1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「COPY CORNER」で“東京を刷る”。日常をリソグラフで再編集する時間|14:00@原宿

「COPY CORNER」で“東京を刷る”。日常をリソグラフで再編集する時間|14:00@原宿

  • 2025.12.23

個性豊かなという言葉では物足りないくらいのユニークなショップが並び、オープンから原宿で新たなカルチャーを発信し続けてきたハラカド。ランチタイムの賑わいもひと段落し、人並みが少しだけゆるやかになったフロアの一角に、一風変わった5.5坪の空間「コピー・コーナー」はある。

14時、原宿・ハラカド。
ここは、印刷を通してアイデアを“出力”するための実験室。その中心にあるのが、リソグラフ印刷だ。デジタルとアナログを交錯させながら、見知ったはずの日常と日用品を再編集するこの場所で、「創造の喜び」を見つめ直す。

リソグラフとは何か? 「印刷の偶然性」がもたらす魅力

理想科学工業(通称:RISO)が生み出したリソグラフ印刷機。Harumari Inc.

リソグラフは、1980年に登場した日本発の印刷手法である。印刷を行う専用機も、見た目はよくある「コピー機」そのものだが、光学的にデータを処理する一般的なそれとは違い、シルクスクリーンやガリ板と同じ「孔版印刷」の仕組みを利用している。

デジタル化した写真やイラストデータから、プリントのたびにマスターと呼ばれる「版」を作り、それを通して紙にインクを押し出して像を描く。複数の色のインクを重ねることで、水彩のような絶妙な色味も表現できる。

ショップ内には様々なアーティストのリソグラフ印刷を用いた作品が並ぶ。Harumari Inc.

デジタルプリントでありながらアナログの要素を併せ持つリソグラフ。それゆえ、偶発的なズレやかすれを生み出し、刷り上がった「コピー」に独特の風合いをもたらす。どこかレトロで奥行きのある質感が再評価され、近年、世界中のクリエイターからも注目されているのだ。

コピー・コーナーは、そんなリソグラフ印刷を実際に体験できる“共有の印刷所”。午後14時、原宿の喧騒から少しだけ離れて、自分だけのアイデアを「出力」してみたい。

リソグラフ体験で感じる、「私にとっての東京」

壁の掲示から感じるノスタルジー。かつてはあちこちにあった「街の写真屋さん」を思いださせる。Harumari Inc.

今回は、リソグラフ体験の中でも一番の入門編、カメラやスマートフォンで撮った写真をその場で出力するサービス「HARD COPY CLUB」に挑戦した。予約は不要、ふらりと気軽に訪問できるのが嬉しい。

まずは印刷する写真選びから。本日、自身に課したテーマは「私にとっての東京」。スマホの中から、この日何気なく撮影した原宿の風景と、お気に入りの場所である井の頭自然文化園の思い出を選ぶ。

夏に訪れた井の頭自然文化園の写真。Harumari Inc.

用紙サイズはトレーディングカード・ポストカード・B5サイズの3種類。インクは2色印刷(組み合わせは4種類)と4色のフルカラー印刷から選べる。

同じ写真でも、インクの色が変わればまったく表情が変わる。今日の自分が選ぶ東京は何色だろうか? 見本を見比べながら悩む時間も、なんだかワクワクする。

サイズと色が決まったら、その後の作業はスタッフの手で実施される。プリントができあがるまでの工程もじっくりと見守りたい。

まずはパソコン上でマスターの元になるデータを作成。色の数だけ版が必要になるため、一枚の写真が要素ごとに切り分けられていく。

インクドラムを取り出して、リソグラフ本体にセット。作動音を響かせること数分、本体内でマスターが作成され、プリントが出力される。実体を伴う、確かな臨場感がなんとも愛おしい。

実際に写真が「マスター」になっているのを目の当たりにして、思わず歓声!Harumari Inc.

一色ごとに試し刷りをして印刷位置を確認。微妙なズレを少しずつ修正する作業も、リソグラフならではだ。コンマ数ミリ単位で調整を行うが、100%一致させることは難しい。

よく見るとトンボ(印刷位置の基準になるライン)がずれて二重になっているのがわかる。Harumari Inc.

しかしながらこの「ゆらぎ」こそが、リソグラフ印刷の最大の魅力でもある。刻一刻と表情を変えるこの街の味わいにも、どこか似ている。色と色、その淡い重なり合いが創り出す瞬間。ひとつとして、同じ「東京」はない。

インクドラムの交換と製版、試し刷りを繰り返すこと数回、20分ほどでプリントが完成! 同じ写真でも、色の出方やかすれ具合が微妙に異なる。

何気なく切り取った風景と、もう一度出会い直すような感覚。「コピー」とは、均質化された「複製」である──そんな現代の価値観を覆す、不完全性の美学をリソグラフが取り戻してくれる。

COPY CORNERが生み出す、ひらかれた印刷文化

左:デザイナー 鳳崎優和さん 右:広報 池田日南乃さんHarumari Inc.

コピー・コーナーを運営するのは、日本を代表する文房具・事務用品メーカーであるコクヨ。同社広報・池田日南乃さんとデザイナー・鳳崎優和さんに話を聞いた。

「コクヨは、ノートやファイルといった日常的な大量生産品を主力商品としてきましたが、その価値を再考するための実験的かつ実践的なプロジェクトとして、コピー・コーナーを立ち上げました。一点一点質感が異なるリソグラフ印刷を用いて、クリエイターとのコラボレーションやワークショップなどを行うファクトリーとショップを併せ持つ場になっています」。(池田さん)

「プロクリエイター・一般ユーザーの区別なく、誰もが一緒になってクラフトを楽しむ空間を目指しています。さまざまな目的を持った人々が訪れる原宿だからこそ、偶然の出会いが期待できる。こんな街なかで“開かれたものづくり”をすることも、おもしろさではないでしょうか」。(鳳崎さん)

こちらのプロダクトも「実験的」に作られたアイテム。本物のモンステラの葉をスキャンしてリソグラフで印刷したもの。「身近なものが不意にアートになるのが、リソグラフの魅力ですよね」。(鳳崎さん)Harumari Inc.

「一人ひとりの視点を“出力”することで、誰かと想いを共有したり、お互いのアイデアと混ざりあったり……印刷がそのきっかけになったら良いなと思います」。(池田さん)

印刷とは、世界をもう一度見つめ直す手段である

印刷は、メディアの起源とも言える。すなわち人から人へ情報を拡張する技術である。

個人の中にとどまっていたアイデアが、プリントすることで初めて手に取れる「かたち」を持つ。確かな輪郭が生まれ、分かちあうことも可能になる。それはまさしくクリエイティブの原点であり、印刷が持つ本来の力なのではないだろうか。

「コピー」とは、ただ複製する手段ではない。世界をもう一度“自分の手で受け止め直す”ための、ひとつの方法なのだ。インクを選び、重ね、偶然のズレを楽しむ──その選択と思考の先にあるもうひとつの風景を、リソグラフ印刷は出力してくれる。

コピー・コーナー
住所:東京都渋谷区神宮前六丁目31番21号東急プラザ原宿「ハラカド」3階
電話:03-6450-6513
営業時間:11:00 〜 21:00
https://think-of-things.com/pages/copy-corner
元記事で読む
の記事をもっとみる