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“朝ドラ史に残る一作”となるか?「ハズレなし」「才能の塊」2027年・NHK連続テレビ小説に通じる“バカリズム脚本”3選

  • 2025.12.3

2027年度前期の朝ドラ『巡(まわ)るスワン』の脚本に、お笑いタレントで脚本家や俳優としても活動するバカリズムが起用されたというニュースに、SNSが沸き立った。「バカリズム脚本に大期待」「ハズレなし」「才能の塊」といった声が飛び交うなか、その実力はすでに過去の作品群で証明済みだ。バカリズム脚本の魅力とは何か。そして彼が紡いできた物語のなかでも、今回の朝ドラに通じるエッセンスを感じられそうな代表的な3作品を厳選し、その見どころを読み解いていきたい。

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バカリズム (C)SANKEI

『素敵な選TAXI』やり直しの願いを乗せた、人生交差点の物語

2014年に放送された『素敵な選TAXI』は、竹野内豊演じる不思議なタクシー運転手・枝分が、過去に戻りたい乗客を乗せて“もしもあのとき”の人生をやり直させるというSF仕立ての人間ドラマ。

毎話完結型で進むが、そのすべての話に共通しているのは、“人生は選択の連続であり、正解なんてどこにもない”という深い人間観察だ。

選び直したはずなのに、また別の問題にぶつかってしまう。そんな人生の滑稽さと愛おしさを、バカリズムはあたたかい視線とちょっぴり皮肉の効いたセリフで描く。密室のタクシーという限られた空間で起こる会話劇は、緻密な脚本構成とテンポのよさが際立っており、枝分と乗客の掛け合いの妙は、まさに芸人ならではの“間”の技術に支えられている。

設定の妙だけに頼らず、あくまで“人”を見つめる脚本であること。それがこの作品の真価であり、バカリズムの作家性の原点だといえる。

『架空OL日記』“なんでもない日常”を、こんなにもおもしろく

2017年にドラマ化され、その後2020年には映画にもなった『架空OL日記』は、バカリズム自身が銀行勤めのOLになりきって綴ったブログを原作にした異色の作品。脚本・主演も本人が務めたことで話題になったが、それ以上に注目すべきは、その“何も起こらなさ”のなかに宿るリアリティと毒気、そして静かなユーモアである。

“今日の昼は何にする?” “あの子って最近◯◯らしいよ”……そんなありふれた会話のなかにこそ、女性たちの微妙な距離感や嫉妬、共感、そして孤独が宿る。バカリズムはそれを決して派手に演出することなく、むしろ“間”や言葉の選び方、そして視線の動きに至るまで、細部で見せていく。

一見なんの変哲もない毎日を、観ているうちに自然と共感させてしまうのは、観察眼と取材力、そして登場人物への誠実さがあってこそ。『巡(まわ)るスワン』で描かれる“事件のない警察官の日常”という設定にも、この作品の空気感が濃厚に漂っているのではないかと感じる。

『ブラッシュアップライフ』人生は、地味で壮大なタイムリープ

2023年放送の『ブラッシュアップライフ』は、バカリズム脚本の集大成とも言われるヒット作だ。主人公・麻美(安藤サクラ)は、ごく普通の地方公務員。彼女はある日突然、自らの死をきっかけに人生を“最初からやり直す”ことになる。

この壮大なタイムリープ劇で描かれるのは、決してド派手なアクションやSF展開ではなく、人生を地道に、まじめにやり直すことの大切さだ。登場人物たちは日々どうでもいい会話をし、ささやかな選択を重ねていくが、その積み重ねがやがて思いもよらぬ伏線として回収されていく構成は、脚本の妙技そのもの。

人生を再構築する麻美の姿に、誰しもが“自分もあの時、こうしていたら”と思う。ここでもやはり、“非日常のなかの圧倒的な日常感”が全編を支配しており、観る者にとって親しみやすく、それでいて深い感動をもたらすのだ。

“日常”をおもしろく変化させる脚本家

事件が起きない警察ドラマ、波乱の少ない朝ドラ、静かな日常を淡々と描くヒューマンストーリー。それは、派手な演出や衝撃展開に慣れた視聴者にとっては、もしかしたら退屈に思えるかもしれない。

しかし、バカリズムの筆にかかれば、その“何も起きない日常”が、実はもっとも奥深く、ドラマティックに変わっていく様に気づくだろう。

一言でいえば彼の脚本は、日常の温度を少しだけ上げて、視座を変えてくれるのだ。笑いの奥にある本音、沈黙の裏にある感情、そしてセリフにならない思い。そうした繊細な機微をすくい上げる彼の作家性は、朝ドラという長丁場の舞台においてこそ、真価を発揮するのではないだろうか。

『巡(まわ)るスワン』が、朝ドラ史に残る一作になるかどうかは、まだわからない。しかし、過去作を通して確信できるのは、バカリズムが描く“地味だけど尊い”日々は、きっと誰かの心にそっと寄り添ってくれる、そんな確かな手ざわりを持っているということだ。


ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_