1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「カエルの腸内細菌投与でマウスのがん組織を完全に消失」画期的ながん治療細菌を発見!

「カエルの腸内細菌投与でマウスのがん組織を完全に消失」画期的ながん治療細菌を発見!

  • 2025.12.20
Credit:OpenAI

「カエルやトカゲががんになった」という話題は、日常生活ではあまり耳にしません。

これは両生類や爬虫類は身近に観察する機会が少ないため、知らないだけかな、と思う人もいるかもしれませんが、実はこれは単なる思い込みではありません。

実際、生物学の分野では、野生の両生類で自然発生腫瘍の報告が比較的少ないことが繰り返し示されており、その理由について専門家の間でも長年の疑問となっていたのです。

しかし、その理由は意外なところから示されました。

近年、人間を含む動物の研究で、腸内細菌が免疫の働きや腫瘍の進行に影響を与えることが明らかになりつつあり、野生の両生類で腫瘍の報告が少ない傾向についても、彼ら固有の腸内細菌に関連があるのではないかという仮説が登場してきたのです。

もし自然界の細菌ががんを抑える働きを持っているなら、それは新しいがん治療の手がかりになるかもしれません。

そこで、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の岩田清吾(Seigo Iwata)氏と、都英次郎(Eijiro Miyako)教授らの研究チームは、両生類や爬虫類の腸から細菌を採取し、それをマウスに静脈投与することで腫瘍にどのような作用をもたらすかを調べました。

すると、ニホンアマガエル由来の細菌がマウスの腫瘍を見えないレベルまで縮小させ、さらにそのマウスにがん細胞を移植しても成長しなくなるという非常に驚くべき現象が確認されたのです。

この研究は、科学雑誌『Gut Microbes』に2025年12月10日付でオンライン掲載されました。

目次

  • 野生のカエルやトカゲの腸は未知の「抗がん細菌」の宝庫かもしれない
  • なぜ細菌が腫瘍に集まり消し去ったのか

野生のカエルやトカゲの腸は未知の「抗がん細菌」の宝庫かもしれない

腸内細菌が体の免疫と深くつながっていることは、さまざまな研究で明らかになってきました。

例えば、免疫ががん細胞と向き合う仕組みに影響したり、薬が働くための下地を整えたりすることが知られています。

近年、腸内細菌とがんの関係が注目されていますが、これまでは腸内細菌叢全体を整えるなどの間接的なアプローチが中心でした。

今回の研究チームは、この前提を少し違う角度からとらえました。

細菌が免疫に影響を与えるなら、細菌そのものを体内に届けることで、がんと戦う力を直接高めることができるかもしれないという発想です。

つまり、細菌を「治療を支える補助的な存在」から一歩進めて、「治療そのものを担う存在」として活用できるかどうかを検討したのです。

研究チームが注目したのは、両生類や爬虫類の腸内細菌でした。

特に野生の両生類では腫瘍の報告が少ない傾向が知られており、もちろん観察の機会の差もあり得ますが、研究者たちは、その背景に腸内細菌の特徴が関わっている可能性を検討しました。

両生類や爬虫類は、ヒトとは大きく異なる体のつくりや生活環境をもっています。

その腸内に棲む細菌もまた、ヒトやマウスでは見つからない種類が多く、特殊な機能を持っているかもしれません。

こうした動物は、これまで医学研究の対象としてあまり深く調べられてこなかったため、まさに“未開拓の細菌資源”といえる存在です。

カエル・イモリ・トカゲから腸内細菌を集めがんを持つマウスに投与して調べる

研究チームはまず、日本に生息するニホンアマガエル(Dryophytes japonicus)、アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)、カナヘビ(Takydromus tachydromoides)の腸から細菌を採取しました。

そこから分離された細菌のうち、マウスに投与しても重い副作用が起きないものを選び、最終的に9種類に絞り込みました。

次に、がん細胞を移植して腫瘍をつくったマウスに、これらの細菌を静脈から1回だけ(単回)投与しました。

その後、腫瘍がどのように変化するのかを慎重に観察しました。

この実験では投与は単回投与で、薬のように何度も投与を繰り返したりはしませんでした。

カエル由来の細菌Ewingella americana(エウィンゲラ・アメリカナ)が注目を集めた理由

9種類の細菌のなかで、とくに目立った働きを示したのが、カエル由来のEwingella americana(エウィンゲラ・アメリカナ)でした。

この細菌を投与したマウスでは、腫瘍の大部分が縮小し、時間をかけて観察すると腫瘍が見えなくなる個体が多く確認されました。

さらに治癒したマウスに再び同じがん細胞を移植しても、腫瘍が成長しないという現象も見られました。

興味深い点は、この細菌が身体中に広がるわけではなく、腫瘍の内部に集中して増える傾向があったことです。

正常な臓器ではほとんど増えず、腫瘍の環境のみで活発に活動する性質が見られたのです。

この性質もがん細胞を縮小させた重要な要因になっていると考えられます。

なぜ細菌が腫瘍に集まり消し去ったのか

まずなぜこの細菌は腫瘍に集中して増殖したのでしょうか?

腫瘍の内部は、酸素が不足し、免疫の働きが弱まりやすい環境です。

エウィンゲラ・アメリカナのような通性嫌気性の細菌は、この低酸素状態で増殖しやすく、さらに腫瘍は局所の免疫抑制や血管の構造なども重なり、細菌が入り込みやすい条件がそろっていた可能性があります。

一方で、正常な臓器では免疫の監視が働きやすく、細菌が定着して増えることは起こりにくいと考えられます。

また、細菌が腫瘍内部で増えると、その存在が刺激となり、周囲に免疫細胞が引き寄せられます

特にT細胞やB細胞、好中球などががん組織に集まり、腫瘍を攻撃しやすい状態がつくられたことが示されています。

Ewingella americanaの抗腫瘍メカニズム/Credit:JAIST

さらに、この細菌を投与した腫瘍では、がん細胞が死んだことを示す変化(細胞死)が広い範囲で見られました。

つまり、細菌が腫瘍内で増えること自体が直接腫瘍に傷害を与えたことと免疫の攻撃が重なって強い抗腫瘍効果につながった可能性が示されています。

またこれらの効果は、細菌が持つ自然な性質に由来しているため、遺伝子を人工的に改変する必要がない点も注目されています。

再発が防がれたのはなぜか

治癒したマウスに再び同じがん細胞を移植しても腫瘍が成長しなかった点は、研究チームも特に注目した部分です。

これは、細菌の存在によって活性化された免疫細胞が、腫瘍の特徴を“記憶”した可能性を示しています。

体が一度経験したがん細胞を識別し、早期に対処できるようになっていたという解釈が考えられます。

ただし、このような免疫記憶が人間でも同じように働くかどうかは、今後の研究が必要です。

今回の研究は、腸内細菌と免疫のつながりを活かし、細菌そのものを治療の一部として利用できる可能性を示しました。

カエルの腸に棲む細菌が、がん治療の候補になり得ることは、これまでの研究にはなかった視点です。

研究の詳細はまだ初期段階にありますが、自然界の微生物の多様性を医療に取り込む新しいアプローチとして、今後の発展が期待されます。

この研究の限界と今後の課題

今回の成果はあくまでマウスを用いた実験で得られたものです。

人間に応用するには、安全性の評価が不可欠であり、とくに両生類や爬虫類由来の細菌をそのまま使うことには慎重な検討が必要です。

細菌を血管から入れる以上、投与量の最適化と安全性評価は不可欠で、ここが今後の大きな課題になります。

また、細菌が体内でどの経路を通って腫瘍へたどり着くのか、その詳細な仕組みはまだ十分に解明されていません。

今後は、ヒトに近い動物での検証や、細菌が持つどの遺伝子が抗腫瘍作用に関与するのかを特定する研究が求められます。

自然界の微生物を治療に活用するというアプローチは、これまでのがん治療とは異なる新しい方向性を示しています。

今回の成果は、その可能性を大きく広げる一歩となりました。

参考文献

両生類・爬虫類の腸内細菌から画期的ながん治療細菌を発見!
https://www.jaist.ac.jp/whatsnew/press/2025/12/15-1.html

元論文

Discovery and characterization of antitumor gut microbiota from amphibians and reptiles: Ewingella americana as a novel therapeutic agent with dual cytotoxic and immunomodulatory properties
https://doi.org/10.1080/19490976.2025.2599562

ライター

朝井孝輔: 進化論大好きライター。好きなゲームは「46億年物語」

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる