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私の忘れたくない一行。マーサ・ナカムラ、文月悠光、向坂くじら、姜 湖宙が選ぶ「詩」

  • 2026.1.6
マーサ・ナカムラ、文月悠光、向坂くじら、姜 湖宙

マーサ・ナカムラ

忘れたくない一行

きみに影をつくる、生きて在ることの静かな明るさ

岸田将幸「月明かり」より。『風の領分』(書肆 子午線)収録。

命ある限り、肉体から離れて生きることはできない。でも私の体は、冷たくて重たい枷(かせ)ではないのだ。命は暗い影を落とす物体ではなく、まるで電球のように、ただそこにあるだけで温かく光る。命の明るさに慣れて、暗くなっていた私の目を覚ましてくれた。

忘れたくない、自身の一行

強くて無欠な私を、一体誰が望んでいるのだろう。

「筑波山口のひとり相撲」より。『狸の匣』(思潮社)収録。

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マーサ・ナカムラ

マーサ・ナカムラ

1990年生まれ。第23回中原中也賞、第28回萩原朔太郎賞受賞。詩集に『狸の匣』『雨をよぶ灯台』(共に思潮社)。『望星』などで連載中。

文月悠光

忘れたくない一行

てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた

安西冬衛「春」より。『日本の現代詩101』(新書館)収録。

一行詩といえば、まず思い浮かべる作品。「てふてふ」の字面・音の柔らかさに対して、「だったんかいきょう」の音・発音時の口の楽しさ。蝶という小さなモチーフに焦点が合った後、海峡の壮大な景色が広がります。まるでカメラがズームアウトしていくように。豊かなイメージの広がりにぜひ注目してください。

忘れたくない、自身の一行

きっと、この日記のすべてが幼いと笑える日がくる。さっさとむかえにきてよ。

「日記帳のわたしへ」より。『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)収録。

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文月悠光

文月悠光

ふづき・ゆみ/1991年北海道生まれ。詩集『パラレルワールドのようなもの』(思潮社)で第34回富田砕花賞受賞。

向坂くじら

忘れたくない一行

きみは毎朝毎晩死んでいいんだ

谷川俊太郎「新しい詩」より。『詩の本』(集英社)収録。

この一文に、私はこう問われている気がする——命より大切なものはあるか。昨日までの自分を手放すのは怖いけれど、それで「いいのだ」とはっとする。引用元は詩の書き方についての詩で、そんなものさえ詩にしてしまうのもすごい。

忘れたくない、自身の一行

羽化が一度きりだと誰が言った?

「変態」より。『とても小さな理解のための』(しろねこ社)収録。

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向坂くじら

向坂くじら

さきさか・くじら/国語教室ことぱ舎代表。著書『夫婦間における愛の適温』(百万年書房)など。2024年『文藝』に初の小説を発表。音楽ユニット〈Anti-Trench〉でも活動。

姜 湖宙

忘れたくない一行

公衆電話ブースの受話器越しには無限に向かって孤独の綿畑が広がっていた

朴正大「感情の孤独」より。『朴正大詩集』(土曜美術社出版販売)収録。

第1言語の揺らぎ、日韓を行き来する生活。かつての私はどこにも根がないと感じていた。日本語で詩を書けば書くほど、韓国語やアイデンティティへの執着を強め、むしろ孤独が深まる。それでも、孤独は決して閉じられてはいけないと今の私は知っている。孤独はつながっている。この一行を読むたび、生の感触を確かめられる。

忘れたくない、自身の一行

(ねえ、おんま。今日は、むしの声が聴こえないね。)

「秋夜」より。『湖へ』(書肆ブン)収録。

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姜 湖宙

姜 湖宙

カン・ホジュ/1996年韓国・ソウル生まれ。2023年、『湖へ』(書肆ブン)でデビュー。

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