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【ばけばけ】ほほえましさとじれったさ。少しずつ心の距離が近づき、あとは互いに抱える気持ちが何であるかを気づくだけ!

  • 2025.12.22

【ばけばけ】ほほえましさとじれったさ。少しずつ心の距離が近づき、あとは互いに抱える気持ちが何であるかを気づくだけ!

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。『怪談』でおなじみ小泉八雲と、その妻 小泉節子をモデルとする物語。「ばけばけ」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

「私、怪談、知っちょります」

「カイダン、ネガイマス!」
いよいよきた! といったところである。

日本に伝承される怪談をもとにした作品を発表したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)とその妻・セツをモデルとしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』。第12週のサブタイトルがまさにこれそのもの、「カイダン、ネガイマス。」だった。

このドラマはハーンとそのパートナーがメインである以上、ヘブン(トミー・バストウ)が日本の怪談にどう出会い、どう残していくのかといったところが大きな山場であることは確かである。しかし、これまでにも本コラムで何度か触れてきているが、万人が知る何かを残した人物にスポットをあてた朝ドラに比べると、それがいつ起きるのかということがあまり気にならない作品といっていい。

怪談も、髙石あかり演じるトキが、母のフミ(池脇千鶴)より幼いころから寝る前やつらいことがあったときに何度も聞かされて育ってきたなど、折々に触れられてはいるが、それはあくまでもキャラクターを彩る要素のひとつのようでもあり、キャラクター性豊かな登場人物たちがおりなすテンポのよい日常を積み重ねたストーリー運びによって、ヘブンはいつになったら怪談を書くことになるんだろう? となったりせず、ドラマの世界観に寄り添いながら折り返し地点付近までたどりついている。

そんなヘブンが大きく怪談に感銘を受けるのが、本作で何度も登場する大雄寺で、伊武雅刀演じる住職から『水飴を買う女』を、小さな墓の前で聞かされるくだりである。

——ある飴屋に、痩せこけたカゲロウのような女が夜な夜な水飴を買いにきていた。
ある晩、不審に思った飴屋があとをつけると、女は墓の前で姿を消し、土中から赤ん坊の泣く声がする。
あわてて掘り返したところ、そこには亡くなった母親と、生まれたばかりの赤ん坊が。
お腹に子を残したまま亡くなった母の思いが幽霊となり、水飴を買いにきていたのであろうと……——

このなんとも悲しい怪談にヘブンは号泣する。そして、こう言った。
「ハジメテ、カイダン、スバラシ……」
「モット、ホシイ……」

日本(松江)に伝わる怪談をもっと聞かせてほしいという。しかし、寺に伝わる怪談は、この墓にまつわるものだけ。

書斎に座るヘブンに、トキはこう声をかけた。
「怪談に、ご興味あるですか……?」

ヘブン、くいつく。トキのアピールは続く。
「私、怪談、知っちょります」「ようけ、ようけ、知っちょります」

ヘブンは「Really!?」と大興奮だ。まさかこんな近くにとも言っていたが、自分が求めるものをトキがたくさん持っていた。これこそが、ヘブンが錦織(吉沢亮)に伝えていた、日本滞在期を完成させるために必要な〝ラストピース〟、怪談であり、トキの存在そのものがラストピースとなるのかもしれない。

恋愛ドラマとしての匙加減のよさにも注目!

「ネガイマス! ネガイ! ネガイ!」
本を見せるのではなく、トキの口から聞かせろと言う。

薄暗いろうそくの光のもと、トキの怪談語りが始まる。
「モウイッペン!」

何度もせがむヘブンの純粋な喜びは、見ているこちら以上にトキにとっては嬉しいことであろう。ヘブンに対するトキの思いの変化が、少しずつ描かれてきているだけに、ここでさらにグッとヘブンの気持ちを掴めたのは大きすぎる前進だという気がする。実際に、スキップで帰宅し、布団を抱きしめて喜びをあふれかえらせているトキの姿は、一度結婚を経験しているもののとてもピュアでほほえましく映る。

余談的ではあるが、怪談を何度もせがまれ帰宅が遅くなっているトキを心配する松野家の面々の姿もまた、このドラマらしいコミカルさであり、その挟み込み方も絶妙なバランスである。

我々は当然ふたりがこの先どうなっていくかは知っている。大雄寺での墓を目にし、
「ハカ、スバラシ……」
「墓って寂しくていいですよね……」

こんなふうに、お墓に魅力を感じるやりとりが成立する、そんな描写ひとつとっても、ふたりの相性のよさは伝わってくる。

怪談語りを通じて、次第に自分の身の上を語るようになったりすることで、ヘブンが来日以来ずっと心のどこかに抱えていたであろう「孤独」が少しづつ薄らいでいるように感じられる。それは言うまでもなく怪談でなく、トキという女性の存在であることが分かるのは、この作品の脚本と演出の丁寧さが届けてくれるものなのであろう。

少しずつ心の距離が近づき、あとは互いに抱える気持ちが何であるかを気づくだけ……といったところのようでありながら、そこには大きな宿命も含まれている。ヘブンの〝ラストピース〟が埋まること、それはヘブンの日本での役目が終了することと同義でもある。それを、「タダノトオリスガリ」発言でうっすら傷ついて以降、ヘブンと距離を置いている錦織から指摘されるというのもうまいつくりである。

まだはっきりとその気持ちに気づいていないけれど、はじめから定められた運命が大きな壁として立ちふさがる。二人はその壁をどう超えていくのか。『ばけばけ』は、怪談を残したひとのドラマというばかりでなく、ほほえましさとじれったさをあわせもつ恋愛ドラマとしての匙加減のよさも注目すべきポイントではないだろうか。

二人それぞれの思いばかりでなく、ヘブンにとってはかつての妻の存在が、そして、今週ラストで届いた、トキのかつての夫・銀二郎からの手紙が、それぞれをかき回してきそうな空気で幕を閉じていった。

次回予告で、阿佐ヶ谷姉妹が担当し、ふたりの行く末を見守る〝蛇と蛙〟による語りも、野次馬的にこの四角関係となりそうな展開を盛り上げていた。

ラブストーリー・ばけばけ、蛇と蛙と同じように、その恋模様がどう転がるか、楽しみにしたい。

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