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「稼げないなら私のヒモになりなさい」夫を見下しマスターベーションにまで口出ししたバリキャリ妻の過ち

  • 2025.12.10

お金があれば人は幸せになれるのか。犯罪加害者の家族を支援するNPO代表の阿部恭子さんの著書『お金持ちはなぜ不幸になるのか』(幻冬舎新書)より、稼ぎの低い夫を飼い慣らしていた妻が受けた「しっぺ返し」を紹介する――。

男女のフィギュアが載っているシーソー
※写真はイメージです
経済力のない男性をあえて選んだ女性

本稿では経済的に自立した女性の悩みに焦点を当てたいと思います。

鈴木悦子は社会的に力のある父親を持つ裕福な家庭で育ちますが、進学や職業選択にあたって女性の選択肢は厳しく制限され、成績優秀にもかかわらず大学進学すら許されませんでした。

それでも悦子は、家族の支配から逃れるため、資格を取得し、ひとりで会社を経営できる社会的人脈と経済力を手に入れます。

悦子は支配的な男性の下で屈辱的な目に遭わされて育っています。そのため世間一般に言われる成功した男性は女性にだらしがなく、女性を不幸にするという思い込みが強く、あえて経済力のない男性との結婚を望みます。

悦子は裕福な家庭で育ち、働く気力のない男性との結婚を実現しますが、果たして望み通りの結婚生活が送れるのか、見ていきたいと思います。

「女は男を立てる」が家訓の家に生まれた女性
男性家族に奪われた未来――鈴木悦子(40代)

私の父親は都内で大企業の顧問をしている弁護士で、兄も弁護士をしています。兄はそこそこ有名な私立大学にやっとのことで入学し、10年くらいかけて司法試験に合格しました。

私は幼い頃から兄より成績優秀でした。しかし、我が家の家訓は「女は男を立てなければならない」。したがって、なかなか大学にさえ受からない兄を差し置いて、私が大学を受験することは許されず、まして司法試験など受ける資格はありませんでした。

「妹がお兄ちゃんより優秀だったら、お兄ちゃん傷つくでしょ」

母はいつも私にそう言って、勉強より家事やお洒落に力を注ぐことを勧めました。

この家の女性たちは職業選択の自由と引きかえに、働かなくても生きていける特権を与えられるのです。

お金持ちの「甘やかされ息子」との出会い

高校卒業後、私は父の経営する法律事務所で手伝いをさせられることになりました。弁護士や大企業の社員とのお見合いを嫌というほど勧められましたが、私は断り続けていました。

父には愛人がいましたし、母に手を上げることもしばしばでした。兄も同じです。学生時代、女性を妊娠させたという話も聞いています。家族が紹介してくる男は、似たり寄ったりに違いありません。私は家族から解放されて自由を手に入れたいと思い税理士の資格を取得し、いずれ独立するつもりでした。

事務所にアルバイトに来ていたのが現在の夫・真治です。私と同い年の真治は、司法試験受験生と聞いていました。

真治の父親は顧問先の会社の社長で、真治は典型的な金持ちの甘やかされた息子です。アメリカの大学を卒業しているのですが、おそらく、日本に入れる大学が見つからなかったのでしょう。

こんな男性に一流企業への就職は無理ですし、司法試験でも目指しているといった言い訳が必要だったのでしょう。働かなくたって困ることはないでしょうが、それでも男性が家でフラフラしているのは世間体が悪い。そこで週に3回、うちの事務所でアルバイトをすることになったようです。

男性並みに稼いでいるから無職の男を夫に選んだ

彼は勉強ができないだけで、背が高く顔立ちもいいので、女性社員から好かれていました。コミュニケーション力も高く、私がこれまで出会ってきた男性にはない魅力に溢れていました。

しかし、残念ながら私は美人とか、可愛らしいというタイプの女性ではありません。彼の関心はいつも、事務員のお嬢様タイプの女性に向けられていたことはよくわかっていました。それでも私は、彼を自分のものにしようと諦めませんでした。

依存心が強く、とてもひとりで生きていくことができない彼にとって、私はきっと必要とされるに違いないと思っていました。

私は父に彼との縁談を進めてもらいたいと、彼の父親に頼んでもらいました。彼は30歳を過ぎて未だに無職です。それでも未婚より結婚していたほうが社会的な信頼が得られるはずです。

真治が好意を抱いている女性たちは、彼のような男性より経済的に自立した男性を求めていました。たとえ実家が裕福であっても、あえてニートを旦那にしようと思う女性は少ないでしょう。男性並みに稼ぐ私なら、彼に仕事を与えることもできるし、彼の相手に相応しいと思ったのです。

案の定、彼は私との結婚を選ばざるを得ませんでした。私は事務所内に自分専用の部屋をもらうことができ、夫は私の仕事を手伝い、休みの日はそこで受験勉強をしていました。朝から晩までずっと一緒の生活です。結婚したことで彼を誰かに取られる心配もなく、私はとても幸せでした。

警察からかかってきた1本の電話

ある日、平穏な日々を壊す出来事がありました。その日、夫は買い物に行くというので、私はひとりで出社していました。

私に電話が入ると、警察だというのです。

「ご主人を、条例違反容疑で逮捕しています」

私は知人の弁護士に連絡を取り、すぐに一緒に警察署に向かいました。夫は電車内で女性のスカートの中を携帯で盗撮したというのです。証拠が残っているのだから、言い逃れはできません。

駅のホームに立っている女性
※写真はイメージです

「ごめん、ちょっとしたイタズラ心というか、こんな騒ぎになるとは思わなくて……」

夫の言い訳に、私は何と答えて良いかわかりませんでした。

弁護人からは、罰金を払って終わるので会社にバレることもないだろうと言われ、胸を撫で下ろしました。父に知られてしまえば、ただでは済みません。

「盗撮は常習性があるから気を付けてね」

帰り際、弁護人からそう助言されましたが、だからといってどうすればいいのか、私には見当がつきませんでした。

夫は馬鹿なことをしたと自分を責めていたし、私が何か言うことで、これ以上夫を追い詰めることだけはしたくない。人生一度の過ちとして私は受け入れ、許すことにしました。

性犯罪を再び犯してしまった夫

それからしばらく、ふたりとも事件には触れずに時間が過ぎていきました。

ところが1年後、夫はまた逮捕されました。今度は、私たちが暮らす自宅付近で、帰宅途中の女性に抱きついたというのです。

警察の話によれば、他にも何件か余罪があるということでした。思い当たる節があるとすれば、最近、私が入浴する頃いつも、煙草を買いに行くと言って出かけるようになっていたことです。

なかなか戻ってこないので心配になり携帯に電話をかけると、煙草を吸っていたというのです。夫が煙草を吸い始めたのも、つい最近のことでした。

今回は実名報道され、家族も知るところとなってしまいました。私はこの事件を機に、会社を退社して独立を決意しました。法律事務所で働いていましたが、十分にひとりでやっていける人脈とノウハウは身に付けていました。私の会社ならば、夫が働いていても誰に文句を言われる筋合いはありません。

被害女性には500万円の示談金を支払いましたが、起訴は免れず、私は情状証人として裁判で証言することになりました。私がついてさえいれば、安定した住居も仕事も確保できることから、更生の環境としては完璧です。夫は執行猶予付き判決を得ることができました。

釈放された夫は申し訳なさそうにしていて、私の目を見ることができませんでした。

「何も言わなくていいわ。私がずっと面倒見ていくから」

夫は子どものように泣き出しました。

私は自分の会社を設立することで、夫とともに生活を立て直すことにしたのです。

「妻に雇われている身分」を気にしていた夫

ところが夫が釈放されて間もなく、夫の兄が話をしたいと私を訪ねてきました。

「悦子さんには本当に迷惑をかけてしまって、なんてお詫びしたらよいか言葉もありません」

義兄は深々と頭を下げました。

「もういいんです。気にしないでください」
「真治と話をしましたか?」
「何のことでしょうか?」
「多分、真治からは言いにくいだろうと思って、私から話しに来たんです」

夫が私に言いにくいこととは一体どんなことだろう……。

「真治は、うちの会社で預かろうと思いまして」

あまりに予想外の義兄の提案に、私は驚きを隠せませんでした。

「え? どういうことですか?」
「悦子さんに良くしていただいていることには感謝しています。ただ、奥さんに雇われている身分というのは世間体が悪い。真治はそれを気にしているんです」

世間体が悪いといったって、自立できないんだから仕方がないじゃないか……。私はそう反論したかったのですが、口には出せませんでした。

「親の会社っていうのもなんですが、奥さんのところよりは……」

ヒモよりニートがマシということか……。

「それで、真治は私と別れたがっているのでしょうか?」
「いや、そこまでは……。うちとしましては、真治はうちの会社で働いてもらい、働いた分の給料は支払います。その方が悦子さんにとってもいいのではないかと思いまして。もっと早く、そうしておくべきでした。本当に申し訳ございません」

義兄はそう言って、何度も深々と頭を下げました。普段、人に頭を下げるような地位にはいない人なのに……。

家庭内の過度なストレスが犯行の原因だった

それでも私は夫と離婚するつもりはありません。ただ会社は別々になり、夫のプライベートへの干渉を減らすよう心掛けるようになりました。自分の給料で、女性のいるお店に通うくらいは我慢することにしました。性犯罪を起こされるより、よっぽどマシです。

夫にとって私は性的対象でないことには気が付いていました。私にとって夫は弟のような存在で一緒にいると居心地が良く、私の側を離れて欲しくありませんでした。

その思いが強すぎて、友人との交流やマスターベーションにまで口を出して制限していたのです。ふたりでカウンセリングを受けるようになって、こうした家庭内のストレスが夫の犯行の原因だったことに私は気づかされました。

男性に指図する女性
※写真はイメージです

夫は40歳を過ぎていますが、未だに司法試験に受からないどころか、何の資格も取得できてはいません。親の会社で事務職に就いていますが、月給は15万ほどで家賃や生活費は私が負担しています。

世間から見れば頼りない夫かもしれませんが、経済力のある父や兄には当然のように愛人がいました。私は妻として、そういう屈辱だけは味わいたくないのです。だから、夫のようなヒモ体質の男が丁度いいのでしょう。

夫が妻との間に募らせていた「劣等感」

昭和・平成の社会的地位ある男性といえば、女性関係が派手というイメージがあるかもしれません。大物政治家や芸能人などは、愛人がいることを公言しても、非難されることのない時代でした。

妻以外の女性を養ったり女性がいる店に頻繁に通うことができるのは経済力のなせる業であり、経済力がなければ夫を支配できると悦子は考えていたのです。しかし、人間はそれほど単純ではありません。

夫・真治が起こした犯行について、心理カウンセラーは意外にも夫婦の距離感が近すぎて家庭にプライバシーがないことが原因だと指摘していました。真治は会社で妻の悦子の手伝いであり、同じオフィスで共に過ごします。

真治のアルバイト代も悦子が管理しており、買い物や外出にあたってはその都度、妻にお金を催促しなければならないのです。30歳を過ぎた大人としては、あまりに不自由で友達もできないでしょう。

傍から見れば、真治は妻に養われている「ヒモ」のような状態であり、情けない存在だと見做されます。こうした社会的評価に敏感な真治は、密かに劣等感を募らせていました。

精神的にも経済的にも不自由な生活の捌け口として、やがて女性への性暴力を用いるようになります。電車内の盗撮に始まり、強制わいせつと行為はエスカレートしていき、本人も「逮捕されてよかった。自分の力で止めることはできなかったから」と話しています。

家族が犯罪を助長していたケースは決して珍しくない

悦子は真治に愛情を感じてはいるものの、家族の力を借りなければ何もできない存在だと見下していました。裕福ではあるものの男性に支配された家庭で育ったがゆえに、男性不信が強く、対等なパートナーシップを構築することができなかったのです。

悦子は経済的に自立し、社会的地位もありますが、夫を支配しなければ安心できない精神的な弱さがあります。

真治の犯した性加害は不特定多数の女性に向けられたもので、被害女性とは面識も関係もありません。悦子にとっては、女性に心を奪われることこそが最大の屈辱であり、夫の犯した性加害と女性に与えた被害については、あまり重く受け止めていませんでした。

悦子はなかなか自分に興味を示してくれない真治に対し、父親のコネを利用して結婚話を持ち掛け、手に入れました。残念ながらこうしたやり方は、悦子が最も憎んできた権力を持つ男性のやり方と変わらないのです。いつかは気持ちが離れてしまうか、本件のように他人を巻き込んだ形で破綻するのが関の山です。

阿部恭子『お金持ちはなぜ不幸になるのか』(幻冬舎新書)
阿部恭子『お金持ちはなぜ不幸になるのか』(幻冬舎新書)

心理カウンセラーも指摘していたように、家族がイネーブラー(犯罪を助長する人)になっていることが犯罪の背景にあるケースが度々見られます。

いち早く私選弁護人を手配し、被害者と示談交渉を進めるにはお金がかかります。加害者の処罰を少しでも軽くするために多額の費用をつぎ込むことは、お金持ちにしかできません。

しかし、こうした家族の出費は、加害者の責任を肩代わりしてしまう結果となり、本人の反省に繋がらず、再犯を防ぐどころか、それを助長するという悪循環が生じてしまうのです。

世の中で起きている犯罪の原因は、決して貧困だけではないのです。

阿部 恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長
東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。2008年大学院在籍中に、社会的差別と自殺の調査・研究を目的とした任意団体World Open Heartを設立。宮城県仙台市を拠点として、全国で初めて犯罪加害者家族を対象とした各種相談業務や同行支援などの直接的支援と啓発活動を開始、全国の加害者家族からの相談に対応している。著書に『息子が人を殺しました』(幻冬舎新書)、『加害者家族を支援する』(岩波書店)、『家族が誰かを殺しても』(イースト・プレス)、『高学歴難民』(講談社現代新書)がある。

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