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旅は建築家をつくる――安藤忠雄【世界に誇る日本の建築家たちvol.1】

  • 2025.10.9

【直島プロジェクト】建築とアート、自然が調和した島

「ベネッセハウス オーバル」の中庭。静かな水面が青い空や周囲の自然を映し出す。
「ベネッセハウス オーバル」の中庭。静かな水面が青い空や周囲の自然を映し出す。

アートの島として知られる瀬戸内海に浮かぶ小さな島、直島。島内にはいくつものANDO建築が点在している。直島と安藤忠雄との出会いは1988年に遡る。ベネッセホールディングスが直島文化村構想の一環として建設した「直島国際キャンプ場」の監修が最初に関わったプロジェクトだ。以来、1992年に開館した「ベネッセハウス ミュージアム」から、2025年5月にオープンした「直島新美術館」に至るまで、37年間で合計10棟もの設計を手掛けてきた。

「ベネッセハウス ミュージアム」は、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、美術館とホテルを一体にした施設。建物の半分を地下に埋めて周囲の地形に溶け込ませると同時に、大きな開口部を設けて明るく開放的な空間を創り、外の自然の風景を建物の中に取り込んだ。3年後には、ミュージアムとケーブルカーで結ばれた丘の上に「ベネッセハウス オーバル」をオープン。楕円をモチーフにした建物の内部に同じく楕円の水盤を設け、青空を映し出すその水盤を取り囲むように宿泊室を配置した。

美しい自然の景観を損なわないように建物の大半を地下に埋設した「地中美術館」
美しい自然の景観を損なわないように建物の大半を地下に埋設した「地中美術館」
大地に開けられた三角形や正方形の穴から、中庭に差し込む光と影が美しいコントラストをつくる。(地中美術館)Photo_ Mitsuo Matsuoka
大地に開けられた三角形や正方形の穴から、中庭に差し込む光と影が美しいコントラストをつくる。(地中美術館)Photo: Mitsuo Matsuoka

2004年には、クロード・モネと現代アーティストのウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの作品を展示する「地中美術館」が完成。ベネッセハウスで試みた風景に溶け込む建築をさらに進化させて、建物は完全に地中に埋め込んだ。その一方で、大地に開けた三角形や正方形の穴から瀬戸内の陽光を取り込み、光と影の美しいコントラストを創り出した。

瀬戸内海を見渡す高台にオープンした「直島新美術館」は、島内外の多種多様な人々の交流・連携の場でもある。Photo_ Shigeo Ogawa
瀬戸内海を見渡す高台にオープンした「直島新美術館」は、島内外の多種多様な人々の交流・連携の場でもある。Photo: Shigeo Ogawa

2025年5月に島の東側に完成した最新作が、地下2階、地上1階の「直島新美術館」だ。小高い丘の上に位置し、稜線と一体化した大きな屋根が印象的だ。3層からなるギャラリーでアジア各地のアーティストの作品を収集・展示するほか、ワークショップやトークイベントなども開催。建築とアート、自然、そしてコミュニティとの調和と融合を目指すベネッセアートサイト直島の中心的な存在となっている。

ベネッセハウス ミュージアム

香川県香川郡直島町琴弾地

Tel./087-892-3223

https://benesse-artsite.jp/art/benessehouse-museum.html

地中美術館

香川県香川郡直島町3449-1

Tel/087-892-3755

https://benesse-artsite.jp/art/chichu.html

直島新美術館

⾹川県⾹川郡直島町3299-73

https://benesse-artsite.jp/art/nnmoa.html

【こども本の森 中之島】世界に羽ばたく子どもたちのための図書館

堂島川に沿って弓なりに伸びる3階建ての建物。内部は3層吹き抜けの空間になっている。
堂島川に沿って弓なりに伸びる3階建ての建物。内部は3層吹き抜けの空間になっている。

「こども本の森」は、自治体から提供された土地に、安藤が無償で設計するだけでなく、なんと建設費まで寄贈して、子どものための図書館を造るという異例のプロジェクトだ。第一号は、2020年に安藤が生まれ育った大阪の真ん中、中之島にオープン。堂島川に沿って弧を描く建物は、コンクリート打ち放しの外壁が水都の風景と呼応する。「地球は一つ。これからの社会を担っていく子どもたちには、元気よく世界に向け、はばたいてもらいたい。そのためには幼い頃から本を読んで、豊かな感性や創造力を育むことが大切です」。開館にあたって子どもたちに贈った安藤の言葉が、そのまま刻み込まれているかのような建築だ。

壁がすべて本棚になっている開架式の図書館。子どもたちが本と出会い、本を楽しみ、本に学ぶ場として誕生した。
壁がすべて本棚になっている開架式の図書館。子どもたちが本と出会い、本を楽しみ、本に学ぶ場として誕生した。

鉄筋コンクリート造りの3層構造の中に、開放的な吹き抜けの図書スペースがあり、中央に備えた大階段は、子どもたちが自由に腰かけて、本を広げられるように設計されている。緩やかに湾曲する左右の壁は、一面が巨大な本棚になっていて、隙間から明るい日差しとともに堂島川の風景が顔を覗かせる。都市の中心に本の森を造るという構想は、中之島に続いて、岩手・遠野、神戸、熊本、松山でも実現し、現在も国内外で複数のプロジェクトが進行中だ。

こども本の森 中之島

大阪市北区中之島1-1-28

Tel./06-6204-0808

https://kodomohonnomori.osaka/

【ブルス・ドゥ・コメルス】歴史と現代が対峙するアートの殿堂を再構築

18世紀には穀物取引場、19世紀末からは商品取引所として使われていた歴史的な建物を全面改修した。
18世紀には穀物取引場、19世紀末からは商品取引所として使われていた歴史的な建物を全面改修した。

日本人としては3人目、1995年のプリツカー賞受賞の例を持ち出すまでもなく、安藤忠雄の活躍の場は国内にとどまらない。2002年に開業した米国テキサス州の「フォーワース現代美術館」では、コンクリートで構成された展示室をガラスのスキンで包んで水庭に浮かべ、テキサスの厳しい気候とは対照的な静謐なオアシスを創り出した。韓国・江原道の山中に700mに渡って建築物が続き、タレル、ゴームリーなどの現代美術を展示する「Museum San」や、100m×100mの真四角の建物の中を、ロビー、ホワイエ、連絡通路などの役割を持った5本の巨大なチューブが貫通する「上海保利大劇場」など、世界各地に傑作を残している。

建物中央部のロトンダに、同心の円を描くコンクリートの壁を挿入、新旧が入れ子になった展示スペースを造った。
建物中央部のロトンダに、同心の円を描くコンクリートの壁を挿入、新旧が入れ子になった展示スペースを造った。

パリでは、ケリング会長のフランソワ・ピノーが、私財を投じて立ち上げた18世紀の旧穀物取引所「ブルス・ドゥ・コメルス」をモダンアートの美術館に再生するプロジェクトを安藤に託した。貴重な文化遺産の再構築にあたって、安藤は直径約39mのロトンダ(円形空間)の周りの壁を、歴史が刻み込まれたものとして尊重し、撤去するのではなく、中央にひと回り小さい直径29mのシリンダーを挿入して展示スペースを確保。「建築の中にもうひとつの建築をつくる」という大胆なアイデアを実現した。

安藤忠雄:既成概念を打ち破る自由な発想と唯一無二の美学が世界を魅了し続ける。
安藤忠雄:既成概念を打ち破る自由な発想と唯一無二の美学が世界を魅了し続ける。

ブルス・ドゥ・コメルス

2 rue de Viarmes, Paris 75001, France

Tel./+33-1-55-04-60-60

https://www.pinaultcollection.com/en/boursedecommerce

Text: Yuka Kumano

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