“約３０年前”の朝ドラでも光ったベテラン女優「何かあるな」「どう絡んでくる？」“ごく短いシーン”でも記憶に残る名演

朝ドラ『ばけばけ』において、視聴者の間で密かに話題になっている人物がいる。小日向文世演じる“スキップ師匠”と名高い勘右衛門の前に現れた女性・タツだ。登場はごく短いシーンであるにもかかわらず、SNS上では「何かあるな」「どう絡んでくる？」と疑念と期待が交錯している。そのタツを演じているのが、ベテラン女優・朝加真由美。彼女は約30年前の朝ドラ『ひまわり』でも温泉旅館の女将を演じており、“生活の匂い”をまとった人物造形に定評のある存在だ。彼女が『純と愛』を経てふたたび『ばけばけ』で朝ドラの舞台に帰ってきたことの意味、そして、今後どんな役割を担っていくのか、静かに注目が集まっている。

スキップ師匠の“春”に現れた謎の女性

勘右衛門がスキップの稽古をつけるいつもの朝。その脇で、ふいに紹介された女性がいた。「松江の外れに住んじょりますけん、時々しか来られませんが」と穏やかに挨拶を交わすその女性は、おそらく勘右衛門の恋の相手・タツである。

ヒロイン・トキ（髙石あかり）も、わずかに驚きつつも丁寧に応じる。たったそれだけの描写なのに、画面には確かに“何か”が流れた。

勘右衛門の語りからすると、タツは松江の外れに住んでいるにも関わらず、よく顔を見せるようになったという。つまり、すでに知人ではなく、心を許し合った相手、もしかすると、かつての恋人や伴侶に近い存在になっているのかもしれない。

いずれにせよ、老いてもなお人生に新しいページを重ねられるのだと、そんな“春の気配”を静かににじませた登場だった。

演じる朝加真由美の存在感が、わずかな登場でもその印象を濃くした。セリフは多くないが、その微笑の角度に“暮らし”が染み込んでいる。タツという役は、これからドラマにどんな影響をもたらすのか。

“生活の匂い”を演じさせたら右に出る者なし

朝加真由美が演じる人物は、どこかで見たことのある誰か、のように感じさせる。大声で泣き叫んだり、長台詞を早口で畳みかけたりするのではなく、一瞬の沈黙や、目を伏せる仕草、顔を上げたそのわずかな間合いで、人物の背景を感じさせる。

彼女のセリフは、まるで日常の雑談のように自然体で届く。どこか気取りのない、飾らない語り口は“普段着の言葉”とも言えるだろう。だからこそ、彼女の登場するシーンは、ドラマ全体に“地に足の着いた”安定感をもたらすのだ。

また、彼女は善人も悪人も演じ分けられる稀有な存在だが、どの役にも“生活者”としての重みをまとわせる。

ごく普通の母、近所のおばさん、職場のベテラン。そんな名もなき存在たちに、どこか静かな尊厳を与えることができる俳優だ。今回のタツという人物にも、その片鱗はすでに表れている。派手な見せ場はなくとも、画面に映るだけで周囲の人間関係に新たな奥行きを与える。ドラマを豊かにする、まさに“陰の力”である。

『ひまわり』で演じた“女将”から受け継がれる温もり

今回の『ばけばけ』での朝加真由美の登場を、懐かしいと感じた朝ドラファンも少なくないのではないか。

1996年に放送された『ひまわり』で、彼女は温泉旅館『夕月荘』の女将・油座安代を演じていた。中学生の息子を抱えつつ、43歳で妊娠中というリアルで重層的な生活背景を持った女性である。

とくに、登場人物たちに「たぬき汁」を振る舞うシーンは、彼女の包容力を象徴するものとして語り継がれている。都会に疲れた若者たちが、旅館という“生活の場”で心をほぐしていく。その中心にいたのが、朝加演じる安代だった。

『ばけばけ』でのタツもまた、若者たちが迷い、悩み、心を揺らす松江の町にひっそりと佇む人物である。語られすぎないからこそ、彼女の存在は、町の輪郭や、登場人物たちの人間模様を際立たせる。

勘右衛門との関係性の行方がどうなるのかは、まだわからない。しかし、老いたふたりの間に流れる空気には、若い恋とは違う滋味深さがある。もし再登場があるならば、それは単なる“おじじ様の春”にとどまらず、トキや周囲の人々にとっても何かしらの影響を及ぼす役割になるだろう。

タツは、単なる話し相手ではなく、町の“記憶”や“縁”を静かに結ぶ存在かもしれない。そして、それを説得力とぬくもりをもって演じられるのは、朝加真由美しかいない。

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連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE（新NHKプラス）同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター：北村有（Kitamura Yuu）
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter：@yuu_uu_