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なぜ鳥羽シェフは糖尿病になっても不安がないのか?「積極的バランス治療」で前向きな闘病を深堀り【鳥羽周作さんのターニングポイント#3】

  • 2025.12.13

なぜ鳥羽シェフは糖尿病になっても不安がないのか?「積極的バランス治療」で前向きな闘病を深堀り【鳥羽周作さんのターニングポイント#3】

第3回では、糖尿病をきっかけに広がった“ビジネスとしての可能性”と、“逆境に対する思考法”についておうかがいします。レシピ本だけでなくビジネス書も出版してきた鳥羽周作さんは、この病気をどう捉え、どう「自分のフィールド」に変えていこうとしているのか。その裏側にある「学習」と「センス」の話が、とても示唆に富んでいました。

「クライアントにモテる」ことは、病気にも通じる

――ビジネスパーソンとしての顔もお持ちですが、今回の糖尿病も「チャンス」と捉えられたそうですね。

鳥羽周作さん(以下、鳥羽シェフ):以前『モテる仕事論』という本を出したんですけど、これは「クライアントにモテる」という意味なんです。
クライアントが何を求めているのかをちゃんとリサーチして、その期待を上回るものを返す。そうすると、相手は喜ぶし、好きになってくれる。つまり、クライアントにモテることは仕事において超重要なんですよ。
糖尿病の話も同じだと思っていて、このジャンルでそういうことをやっている人がほぼいない。自分は料理の人間であり、糖尿病という課題も抱えている。ここにこそ、自分の立ち位置があると感じました。

低糖質・高たんぱくの「お弁当」サブスク構想

――具体的にはどんな形のビジネスを構想されているのでしょう?

鳥羽シェフ:糖尿病って、比較的長く付き合っていかなきゃいけない病気で、なかなか「完治」とまではいかない。だからこそ、サブスクのビジネスなんかは向いていると思うんですよ。
例えば宅配弁当とか。僕がプロデュースした弁当を、自分でも食べて健康になって、「これ、おいしいし数値も安定しますよ」と言えたら、説得力しかないじゃないですか。そこに、すごくビジネス領域のポテンシャルを感じています。

多くの人が「ネットで不安を増幅」するなかで

――それでも、病気になると不安のほうが先に立つ人が多いですよね。ネットで調べて、かえって怖くなってしまうというか。

鳥羽シェフ:そうですね。多くの人は、ネットで調べて、余計に不安になってしまう。
でも僕は、「大概のことは学習して対応できないことはない」と思っているんです。
何かに対応するとき、相手を知らないと戦えない。自分の物差しだけで乗り越えるのってすごく難しいんですよね。
たとえば好きな女性ができたとき、自分のいつもの“口説き方”が必ずしも通用するわけじゃない。相手の趣味や嗜好を知ることが必要ですよね。それと同じで、まずは“物事に対する解像度を上げる”ことが最初のステップなんです。

問題が起きたら「原因を全部洗い出す」

鳥羽シェフ:仕事だったら…例えば、売り上げが上がらないという問題があったとします。そのときに、「何が原因なのか」をちゃんと分解していくんです。
・味が美味しくないのか
・値段が高いのか
・立地が悪いのか
・サービスが良くないのか
いろんな要因が考えられるじゃないですか。
だから、今起こっている現象の原因をまず徹底的に調べる必要がある。その原因を引き起こしたもの自体についても、きちんと勉強していく。そうやって解像度を上げていくと、かなり精度の高い“対応の仕方”が見えてきます。

「積極的対応能力」が、受け身の人生を変える

――原因を探り、自ら勉強することが重要、と。

鳥羽シェフ:そうです。知識を蓄えることで、こちらから積極的に対応できるようになる。
“受け身”でいると、どうしても出足が遅れて、後手後手に回ってしまうんですよね。でも、勉強しておけば、それに備えることができる。仕事でもそうですし、糖尿病のような病気に対しても同じ。営業ひとつとっても、普通に進めていくのが理想だけど、必ずイレギュラーが出てくる。そのときに対応できるように準備しておくことが大事で、その準備というのは、不確定なものに対してするからこそ、ちゃんと勉強しておかなきゃいけない。
レストランで料理を出すなら、アレルギーを持っているお客さんが来たときにどうするか。
「このアレルギーならこのメニューは出さない」「代わりにこれを出す」といった準備も必要ですよね。
そういうことを、日々つぶさにやっているんです。自分から積極的に代替案を提案していく。それが、僕の言う「積極的対応能力」です。
受動的じゃなく主体的に解像度を上げていく作業が、先手を取るための方法だと思います。ていうか、このインタビュー、本当にビジネス書になっちゃいますね・笑!

仕事にも病気にも共通する「センス」の正体

――その姿勢があれば、仕事だけでなく、病気などプライベートな問題にも対応できる?

鳥羽シェフ:はい。全部そうだと思います。
物事の法則は同じで、「自分に降りかかっている問題に対して、きちんと原因を把握する」こと。そのために知識が必要なんです。
それが僕の言う“センス”にもつながってきます。
くまモンのデザイナーの水野学さんと仲が良いんですが(水野さんはレストランsioのロゴも担当している)、水野さんが「センスは知識から始まる」と言っていて。この“センス”というのは、おしゃれかどうか、という話ではないんですよ。物事に対して最適解を選べる能力があるかどうか、それがセンス。
たとえば、お葬式にめちゃくちゃおしゃれな格好で行っても、「センスあるね」とはならないですよね。お葬式にはお葬式のTPOがあって、その場に対する最適解を選べることが「センスがある」ってことなんです。
そして、そのためには絶対的な知識が必要。お葬式のことを知らなければ、ふさわしい服装もわからない。結婚式にどんなスーツを着るかも分からなければ、ちゃんと参加できない。
糖尿病に対しても同じで、「良い治療法を選べる人」がセンスのある人。そのためには、糖尿病のことを知らなきゃいけない。だから勉強するんです。

守るために、まずは「無知」を脱する

――なぜそこまでのモチベーションを維持できるのでしょう?

鳥羽シェフ:いろんなものを守るとか、救うとかって、そういうことだと思うんです。
無知で、何の力もない人間は、誰ひとり守れない。だからこそ、まずは知識を蓄えるために勉強をする。
それが、自分や大切な人を守るための最低条件なんじゃないかなと思います。

あとは「自分の物差しを持つこと」。人の言っていることを100%鵜呑みにしないことですね。人の言う“塩少々”と、自分の“塩少々”って、ぴったり同じじゃない。人それぞれ違うからこそ、自分なりの“塩少々”をつまめないとダメなんです。自分の感覚をきちんと定量化していくこと。
それを持ったうえで、物事を見つめることが大事なんだと思っています。

【鳥羽シェフのターニングポイント3】
糖尿病は「チャンス」でしかないです。自分は料理の人間であり、糖尿病という課題も抱えている。ここにこそ、自分の立ち位置があると感じました。さらに、ビジネス領域のポテンシャルも感じています。

撮影/三角茉由

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