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園児の「容姿をからかう」保育士。“虐待”にあたるのか?違和感を覚えた段階で、保護者が取るべき対応

  • 2025.10.26
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出典元;photoAC(画像はイメージです)

子どもを安心して預けられる場所であるはずの保育園。しかし近年、保育士による園児への不適切な言動や、時には虐待に該当する行為が各地で相次ぎ、社会問題となっています。

千葉県船橋市では2025年5月中旬に通報があり、立入調査の結果、叩く・ご飯を押し込む等の虐待が確認され、当該施設に対して改善勧告が出されました。東京都中野区では別の認可保育園で園児を寝かせる際の不適切な扱いが発覚したと、2025年4月に自治体が発表しました。また、福岡県の保育園でも、複数の保育士が虐待や不適切保育に関与していたとの報道がされています。

はたして、保育士による不適切な行為は法律上どう扱われ、もし我が子が被害にあったらどうすればいいのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

「不適切保育」の法的責任とは?弁護士が詳しく解説

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

---保育士が園児の容姿をからかう、暴言を吐く、暴力を振るうといった行為は、法律上どのように扱われますか?

寺林弁護士:

保育士による上記の行為は、以下の法律に抵触します。

1、児童福祉法・児童虐待防止法の適用対象
保育士は、児童福祉施設の職員として、子どもの健全な育成を支援する立場にあります。そのため、保育の場で行われる不適切な言動は、児童福祉法上の「虐待」として行政指導や改善勧告の対象となり得ます。

2、通報義務の対象
虐待が疑われる場合、保育士や施設職員は児童相談所等への通報義務を負います。これは、保育士自身が加害者である場合も例外ではなく、同僚や施設管理者がその行為を認知した場合には速やかな通報が求められます。

3、刑事責任の可能性
暴力行為は、傷害罪や暴行罪に該当する可能性があります。また、継続的な暴言や侮辱的言動が人格形成に悪影響を及ぼす場合、名誉毀損や侮辱罪の構成要件を満たすこともあり得ます。

大人と異なり、子どもは発達途上にあり、言葉や態度による影響を受けやすい存在です。特に保育士は、子どもにとって信頼すべき大人であり、日常的に密接な関係を築く立場にあります。そのため、保育士による不適切な言動は、子どもの心身に深刻な影響を及ぼすとされ、社会的・法的にも厳しく評価されます。

---職員の発言や行為が問題になった場合、園や運営法人にはどのような法的責任が生じますか?

寺林弁護士:

園や運営法人に生じる法的責任は以下のとおりです。

1、民事責任(損害賠償責任)

ア、使用者責任(民法715条)
保育士が業務中に園児に対して違法行為(暴力・暴言など)を行い、損害を与えた場合、園や運営法人は「使用者責任」を問われる可能性があります。これは、職員の選任・監督義務を負う立場として、被害者に対して損害賠償責任を負うものです。

イ、安全配慮義務違反
園児の安全を確保する義務を怠ったとして、園や法人が安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を問われることもあります。

2、行政責任(指導・処分)

ア、行政指導・業務改善命令
児童福祉法や認可基準に違反する事案が発生した場合、所管の自治体(市町村や都道府県)から指導・業務改善命令が出されることがあります。

イ、認可取消・事業停止命令
虐待行為が重大で、かつ組織的な隠蔽や再発防止策が不十分な場合、保育園の認可取消や事業停止といった厳しい行政処分が科される可能性もあります。

ウ、通報義務違反による責任
児童福祉法の改正により、保育所等の職員による虐待が疑われる場合には、園や法人に対しても通報義務が課されるようになりました。これに違反した場合、行政からの厳しい指導や公表の対象となることがあります。

3、刑事責任(法人としての責任)~法人等の両罰規定の適用
虐待行為が組織的に黙認されていた場合や、法人の代表者・管理職が関与していた場合には、法人自体にも刑事責任(罰金刑など)が問われる可能性があります。

保護者ができること、すべきこと

---我が子が不適切な言動を受けていると感じた場合や、確信した場合、保護者はどのような手段を取るべきでしょうか?

寺林弁護士:

それぞれの段階に応じて保護者が取るべき手段は、以下の通りです。

1、違和感を覚えた段階(初期対応)

ア、園に対して事実確認を求める
担任保育士や園長に対して、具体的な言動や状況について説明を求めます。記録を残すため、可能であれば文書やメールでのやり取りが望ましいです。

イ、子どもの様子を観察・記録する
子どもの言動、身体的な異変(あざ、怯えなど)、情緒の変化などを日々記録しておくことで、後の証拠になります。

ウ、第三者に相談する
地域の子育て支援センター、保健センター、児童委員などに相談することで、客観的な視点から助言を得られます。

2、虐待を確信した段階(通報・法的対応)

ア、児童相談所または市町村の福祉事務所に通報する
児童虐待防止法第6条に基づき、虐待が疑われる場合は速やかに通報する義務があります。保護者も通報者として認められています。

イ、自治体の相談窓口を活用する
2025年10月1日から、東京都などでは保育所・幼稚園等における虐待通報・相談窓口が開設されており、電話・Webフォーム・メールで24時間相談が可能です。

ウ、園の運営法人や監督官庁に申し立てる
認可保育所であれば市町村、認可外施設であれば都道府県が所管行政庁となります。施設名・所在地・職員名などを明記して申し立てると、調査や指導が行われる可能性があります。

エ、法的措置(損害賠償請求・刑事告訴)を検討する
虐待行為が重大である場合、民事上の損害賠償請求や刑事告訴も選択肢となります。弁護士に相談し、証拠の整理や手続きの助言を受けることが重要です。

背景にある法改正と人手不足の深刻化

2025年4月に児童福祉法が改正され、10月から保育所や認定こども園などの職員による虐待を発見した人に対して、自治体への通報が義務化されることになりました。これまで児童養護施設などには通報義務がありましたが、保育所には法律上の規定がなかったのです。

こども家庭庁が実施した「『保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査』の調査結果について」によると、2022年4月から12月の間に、全国の認可保育所で914件の「不適切な保育」が確認されました。

一方で、保育現場は深刻な人手不足に悩まされています。

こども家庭庁の委託調査によると、80.3%の保育所等の施設が直近3年程度における人材の不足感を感じているとのこと。また、2025年1月の保育士の有効求人倍率は3.78倍となっており、全職種平均の1.34倍を大きく上回る状況が続いています。

制度整備と保育の質向上、両輪での取り組みを

通報義務の法制化は、虐待の早期発見と防止に向けた重要な一歩です。しかし、制度を整えるだけでは根本的な解決にはなりません。

保育現場が抱える人手不足や過重労働という構造的な問題に目を向け、保育士の処遇改善や配置基準の見直し、ICT導入による業務効率化など、働きやすい環境づくりを進めることが不可欠です。政府も保育士の処遇改善を段階的に進めており、2025年度からは処遇改善等加算制度の一本化も実施されています。

同時に、保育士への研修強化や園の運営体制の充実も求められます。子どもの権利を守り、質の高い保育を提供するためには、個々の保育士の意識向上だけでなく、園全体でのマネジメント改善が必要でしょう。

保護者にとっては、子どもの小さな変化に気づき、必要に応じて適切な機関に相談できる知識を持つことが重要です。「おかしい」と感じたら、一人で抱え込まずに、まずは信頼できる第三者に相談してみましょう。

子どもたちが安心して過ごせる保育環境を実現するためには、法制度の整備、保育現場の改善、そして保護者・地域社会の理解と協力という、三つの柱が不可欠です。虐待のない、質の高い保育を実現するために、社会全体で取り組んでいくことが求められています。


参考:
市内保育施設における虐待事案の発生について(船橋市)
中野区立保育園における不適切な保育の発生について(中野区)
令和7年4月に成立した改正児童福祉法について(児童虐待防止対策関係)(こども家庭庁)
「保育所等における虐待等の不適切な保育への対応等に関する実態調査」の調査結果について(こども家庭庁)
保育人材確保にむけた効果的な取組手法等に関する調査研究報告書(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
保育士の有効求人倍率の推移(全国)(こども家庭庁)


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