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「鳥肌止まらない」18年前のアニメ作品、実写版に“新海組俳優”集結…!“ただの再現じゃない”新作映画に大絶賛

  • 2025.11.20

いまや、日本を代表するアニメーション監督、新海誠。そんな彼のキャリア初期の代表作『秒速5センチメートル』が実写映画化された。新海監督独自の美意識に彩られたこの作品は、かつて多くのファンを生むと同時に切ない別れの物語に心を痛める人も多かった。現代日本を舞台にした作品なので、実写化しやすいタイプの作品かもしれないが、同時にアニメならではの美しい画面作りが魅力でもあった本作を、どう実写で表現するのか、そして心の痛みを伴う物語をどう再構築するのかに注目が集まっていた。

結果としては、オリジナルのアニメ作品の魅力を深く理解した上で、別れの痛みを人生の糧にする展開へと見事に再構成され、上質なメロドラマとなっている。そして、オリジナルアニメの美意識を、見事に実写映像として無理なく置き換えている。

人生に疲れた人の再生の物語

オリジナルのアニメ『秒速5センチメートル』は、主人公の遠野貴樹の小学生時代から青年時代を、3つの物語で描くオムニバス形式の作品だ。実写版も小学生時代から大人への物語が描かれる部分は同じだが、一つの物語として再構成し、青年となり仕事をする主人公のエピソードが大きく増えている。

1991年の春、東京の小学校で貴樹は転校生の篠原明里と出会う。2人とも親の都合で転校が多く、友達も少なかったので自然と心を通わせていく。しかし、明里は転校が決まり、2人は離ればなれに。それでも手紙を通して関係を続けていた2人だが、貴樹も鹿児島への転校が決まり、2人の距離はさらに開いてしまう。転校直前、雪の降る栃木の岩舟へと、一目明里に会おうと電車に乗った貴樹は、積雪で遅れる電車に苛立つが、何時間も待っていた明里に会うことができ、桜の木の下で2009年に再会することを約束する。

種子島で高校時代を過ごした貴樹は、澄田花苗と出会い、彼女の好意に応えることができず、明里のことを想い続けていた。そして、時は流れ2009年、貴樹は東京でシステムエンジニアとして死んだ目をしながら働いていた。自分はいったいなんのために働いているのか、その意味もわからずにいた。同僚の水野理紗との微妙な関係も終わりを迎えようとしていた頃、貴樹を辞める決意をした時、プラネタリウムのシステム構築の依頼が舞い込んでくる。同じ頃、明里もまた東京で忙しい日々をおくっていた。

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高畑充希(C)SANKEI

実写版は、システムエンジニアとして働く貴樹(松村北斗)の回想形式で、小学校時代や、高校時代のエピソードが語られる。何のために仕事をしているのか、かつて好きだった宇宙のことも忘れてコードを組み続ける日々の中で自分を見失っている主人公が、過去を思い出し、自分の進む道を改めて見出す物語となっている。

過去や現在の設定、人物造形はオリジナルアニメ版を踏襲しているが、実写ではより前向きな物語として捉えなおされているのが特徴だ。また、貴樹だけでなく明里(高畑充希)の物語としても成立させ、彼女にとって貴樹がどういう存在だったかも深く描写。男性だけでなく女性の物語にもなっている。2人の人生をじっくり描くからこそ、別れからの再会が叶わなくても、互いの人生をしっかりと歩む大人の物語として描きなおされている点に好感が持てる。アニメを見たことある人ならば、ただの再現じゃないと感じるだろう。

風景で語る新海誠のメソッドが息づいている

物語の構成には大きなアレンジを加えつつも、オリジナルアニメの魅力をきちんと引き継いでいると感じられるのは、その映像に宿る美意識に負う部分が大きい。この実写版は、オリジナルアニメの印象的なシーンを、見事な実写映像で再現してみせた。美しい風景でキャラクターの心情を描写する新海誠監督。そのスタイルを本作は踏襲している。

例えば、雪の中の桜の木のシーンは幻想的な雰囲気に仕上がっている。ここで登場するのは貴樹と明里の2人だけ。まるで、2人だけの世界のような不思議な雰囲気のシーンに仕上げている。種子島での名シーン、貴樹と花苗が学校から帰る途中でロケットが打ち上げられる場面もきっちりと再現されている。この種子島のシーンは、高校生の淡い恋心という等身大の話と、遠い宇宙への憧れがないまぜになったユニークなシーンだが、この宇宙に想いをはせるという態度が、アニメ版以上に強く描かれているのも、本作の特徴だ。

新海組俳優たちの夢の共演

本作には、新海作品にゆかりのある"新海組俳優"が多数出演している。主人公の貴樹を演じる松村北斗は、映画『すずめの戸締まり』で宗像草太役を務めたことでよく知られている。新海監督から大きな信頼を寄せられている松村の芝居は、アニメ版の貴樹を具現化するにふさわしい存在と言える。挫折から立ち直り、弱さを吐露できる強さを身につけるまでのプロセスを、松村が丁寧に演じることで素晴らしいメロドラマとして完成している。

また、種子島パートに登場する花苗役の森七菜は、映画『天気の子』でヒロイン天野陽菜を演じている。また、実写版オリジナルキャラクターである小川龍一役を、新海監督の長編1作目『雲のむこう、約束の場所』で主演の藤沢浩紀を演じた吉岡秀隆が扮している。新旧の新海組俳優が出演しているのも、長く同監督の作品を観てきた人にとっては感慨深いものがあるだろう。

特に、松村北斗演じる貴樹が、吉岡秀隆演じる小川龍一に自分の本音を吐露するシーンは、本作最大の見せ場になっている。ここでの松村の独白は観客の涙を誘うシーンとして出色だ。作品を視聴した観客から「鳥肌止まらない」といった声もあがっていた。もちろん、高畑充希や宮﨑あおいなど、どの役者も存在感抜群で、本作に深みを加えている。

劇場用実写映画『秒速5センチメートル』は、オリジナルアニメを好きな人も、見たことのない人もどちらも楽しめる作品だ。別れは辛く悲しいものだが、それだけじゃない。別れもまた、自分の人生を彩り、強くなるための糧になるということを伝える、素敵な作品だ。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi