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35年前、国民的バンドが放った“50万枚の衝撃” パワフルなイメージを脱却したワケ

  • 2025.11.19

「35年前の冬、あなたは誰を想っていた?」

街にクリスマスのイルミネーションが灯りはじめた1990年の終わり。浮かれたようで、どこか不安を隠しきれない空気が日本を包んでいた。バブルの残光はまだ眩しかったけれど、その奥にはもう“静けさ”が忍び寄っていた――そんな時代に、ひとつの名バラードが生まれた。

プリンセス・プリンセス『ジュリアン』(作詞:中山加奈子・作曲:奥居香)――1990年11月21日発売

バンドの頂点期に放たれた10枚目のシングル。軽やかさよりも、深い“余韻”が残るこの曲は、シチズン「ライトハウス」のCMソングとして街に流れ、多くの人の胸に切なさを刻んだ。ランキング初登場1位、そして50万枚を超えるセールスを記録し、彼女たちのキャリアの中でも特別な意味を持つ一曲となった。

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『ジュリアン』を作詞した中山加奈子-1999年撮影(C)SANKEI

“熱狂のバンド”が見せた、静かな横顔

プリンセス・プリンセスといえば、1980年代後半から90年代にかけて、日本中を席巻したガールズバンド。そのイメージは『Diamonds』や『世界でいちばん熱い夏』に象徴されるように、明るくパワフルで、ステージを全力で駆け抜けるエネルギーだった。

だが『ジュリアン』は、そんな彼女たちがふと見せた“静かな横顔”だった。ボーカルの奥居香(現・岸谷香)が紡ぐメロディは、熱狂よりもむしろ静寂を愛でるような優しさを帯びている。ギターの音色も控えめで、空間の“余白”が丁寧に生かされているのが印象的だ。

当時の彼女たちは、すでに国民的バンドとして多忙を極めていた時期。だからこそ、この曲に漂う穏やかさや繊細さには、“燃え尽きる前の一瞬の静けさ”のような儚さが感じられるのかもしれない。

夜に灯った“小さな明かり”

シチズン「ライトハウス」のCMで流れた『ジュリアン』は、煌めく夜景の中でもどこか人恋しさを漂わせた。華やかな時代の終わりに、この曲は“光と影”のバランスを完璧に描いていたのだ。

奥居香が描く旋律には、クラシカルな美しさが宿る。どこか遠い街角で聴こえてくるような透明感。中山加奈子による詞は、誰もが思い浮かべられる“心の距離”を描いている。

聴く人それぞれの“ジュリアン”が、心の中で息づく。

それが、この曲が世代を超えて愛され続ける理由のひとつだ。

“ガールズバンド”という枠を超えて

この時期のプリンセス・プリンセスは、単なる女性ロックバンドという枠をとうに超えていた。楽曲のクオリティ、演奏の完成度、そしてリスナーとの距離感。そのどれもが成熟し、“本物のアーティスト”としての立ち位置を確立していた。

『ジュリアン』はその象徴とも言える。ロックでもポップでもなく、どこかクラシックのような構築美を感じさせる。この静けさの中に、バンドとしての自信と余裕が滲んでいるのだ。

“終わり”ではなく“祈り”のように

1990年という年は、彼女たちにとっても、そして日本の音楽シーンにとっても大きな節目だった。バンドブームが一段落し、CD文化が成熟し始め、音楽が“売るもの”から“残すもの”へと変わっていく過程。そんな中で『ジュリアン』が届けたのは、未来に向けてのささやかな“祈り”のような音だった。

曲の終わり方はとても穏やかで、まるで日記の最後の一行をそっと閉じるよう。聴き終えたあとに残るのは、静かな余韻と、ほんの少しの温もり。

華やかな時代を駆け抜けた彼女たちが、静かに「ありがとう」と呟くような一曲。

それが『ジュリアン』の本当の姿なのかもしれない。

あの冬、街のイルミネーションの中でふと立ち止まり、耳にしたメロディ。それがまだ、どこかで優しく鳴り続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。