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“あるトレーニング”で「FPSの反応速度」が大幅に向上すると判明

  • 2025.12.4
あるトレーニングで「FPSの反応速度」が向上する / Credit:Canva

FPSなどのeスポーツでは、ほんのわずかな反応速度の差が勝敗を分けます。

こうした競技の世界で、選手たちの脳の状態や視線の使い方そのものを鍛える新しいトレーニング手法が開発されました。

高知工科大学のJeong Inhyeok氏らの研究チームは、脳波と視線のリアルタイム情報を利用したバイオフィードバックトレーニングによって、eスポーツプレイヤーの反応速度を大幅に短縮できることを明らかにしました。

この成果は2025年10月27日付の『Computers in Human Behavior』誌に掲載されました。

目次

  • 脳波トレーニングで反応速度が「30ミリ秒」短縮
  • 視線トレーニングで反応速度が「47ミリ秒」短縮

脳波トレーニングで反応速度が「30ミリ秒」短縮

今回の研究の背景には、eスポーツにおける科学的トレーニングの不足があります。

従来の練習方法は、反復プレイや動画分析、一般的な体力トレーニングが中心で、脳や視線の働きといった認知プロセスを直接鍛える仕組みは十分に整っていませんでした。

しかし近年の研究により、トッププレイヤーは「持続的な注意力が高い」「情報処理の効率が良い」「視線の動きが安定している」といった特徴を持つことが分かってきました。

そこで研究チームは、脳波や視線に着目したトレーニングを設計し、プレイヤーの反応速度を高めめることを目指しました。

1つ目の実験に参加したのは、それぞれのゲームで上位50%以上の成績を持つ男性ゲーマー21名です。

彼らは脳波計を装着し、脳の中心部から計測されるシータ波とアルファ波の変動をリアルタイムで音の形で聞きながら、集中状態を維持するトレーニングを行いました。

シータ波とアルファ波は、高いときほど注意が低下し、低いときほど集中が高まっていることを示します。

実験では、これらの波が下がると低い音が鳴り、上がると高い音が鳴るように設定されており、参加者は音を手がかりに自分の集中をコントロールしました。

一方、比較用のグループには脳波とは関係のないランダムな音が与えられました。

そしてトレーニングの前後で、参加者はAimLabというFPS向け練習ソフトを用いてターゲット射撃を行い、ターゲットが現れてからクリックするまでの時間が計測されました。

その結果、脳波トレーニングを行った群は、中央値で30.3ミリ秒の反応速度の短縮を示し、比較用のグループでは変化がほとんどありませんでした。

さらに脳波の分析でもシータ波とアルファ波のパワーが低下しており、注意状態が高まったことが生理学的にも確認されました。

精度については両群とも大きな変化はなく、速度が上がっても命中率が低下しないことも示されています。

こうした良好な結果を踏まえ、研究チームはもう1つの実験も行っています。

視線トレーニングで反応速度が「47ミリ秒」短縮

2つめの実験では、FPSにおけるもうひとつの重要な能力である視線のコントロールに焦点が当てられました。

FPSでは視線を大きく動かすとわずかな遅れが生じるため、上級者ほど視線を中央に保ち、周辺視野でターゲットを捉える傾向があります。

そのため研究チームは、視線が中央から外れた瞬間に警告音が鳴る仕組みを使い、余計な目の動きを減らすトレーニング方法を試しました。

この実験にも経験豊富な男性ゲーマー21名が参加し、アイカメラで視線の位置を追跡されました。

視線が中央から外れると「ビッ」と警告音が鳴り、中央に戻れば音が消えるというシンプルな仕組みです。

これにより参加者は、視線を必要以上に動かさない戦略を自然に学習していきました。

比較用のグループは警告音を受けず、視線に関するフィードバックは与えられていませんでした。

トレーニング後にAimLabで同じ射撃タスクを行ったところ、視線トレーニングを受けた群は中央値で47.2ミリ秒の反応速度短縮を示し、脳波の実験よりもさらに大きな改善が確認されました。

一方、比較用のグループは13.9ミリ秒ほど短縮したものの、この変化は統計的に有意ではありませんでした。

視線データの分析では、実験群の視線の水平・垂直方向の分布が大きく狭まり、視線の揺れが少なくなっていることが示されました。

つまり参加者は、視線を中央に安定させながら周辺視で情報を捉える技術を短時間で身につけたことになります。

そしてこの実験でも、命中率の変化はごく小さく、統計的に精度の有意な低下は見られませんでした。

FPSでは144Hzモニター(1秒間に144回画面が更新される)がよく使われており、1フレームは約7ミリ秒です。

今回の反応速度の改善量である30〜47ミリ秒はおよそ4〜7フレームの差に相当し、この差は実戦の撃ち合いで勝敗を左右する大きなアドバンテージになります。

もちろん、この研究にはいくつかの限界もあります。

効果は単回のトレーニングによるもので、長期的に持続するかはまだ分かっていません。

また実験はFPSの要素に特化しており、他のジャンルに応用できるかも検証が必要です。

さらにサンプルサイズも大きくはなく、今後の大規模研究が待たれます。

それでも研究チームはすでに長期効果の検証実験を進めており、注意力トレーニングと視線トレーニングの併用やプロeスポーツチームへの導入も視野に入れています。

脳と視線を「可視化して鍛える」というアプローチは、eスポーツに新しい進化をもたらす可能性があるのです。

※この記事には研究者本人がXのリプ欄で補足をしてくださっています。

参考文献

Biofeedback training helps esports players react significantly faster
https://www.psypost.org/biofeedback-training-helps-esports-players-react-significantly-faster/

元論文

Biofeedback training can enhance esports players’ shooting performance in an aiming task: focusing on cortical activity and gaze movement
https://doi.org/10.1016/j.chb.2025.108836

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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