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免疫療法は「午後3時」が分かれ目:進行・死亡リスクに大きな差

  • 2025.12.15
免疫療法は「午後3時」が分かれ目:進行・死亡リスクに大きな差
免疫療法は「午後3時」が分かれ目:進行・死亡リスクに大きな差 / Credit:Canva

中国の中南大学(Central South University, CSU)の湘雅医学院付属がん病院で行われた研究によって、広範期小細胞肺がん(全身に広がった危険な進行性のがん)、同じ免疫療法+抗がん剤治療でも「いつ点滴するか」という時間帯によって、その後の生存期間に大きな差が出る可能性が示されました。

具体的には、免疫療法点滴が午後3時より前だったグループは、それ以降だったグループに比べて、がんの悪化リスクがおよそ半分、死亡リスクがおよそ6割低いとする結果が得られました。

薬や治療法そのものは変えず、『いつ治療するか』を変えただけで、なぜこれほどの差が生まれたのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年12月8日に『Cancer』にて発表されました。

目次

  • 免疫療法にも“時間帯効果”はあるのか?
  • 免疫療法は「午後3時前」が得? 数字で見えた大きな差

免疫療法にも“時間帯効果”はあるのか?

免疫療法にも“時間帯効果”はあるのか?
免疫療法にも“時間帯効果”はあるのか? / Credit:Canva

治療を受ける「時間帯」を変えるだけで寿命が延びる可能性がある――にわかには信じがたい話かもしれません。

通常、病院で治療を受ける時間は予約や都合で決まるため、患者側が深く考えることは少ないでしょう。

しかし、生物には体内時計(生物に備わった約24時間周期のリズム)があり、私たちの免疫機能にも時間帯によって働き方が変わる日内変動(時間帯による変化)があることがわかってきています。

実際、クロノセラピー(体内時計に合わせて治療する方法)という概念も存在し、薬によっては服用する時間帯で効果が変わるケースも報告されています。

とはいえ、がんの免疫療法でもこうした「時間帯効果」が同様に発揮されるかは未知数でした。

そこで今回、研究者たちは広範期小細胞肺がん患者において免疫療法の投与時間と治療効果の関係を詳しく調べることにしました。

本当に治療する時間帯によって生存率に差が生まれるのでしょうか?

免疫療法は「午後3時前」が得? 数字で見えた大きな差

免疫療法は「午後3時前」が得? 数字で見えた大きな差
免疫療法は「午後3時前」が得? 数字で見えた大きな差 / Credit:Canva

治療の時間帯によって生存率が変わるのか?

答えを得るため研究者たちは397人の広範期小細胞肺がん(全身に広がった危険な進行性のがん)患者を対象に、免疫療法薬と化学療法を併用した点滴を行った時間帯と治療後の経過を比較しました。

(※具体的には免疫療法の点滴開始時刻(最初の4回の中央値)について、午前11時から午後4時半までの間にいくつかの時刻の区切りを設けて、どの時刻を境目にすると治療した患者が最も良好な経過をたどるかを分析しています。)

その結果、「午後3時」を境目にしたとき、生存の差が最もはっきりすることが分かりました。

がんが悪化(または亡くなる)までの期間については、午後3時前グループのほうが明らかに長く、統計的には「進行リスクが約52%低い」という結果でした(調整ハザード比0.483)。

また、亡くなるまでの期間(全生存期間:OS)に関しても、午後3時前グループのほうが有利で、「死亡リスクが約63%低い」という値が得られました(調整ハザード比0.373)。

しかもこの数値は患者さんの状態や年齢、がんの広がり方など、もともと結果に影響しそうな要素を統計的に調整した後の数字です。

これらの結果は、「免疫療法の効果を高めるには治療する時間帯そのものが重要な要因になり得る」ことを示唆しています。

しかしなぜ時間帯でここまで明白な差が出るのでしょうか?

研究者たちは、免疫細胞と体内時計が関係している可能性があると述べています。

言い換えれば、免疫細胞たちが最も元気に活動している時間帯に治療を行えば、薬の効果でその勢いをさらに後押しできると考えられます。

イメージとしては、免疫細胞が繰り広げるライブが一番盛り上がっている時間帯に、アンプのボリューム(薬の効果)を上げてあげるようなものだと言えるでしょう。

実際、研究を主導した中国・中南大学の張詠昌(Zhang Yongchang)医師も「点滴のタイミングを調整するのは簡単で追加コストもかかりません。この手法は様々な医療現場ですぐに実践可能で、小細胞肺がんの現行治療プロトコルを変える可能性があります」とコメントしています。

時間帯という見落とされがちな要素が、がん治療の効果に大きく影響しうることが示唆されています。

とはいえ、この結果だけで「免疫療法は午後3時前が鉄則」と言い切ることはできません。

患者によっては免疫の調子がいい時間帯が夜型の人もいる可能性があるからです。

この研究では、朝型か夜型かといった体質そのものは直接は測定していません。

また「早い時間帯に治療を受けられた患者はもともと体調が良かったのではないか」といった時間に関する様々な可能性も、現時点では完全には否定できないからです。

それでも本研究は、時間帯を意識したがん免疫療法(クロノセラピー:体内時計に合わせる治療)が患者にもたらす恩恵の大きさを示す強力なヒントとなりました。

治療時間を調整するだけで効果が上がるなら、これほど簡単で有益な工夫はありません。

今後はランダム化比較試験(くじ引きで患者をグループ分けして評価する臨床実験)などで本当に時間帯の違いが奏功するのかを慎重に確かめ、因果関係を裏付けることが望まれます。

もしかしたら未来の世界では、がん治療の相談をするときに、「この薬が効くかどうか」と同じくらい真剣に、「何時に打つのがいちばん良いか」を医師と一緒に考えるのが当たり前になっているかもしれません。

元論文

Overall survival according to time-of-day of immunochemotherapy for extensive-stage small cell lung cancer
https://doi.org/10.1002/cncr.70126

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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