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【60代エンタメ】岸井ゆきのと宮沢氷魚が夫婦役『佐藤さんと佐藤さん』は結婚生活のリアルを丁寧にすくい取る

  • 2025.11.26

岸井ゆきのさんと宮沢氷魚さんのW主演作『佐藤さんと佐藤さん』が11月28日より全国公開されます。 同じ苗字を持つ男女が出会って結婚し、別れるまでの15年間を描いたマリッジストーリー。互いを大切に思い合っていたはずなのにすれ違ってしまうカップルの姿を、リアルな日常生活の積み重ねから描き出す、ちょっぴりビターな物語です。仕事と子育ての両立、主婦と主夫、都会と田舎、年代格差に男女格差。多角的な視点が入った今作の見どころを、劇中に登場する食べ物にも注目したコラムとして紹介します。

ストーリー

活発でダンス好きなアウトドア派の佐藤サチ(岸井ゆきの)と、正義感が強くて真面目なインドア派の佐藤タモツ(宮沢氷魚)。大学のサークル「珈琲研究会」で出会った正反対な性格のふたりの「佐藤さん」はなぜか気が合い、同棲を始める。5年後、弁護士を目指しているタモツは司法試験に失敗。会社員として働いているサチは独学を続けるタモツに寄り添うために、自身も勉強をして司法試験に挑戦することを決意する。その結果、司法試験に受かったのはタモツではなく、挑戦を応援している側のサチだった…。やがてサチの妊娠が発覚してふたりは結婚。産後すぐに弁護士として忙しく働き始めたサチと、試験勉強をしながら家事、育児、バイトに明け暮れるタモツは衝突するようになっていく。

【見どころ1】子育てや結婚生活の “あるある”が詰まってる!

大学のサークル仲間として出会った佐藤サチと佐藤タモツ。性格は真逆で同じ苗字を持つ2人が恋人になり、結婚して子育てや仕事、試験勉強に追われるなかで感情が変化していく15年間を描いた物語。孤独なタモツを励ますためにサチも司法試験の勉強を始めますが、実際に合格したのはサチだけ、しかも妊娠が発覚して…というところから2人の関係性が変わっていきます。タモツが司法試験に集中できるよう、一人前の弁護士になって稼ごうと必死になるサチですが、塾講師をしながら家事や子育てをしているタモツは、まとまった勉強時間など取れるはずもなく、外で働くサチを恨めしく思ってしまいます。

ようやく子どもが寝てひと息つけると思った瞬間に泣き声が聞こえてきて、カップラーメンを食べる時間もなく自分のことは後回しな日々。栄養や彩りを考えながら朝から一生懸命つくったお弁当を「食べる時間がなかった」と、そのまま持ち帰られた悲しさ。仕事が忙し過ぎて保育園の持ち物を忘れたり、夫婦間のスケジュールのすり合わせや送迎時間に追われたりする毎日。切れたオムツやトイレットペーパーをどちらが買いに行くか…。実際に子育て中のママである天野千尋監督の実体験も投影されていて、主婦や主夫、仕事をしながら子育てする親の“あるある”が詰まったリアルな日常の切り取り方が秀逸です。

【見どころ2】性別や世代、住む場所による考え方の違いが浮き彫りに

東北地方出身で長男のタモツに対しては、いずれ田舎に戻ってきてほしいという実家の家族からの期待やプレッシャーがかかっていますし、サチの親はいつまでもアルバイトをしながら司法試験を受け続ける夫を持ったサチのことが心配。親世代は「男とは」「長男とは」「夫婦なら〇〇して当たり前」という考えが根強く、世代や地域間のギャップも浮き彫りになります。

実際の家族づきあいだけでなく、サチが担当する離婚裁判の内容やクライアントの主張からも夫婦のすれ違いや悲哀が伝わり、サチの感情ともリンクして物語に深みが感じられます。

【見どころ3】「佐藤さん」同士の結婚が持つ意味とは?

現状、夫婦別姓が認められていない日本では、事実婚を選ばない限り夫婦はどちらかの姓を名乗ることになります。が、劇中の2人は同じ「佐藤」という苗字を持っているので、サチもタモツも「結婚しても佐藤、離婚しても佐藤」で名前は一切変わりません。同僚の篠田(藤原さくら)はサチに「佐藤さんは、ずっと佐藤サチでいられますもんね」と言い、苗字が変わり誰かの奥さんやママと呼ばれることは「違和感なんてもんじゃない」と気持ちをぶつけますが、苗字が変わっていないサチは本当の意味でそれを理解できないでいるのです。

筆者自身、入籍した後に突然、苗字が変わったことへの抵抗を感じて、1週間ほど“入籍ブルー”で自暴自棄になるほど落ち込んだことを思い出します。それは自分でも想像できなかった感情で、苗字が変わるだけで自分が自分でなくなるような喪失感があまりに大きいので驚きました。もちろん、相手の苗字になれてうれしい方も、名前が変わることに何の抵抗がない方もいらっしゃるし人それぞれだと思うのですが、やはり結婚において苗字が変わる瞬間というのは人生の大きな転換期。サチもタモツも相手と同じ苗字であることで、恋人から夫婦になることへの区切りがつきにくかったのかもしれません。

【ここにも注目!】食べ物から感じるすれ違いと切なさ

夫婦関係の変化は、食べ物の描写にも表れています。学生時代に「珈琲研究会」サークルで出会った2人はコーヒー好きで、一緒に飲む時間を大切にしていましたが、いつの間にか相手に声もかけずにそれぞれ飲むようになってしまいます。

司法試験の合格発表日に、サチは「祝・合格」のプレートがついたケーキを用意したり、タモツの実家からは「赤飯の炊き方」レシピ入りのお米が届いたりしてしまい、切ないと同時におかしみも感じてしまいます。合否結果を見てから入った喫茶店では、タモツの注文だけ聞き間違えられて思いがけないメニューが届いてしまうのも、また悲しくておかしくて。
日常生活のささいな部分までこだわりが感じられるオリジナル作品『佐藤さんと佐藤さん』、ぜひ劇場でしみじみとお楽しみください。

作品情報

『佐藤さんと佐藤さん』
11月28日(金)全国公開

出演:岸井ゆきの 宮沢氷魚
藤原さくら 三浦獠太 田村健太郎 前原 滉 山本浩司 八木亜希子 中島 歩
佐々木希 田島令子 ベンガル
監督:天野千尋
脚本:熊谷まどか 天野千尋
音楽:Ryu Matsuyama Koki Moriyama(odol)
主題歌:優河「あわい」(ポニーキャニオン)
配給:ポニーキャニオン
©2025『佐藤さんと佐藤さん』製作委員会

この記事を書いた人 富田夏子

雑誌ライター歴21年。得意分野はエンタメ、フード、ライフスタイル。映画ライター/映画ごはん研究家として、「映画とごはんをつなぐメディア」をSNSで展開し、映画と食に関連する情報や体験をシェアしている。日本映画ペンクラブ会員。 雑誌やWEBへの映画レビュー連載歴は14年で、俳優や映画監督のインタビューも手がける。料理取材の試食は残さず食べる食いしん坊。

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