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「印象に残る」「ある意味で被害者」主人公を揺さぶる“圧倒的な存在感” 秋ドラマの【強烈な父親2選】

  • 2025.12.4

主人公たち以外にも、どうしても引きつけられてしまうキャラクターがどの作品にも少なからずいるのではないだろうか。役者の演技力はもちろんのこと、そのキャラクター性には注目せずにいられない何かがある。

今回は、物語の鍵も握っているであろう強烈な“父親たち”にスポットを当ててみた。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』海老原 勝(菅原大吉)

TBSで毎週火曜よる10時から放送中のドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』では女子は料理ができて当たり前など、凝り固まった“昭和の価値観”を持っていた海老原勝男(竹内涼真)と、異性にモテることに全振りし、本当の自分を見てもらうことは二の次だった山岸鮎美(夏帆)の恋模様を描いている。

結婚間近だと思っていた勝男だったが、鮎美にフラれたことをきっかけに、反省と改善を繰り返す。現在では、物語の始まりとは別人のような変貌を遂げている。

第7話では友人の結婚式に出席するために帰省した勝男と鮎美。実家には顔を出しつつ、結婚式に出席したあとは速やかに東京に戻る予定だったが、ふたりが別れたことを知らない海老原家と山岸家の両親たちが勝手に顔合わせの場をセッティング。ふたりは別れたことを伝えようと四苦八苦する。

そんな中で際立ったのが勝男の父・勝(菅原大吉)の亭主関白ぶりだ。これまでにも海老原家の描写はたびたびあったが、“夫の言葉に妻が従う”という構図が徹底されていた。第1話で勝男が鮎美の料理に何かとダメ出しするシーンがあったが、それは勝もやっていたことだった。勝男は知らず知らずのうちに父と同じことをしていたというわけだ。

勝の態度が強いのは妻に対してだけではない。子どもである勝男たちに対しても強い。鮎美と別れたことを伝えると、「お前には最初から期待していなかった」といった勝男の心が傷ついてしまうような言葉が投げかけていた。

ただ、これは勝の個性というよりは、時代がそうだったから、としか言いようがない。家父長制という、男性が家族内で支配的な地位であるという時代から勝のような父親が生まれたに過ぎない。今でも勝のような父親はきっと日本のどこかにいるだろうし、それが当たり前だと思っている家族もいるだろう。SNSでも勝について「環境や文化によってそうなったのでは?」という声も。

また、菅原大吉の演技は非常に巧みで、「印象に残る」「こういうお父さんいる」と思わせるほどだ。見る人によっては、実家の父や、会社の誰かを思い起こすこともあるかもしれない。

『ESCAPE それは誘拐のはずだった』八神慶志(北村一輝)

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北村一輝 (C)SANKEI

一方、日本テレビで毎週水曜よる10時から放送中のドラマ『ESCAPE それは誘拐のはずだった』でも強烈な父親が登場する。八神結以(桜田ひより)の父・八神慶志(北村一輝)だ。

20歳の誕生日パーティに林田(佐野勇斗)らに誘拐された八神製薬の社長令嬢である結以。主犯格である斎藤(飯田基祐)が亡くなり、事件は終結に向かうかと思われたが、慶志から逃げるため、結以は林田を巻き込む形で逃避行へ。誘拐から救われるはずの物語から、父親から逃げる物語となっていった。

慶志は最初から少し過保護がすぎるようにも見えた。まず、結以にGPSや監視をつけている点から、過剰な印象を受けた。さらには懸賞金をかけて結以を探そうとする。それはかわいい一人娘のためと思われたが、実は結以が持つ“さとり”の力こそが重要だったのだ。だからと言って、決して結以を愛していないわけではないだろう。結以自身、慶志から温かな感情を受け取っていた。しかし、それがあるときから変わる。

逃走中に慶志と対面した際に、結以は問いかける。「パパ、私を殺そうとしたよね?」。

本当に結以を殺そうとしたのか、一体どういった思いを抱えていたのか、そのときの慶志の本音はまだ明らかになっていないが、結以の出生の秘密が原因になっていそうだ。慶志ひとりが悪いとは言えず、SNSでは「この人もある意味で被害者」「かわいそうすぎる」という声が上がるほどだ。

また、慶志の本心がどこにあるのか迷ってしまうのは、北村一輝のこれまでの俳優としてのベースもあるからこそである。良い人も悪い人も演じ切る。今回の慶志は良い北村一輝なのか、悪い北村一輝なのか。過労から倒れてしまった慶志だが、今後、彼自身の口から本当の想いが語られることが期待される。

強烈な父親に共通すること

全く異なるタイプの強烈な父親である勝と慶志。しかし、共通しているのが主人公たちに大きな影響を与えているということだ。そんな父親たちを乗り越えて、成長する。それも物語のひとつの鍵となっているかもしれない。


ライター:ふくだりょうこ(Fukuda Ryoko) うさぎと暮らすライター。シナリオやインタビュー、コラム、エッセイなどを中心に執筆。小説とお酒と音楽とドラマがあればだいたいご機嫌。