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「10年で元取れます」太陽光パネルを200万円で設置も…発電量は『0.0kW』30代男性を襲った“大誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.12.17
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「『シミュレーションでは10年で元が取れます』『太陽光パネルの表面は滑りやすいので、雪が降ってもすぐに落ちますよ』。営業マンのその言葉を信じて、200万円もかけて太陽光パネルを載せました。でも、最初の冬に見たのは、発電量『0.0kW』のモニターと、破壊されたカーポートでした……」

そう語るのは、北関東に家を建てたHさん(30代男性)。

Hさんの地域は、冬に数回ドカ雪が降るものの、根雪にはならないエリア。

「電気代高騰の対策になるし、売電収入でローンの足しになる」と考え、屋根一面に太陽光パネルを設置しました。

しかし、その投資は、自然の猛威の前に脆くも裏目に出ることになります。

発電量ゼロ…ダブルローンの苦しみ

異変は、年明けの大雪の翌日に起きました。

屋根には30cmほどの雪が積もっていましたが、Hさんは「まあ、すぐ滑り落ちて発電し始めるだろう」と楽観視していました。

しかし、3日経っても、1週間経っても、モニターの発電量は「0.0kW」のまま。

「太陽光パネルが雪に埋もれて、全く動いていませんでした。冬は暖房で電気を一番使う時期なのに、自家発電はゼロ。電力会社から高い電気を買わなきゃいけない上に、太陽光パネルのローン返済も毎月ある。『光熱費が浮く』どころか、冬の間は完全に赤字の『ダブル出費状態』でした」

「ドスン!」という地響きと共に…

さらに恐ろしい事態がHさんを襲います。

久しぶりに晴れて気温が上がった昼下がり、家全体が揺れるような「ズドドド!」という地響きが鳴り響きました。

慌てて外に出ると、屋根に積もっていた雪の塊が、勢いよく滑り落ち、直下に設置していたカーポート(屋根と柱のみで作られた駐車スペース)の屋根を直撃していたのです。

「ポリカーボネートの屋根がバキバキに割れて、無惨な姿になっていました。もしあそこに車があったら……もし子どもが遊んでいたら……と考えると、背筋が凍りました」

太陽光パネルの表面はガラス質で非常に滑りやすくなっています。そのため、一度滑り出した雪は、屋根材(瓦やスレート)の場合とは比較にならないほどのスピードと破壊力を持って落下します。

これが「落雪事故」の正体です。

一級建築士が教える“雪国のリスク”

Hさんのようなトラブルは、積雪地域での太陽光設置において後を絶ちません。

建築士の視点で見ると、Hさんの計画には2つの「読みの甘さ(誤算)」がありました。

1.シミュレーションの盲点
業者の出す発電シミュレーションは、「過去の日照時間」を元に計算しますが、「パネルの上に雪が乗って発電できない日数」までは正確に反映されていないことが多いです。雪国では、地域によっては、冬の発電量は「ほぼ期待できない」くらい厳しく見積もる必要があります。

2.落雪対策の欠如
パネルを載せる場合、雪止め金具をつけるのが一般的ですが、そうするとパネル上の雪が滑り落ちにくくなり、長期間発電しない恐れがあります。逆に雪止めを外せば、Hさんのように「雪の爆弾」を落とすことになります。「パネルの下には何も置かない(カーポートや植栽、隣家)」という配置計画が必須でした。

「載せない勇気」も必要

カーポートの修理代で、数年分の売電利益が吹き飛んだHさん。

「こんなリスクがあるなら、最初から載せなければよかった」と深く後悔しています。

太陽光発電は素晴らしいシステムですが、万能ではありません。特に積雪がある地域では、「冬の発電量はゼロでも収支が合うか?」「落雪による被害リスクはないか?」を慎重に検討する必要があります。

「みんなが載せているから」ではなく、自分の家の環境に合っているかを見極めること。その冷静な判断が、家計と家族の安全を守るのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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