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最後の保育園運動会で、母は活躍できるのか?〜死闘の親子騎馬戦 前編〜

  • 2025.11.7

青空の下で始まる【最後の戦い】

その朝、空はまるで絵に描いたような青さでした。透きとおるような光の中、私は目覚めるなり小さくガッツポーズをしました。「よし、晴れた。」心の中でつぶやくと、隣で寝ていた三男がぱちっと目を開けて「運動会や!」と叫びました。そう、この日は三男にとって保育園生活の集大成、最後の運動会。つまり、私にとっても12年間お世話になった保育園で迎える、最後の戦いの日でした。現在、小6の長男、小4の次男、そして年中三男それぞれお世話になりまくった園。3人分の運動会を見届けてきた私は、本来ならばもっと余裕をもっていたのかもしれません。……ですが、本日は違います。なぜ余裕がない?きいてくれますか?

夫、まさかの欠席宣言

約1ヵ月前にカレンダーを見ながら夫婦で予定を確認した時、「運動会の日、どうしても外せない仕事が入ってしまったんだ。」夫がそう言いながら、申し訳なさそうに視線を逸らしました。私は静かに問い返しました。「本当に?」返ってきたのは、気のない「本当」。あの瞬間、我が家の空気は一瞬で凍りつきました。いや仕事なんか外せよ。誰かに代わってもらいなさいよ。と一通りの思いつく限りの文言を言わせてもらいましたが、彼の決意はそうとうなもので、何を言っても結果は同じ。ここでは省略しますが、子供達が寝静まってからもかなり揉めました。うん。つまり、夫は欠席なのです。ということは、親子競技に出るのは――私。40代半ば、筋肉痛が三日遅れてやってくる母が、保育園の集大成となる親子競技に出ることになったのです。そう、我が園で、死闘と呼ばれる戦いです。

「死闘」その名の重みを知る

年長組のメイン競技、「親子騎馬戦」。夫がどうしても出席できないと決まった時、私の脳裏には“覚悟”という二文字が浮かびました。親が子どもをおんぶし、相手チームの子どもの腰に巻かれたタスキを取り合う――たったそれだけのルール。けれどこの園では違います。 保護者が全力。子供も全力。全員がはだしになって戦うこの競技。まさに“教育の一環としての本気”。勝っても泣き、負けても泣く。それほど熱量のある競技で、毎年ガタイの良い父親たちが文字通り本気でぶつかり合うのです。シングルのお母さんは、近所の大学生のお兄ちゃんに代役をお願いするほど。皆さん工夫してこの競技を乗り切っています。私は思いました。「え、これ……母が出ていいやつ?」

母、決意する

逃げるわけにはいきません。最後の運動会です。子どもの記憶に残る母の姿は、きっとこの瞬間。「よし、やるか」夫が出られないと決まったその日、鏡の前でつぶやきました。そして日から、地味なトレーニングが始まりました。スクワット、体幹トレーニング、ストレッチ。次男がサッカークラブで行っているメニューを、見よう見まねで真似で一緒にトレーニング。しかし現実は厳しかったのです。寝転んで足を上げるだけの腹筋――5秒でギブアップ。「これ、地獄かもしれない」と天井を見上げてつぶやいたあの日。私は日ごろの自分の甘えさせすぎた身体を呪いました。それでも、本当に毎日少しずつ続けました。筋肉痛が治まるころには、体のどこかに“芯”のようなものができてきた気がします。母、少しずつ成長するのです。

決戦の朝、母はTシャツをインする

そして迎えた運動会当日。夫は出社。長男は中学受験勉強の手を止めて、次男はクラブチームのサッカー練習をキャンセルし、一緒に応援に来てくれました。実家の母も他府県から朝早くに駆けつけてくれました。ありがたい!快晴の空の下、地域の大きなグランドには保護者たちの熱気があふれていました。応援席からは「○○くーん!」「がんばれー!」の声が飛び交い、カメラを構える父母たちはすでに本番モード。私は緊張のあまり、朝から妙なテンションでした。そして気づけば、ナチュラルにTシャツをジャージにイン。はい、機能性最優先。高校生の時にもしなかった格好をいとも簡単にしてしまうのが、恐ろしい。動きやすさを極めた結果、平成初期の体育教師のような姿になっていました。他のお母さんにも、「ぽにさん、気合入れ過ぎてない?」と声をかけられたほど。でもこれでいい。戦う装備に恥はない。そう言い聞かせ、私は保護者席のシートに腰掛けました。

いざ、戦いの場へ

アナウンスが響きます。「年長組、親子騎馬戦の保護者の皆さん、集合してください」私は上の子たちにカメラとスマホを託し、足元を確かめながら列へと加わりました。グラウンドの脇には背の高い恰幅の良いお父さんたちがずらり。日焼けした腕、しっかりした背中。この園は元々運動させる園なので、スポーツに興味のある父兄が多い。その中で一人、明らかに異質な存在――私。しかし、私は知っていました。この競技、背が高いほど不利なのです。おんぶする子どもの位置が高くなり、子供の手が、他の子のタスキに届かない。背の高いお父さんに負ぶわれた子ほど取られやすくなる。逆に、小柄な親ほど守りやすい。12年、運動会を見続けて得た観察眼。ようやくこの瞬間に役立つ時がきたのです。そんな中、出会いもありました。

マツコ似ママとの出会い

隣に立っていたのは、体格のいいお母さん。息を切らせながら、「私、この体格で出ることになってしまって…立ってるだけでつらいのよ」と笑いました。どこかで見たような雰囲気。そう、マツコ・デラックスさんにそっくり。親しみがわいて、私は思わず声をかけました。「最初は無理に動かない方がいいですよ。逃げるのがコツです」「おんぶも直前までしないほうが体力温存になります」マツコさん似の彼女は、目を丸くして「なるほど〜あなた、よくご存じで」と笑いました。その笑顔に、ほんの少し緊張が解けました。周囲ではお父さんたちがすでに子どもをおんぶしてスタンバイ。けれど私はあくまで静観。「体力は金。ここは温存です」ピピーッ――笛の音。放送が響きます。「年長組、親子騎馬戦、入場です!」観客席から湧き上がる歓声の中、私とマツコさん似の彼女は、手をつないだ子どもたちと共にゆっくりと歩き出しました。いよいよ、母たちの戦いが始まります。(後編へつづく)

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