大学名誉教授。「禅の庭」を通して国内外から高く評価され、2006年ニューズウィーク日本版「世界が尊敬する日本人100人」に。『悩みを手放す21の方法』(主婦の友社)など著書多数。

取材・文/神 素子

※この記事は「ゆうゆう」2026年2月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

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