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カフェインは脳の炎症を鎮め、不安やうつを和らげる可能性がある

  • 2026.2.24
カフェインは脳の炎症を鎮め、不安やうつを和らげる可能性がある
カフェインは脳の炎症を鎮め、不安やうつを和らげる可能性がある / Credit:Canva

ブラジルのフルミネンセ連邦大学(UFF:ブラジルの国立大学)で行われたレビュー研究によって、カフェインがストレスや炎症で「炎上」したネズミやラットの脳の炎症を鎮め、不安っぽさやうつっぽさの行動を弱める可能性が示されました。

研究では、マウスやラットを2日間の不眠にしたり、何時間も細い筒に閉じ込めて動けなくしたり、捕食者のネコの臭いをかがせて恐怖を与えたり、水の入った容器の中で泳がせる「強制水泳」、日替わりで予測不能なストレスを与える「慢性予測不能ストレス」、年上で力の強い個体に何度も追い回されて負かされる「社会的敗北ストレス」、腹部に細菌由来の毒素を注射して全身の炎症を起こすなどさまざまな手法でストレス状態にし、カフェインを与えた結果を調べて分析されました。(※これら動物実験は全て厳正な倫理審査を経たものです)

すると、多くの研究で「迷路をよく探検する」「水の中で早くあきらめない」「甘い水をまた好む」といった変化が起きていることを報告しました。

同時に、脳の中で炎症を進めるサイトカイン(免疫細胞どうしの連絡に使うたんぱく質)や、ミクログリア(脳の免疫細胞)の暴走、そして酸化ストレス(細胞がサビついたような状態)が落ち着くケースが多く見つかりました。

もしこの結果が正しければ、朝の一杯のコーヒーは、ただ眠気を飛ばすだけでなく、「脳の免疫のご機嫌取り」をしているのかもしれません。

では、カフェインは脳の中でいったい何をして、ネズミの「もう無理…」をどうやって変えてしまうのでしょうか。

研究内容の詳細は『Translational Psychiatry』にて発表されました。

目次

  • カフェインは脳と心の薬になり得るのか?
  • カフェインはマウスの「もうダメ…」を救う
  • カフェインで見えてきた希望

カフェインは脳と心の薬になり得るのか?

カフェインは脳と心の薬になり得るのか?
カフェインは脳と心の薬になり得るのか? / Credit:Canva

テスト前の徹夜明け、ギリギリまで眠気と戦いながら、苦いコーヒーを一気に流し込む――そんな経験がある人は多いと思います。

「これでなんとか乗り切れそうだ」と感じるあの感覚は、単に目が覚めるだけではなく、気分ややる気にも少し効いているように思えます。

不安症と抑うつは、今や世界で患者数が最も多いメンタルの病気の代表格とされています。

気分が落ち込むだけでなく、脳の中では神経細胞の配線が変わったり、ホルモンのバランスが乱れたり、そして神経炎症がじわじわと進んでいることが分かってきました。

こうした病気に対して、現在の薬はたしかに役に立ちますが、薬だけでは取り切れない症状もあります。

そのため研究者たちは、薬とは別ルートで脳を支える天然成分や栄養戦略に注目し始めました。

そこで浮かび上がってくるのが、世界で最も飲まれている精神作用物質、カフェインです。

カフェインは眠気やだるさを生むスイッチ(アデノシン受容体)をブロックし、ドーパミンやセロトニンなど「やる気」と「快感」に関わる回路をゆさぶります。

さらに、抗酸化作用や免疫調節作用も持つことが知られており、「覚醒だけではない多面体の顔」を持つ成分なのです。

しかし、これまでの研究はバラバラでした。

ある報告では不安が減るのに、別の報告では増える。

炎症が下がったり上がったり、量もタイミングもまちまちで、「結局カフェインはメンタルにとって味方なのか敵なのか」がよく分かっていませんでした。

そこで今回研究者たちは、「不安・うつの動物モデル」「神経炎症」「カフェイン」という三つの条件をすべて満たした実験だけを世界中から集めて、ネズミの『もう無理』がカフェインでどう変わるのかを、行動と脳の中身の両方から整理し直すことにしました。

もし本当に、「気分が上がること」と「脳の炎症が引くこと」が一本の糸でつながっているのだとしたら、私たちの朝の一杯の意味は、がらりと変わってしまうかもしれません。

カフェインはマウスの「もうダメ…」を救う

カフェインはマウスの「もうダメ…」を救う
カフェインはマウスの「もうダメ…」を救う / Credit:Canva

カフェインは本当にストレス脳を変える力を持っているのでしょうか。

その答えを探るために、研究者たちはまず大規模な文献さがしから始めました。

対象になったのは、不安やうつを再現するようにストレスをかけられたネズミやラットです。

具体的には、先に述べたように、狭いところに何時間も閉じ込める、猫のにおいを嗅がせる、睡眠を奪う、細菌毒素LPS(リポ多糖)を注射する、といった方法で「不安っぽい」「うつっぽい」状態を作ります。

その後、カフェインを少量から中等量、場合によってはかなりの高用量まで飲ませたり注射したりし、行動の変化を測りました。

不安やうつ状態が解消されたかを調べるにあたっては、高いところの十字型迷路で開けた道にどれだけ出ていけるかを見る高架式十字迷路、暗い箱から明るい箱へ出てこられるかを見る明暗箱、甘い水をどれだけ好むかを見るテスト、水槽からどれくらいあきらめずにもがくかを見る強制水泳テストなどです。

(※繰り返しになりますが、これら動物実験は全て厳正な倫理審査を経たものであり正当な研究です)

多様なストレス実験のイメージ図
多様なストレス実験のイメージ図 / 本レビュー研究の対象となった研究論文で取り扱った動物実験は全て厳正な倫理審査を経たものであり正当な研究です/Credit:川勝康弘

すると多くの研究では、中くらいの量のカフェインを与えられた動物は、開けた場所をよく探検し、甘い水をまた好み、水の中でもすぐにはあきらめなくなりました。

同時に、脳の中ではいろいろな変化が起きていました。

炎症を進める物質(IL-1βやTNF-alpha、IL-6)が減ると同時に逆に炎症を抑える物質(IL-10やIL-4)が増えたという結果が多く見つかりました。

また脳の神経を支える細胞(ミクログリア(脳の免疫細胞)やアストロサイト(脳の支え役))の過剰な活性も落ち着き、酸化ストレスの指標であるMDA(脂質のサビの量)も減少し、抗酸化酵素が増える例も報告されています。

さらに脳の栄養になるたんぱく質(BDNF)が増え、新しい神経のつながりが育ちやすい環境になっていた、というデータもありました。

中には、カフェインで前処理した免疫細胞を移植する形で、ストレスで落ちた行動が戻ったと報告した研究もありました。

一方、用量を上げすぎると話は変わります。

論文は用量の幅が大きいことを強調し、体重1キログラムあたり5〜50ミリグラムの量では好転が多い一方、200ミリグラムのような高用量は不安がむしろ悪化したり、記憶が落ちたり、炎症マーカーが増えたりする「裏返し」の結果が出ました。

また別のレビューを引き、ヒトではパニック障害の人で400〜750ミリグラム(約5杯分とされる量)を摂取するとパニックが誘発・悪化し得る可能性にも言及しています。

少量の塩が料理をおいしくする一方で、入れすぎると全部しょっぱくなるように、カフェインも「加減」がとても大事だということが分かります。

(※なおFDAは多くの健康な成人で 1日400 mgが「一般に悪影響と結びつきにくい」目安(個人差あり)と報告しています。)

これらをまとめると、動物実験では、適切な量のカフェインは、眠気やだるさを生むスイッチ(アデノシン受容体)が関わる可能性もあり、ミクログリアの暴走を抑え、酸化ストレスを弱め、BDNFなどの「脳の栄養」を増やす方向に働き、結果として不安・うつ様行動を軽くしている可能性がある、と解釈できます。

カフェインで見えてきた希望

カフェインで見えてきた希望
カフェインで見えてきた希望 / Credit:Canva

今回のレビューにより、「中程度までのカフェイン投与(与えること)は、ストレスや炎症などで不安・うつ様になったマウスやラットの行動と脳の炎症マーカーを、同時に元の方向へ戻す傾向がある」ということが示されました。

著者たちは、カフェインとその仲間の物質を、「将来の栄養戦略に使えそうな天然分子であり、いまの限られた治療法を助けるアジュバント(補助候補)と位置づけています。

もちろん「ストレスにはカフェインだ」と言い切ることはできません。

今回のレビューはマウスやラットなどの動物実験から得られたデータを集めたものであり、人間でも全く同じ効果が出る保証はありません。

それでも、このレビューには大きな価値があります。

気分の落ち込みと脳の炎症、ミクログリアの働き、酸化ストレス、BDNFといったバラバラのピースが、「適量のカフェイン」という一本の糸でつながりうることを、動物レベルとはいえ具体的なデータで示したからです。

朝の一杯が、ただの眠気覚ましではなく、「脳の免疫のスイッチ」をちょっとだけ回しているかもしれない、という見方は、メンタルヘルスと生活習慣を結びつける新しい視点になります。

この研究成果を応用できれば、将来「薬だけでは取り切れない不安やうつの症状に対して、どのくらいのカフェインを、どんな人に、どのタイミングで足せばよいのか」を、もう少し科学的に語れるようになるかもしれません。

もしかしたら未来の精神科では脳の炎症や精神状態に応じてカフェイン摂取のアドバイスが行われているかもしれません。

元論文

Effects of caffeine on neuroinflammation in anxiety and depression: a systematic review of rodent studies
https://doi.org/10.1038/s41398-025-03668-x

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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