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27年前、巨匠が手がけた“音の波紋” 転換期に放たれた“深いハイトーンボイス”

  • 2026.2.14

「27年前の冬、あなたはどんな景色を眺めていた?」

1999年1月。世紀末という言葉が街のあちこちで囁かれ、どこか落ち着かない熱気が世の中を覆っていた。携帯電話の普及が加速し、情報の速度が劇的に上がっていくなかで、私たちは無意識に“変わらない何か”を求めていたのかもしれない。そんな冷たく澄んだ冬の空気に、すっと溶け込むように届けられた一曲があった。

徳永英明『青い契り』(作詞・作曲:徳永英明)――1999年1月27日発売

派手な演出や時代の流行に目もくれず、ただまっすぐに「心」と向き合ったこの楽曲。それは、ある一人のアーティストが自らを見つめ直し、再び歩み出すための大切なマイルストーンでもあった。

転換期に贈られた“誠実さ”という光

この楽曲が誕生した背景には、徳永英明自身の大きな転換期があった。レコード会社の移籍第一弾としてリリースされた『青い契り』は、まさに徳永英明という表現者が、脱皮を終えて新たな命を吹き込んだ最初の産声のような一曲だった。

楽曲全体を包むのは、タイトル通り「青」の色彩を連想させる透明感だ。それは冷たさではなく、どこまでも深く、吸い込まれるような純粋さを湛えている。当時のリスナーは、テレビから流れるこの曲のイントロを聴いた瞬間、ざわついた心が凪いでいくような不思議な感覚を覚えたはずだ。

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徳永英明-1999年撮影(C)SANKEI

巨匠・瀬尾一三が描いた“音の波紋”

本作の魅力を語る上で欠かせないのが、編曲を手がけた瀬尾一三の存在だ。数々の名曲に命を吹き込んできた瀬尾は、徳永英明が紡いだ繊細なメロディに、豊潤で奥深い響きを添えた。

静かに、語りかけるように始まる冒頭から、徐々に感情が昂まっていく構成。包み込むようなパッドサウンドは、決して歌声を邪魔することなく、むしろ徳永の声が持つ「揺らぎ」や「切なさ」を最大限に引き立てている。アコースティックな手触りを残しつつも、後半にかけて壮大なスケール感を見せるサウンドは、聴く者を孤独の深淵から希望の光が差す場所へと導いてくれるかのようだ。

また、この時期の徳永のボーカルにも注目したい。80年代のハイトーンの輝きはそのままに、年齢を重ねたからこそ出せる深みと包容力が加わっている。徳永英明がこの曲に込めた「契り」は、ファンへの手紙であり、自分自身への誓いでもあった。どんなに時代が変わっても、音楽という名の誠実さを失わない。その姿勢が、リリースから27年が経とうとする今もなお、この曲を色褪せない名曲として輝かせている。

時代を越えて、心に灯り続ける“青い火”

今、改めて『青い契り』を聴き返してみると、当時の空気感が鮮やかに蘇る。まだSNSもスマホも当たり前ではなかった頃、私たちは誰かを想うとき、もっと静かで、もっと深い場所に心を置いていたような気がする。

効率やスピードが重視される現代において、この曲が持つ「余白」は、あまりにも贅沢で、そして優しい。「急がなくてもいい、自分の歩幅で歩めばいい」。そんな無言のメッセージが、ピアノの旋律とともに胸に染み渡っていく。

27年前、徳永英明が水を与えた“誠実さの種”は、『青い契り』という大輪の花を咲かせた。その花は、今も私たちの心の片隅で、静かに、そして力強く咲き続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。