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26年前、圧巻の“初演技”を魅せた人気モデル「当時から上手」是枝監督“長編2作目”でハマり役の美男子に抜擢

  • 2025.11.8

『誰も知らない』(2004年)、『万引き家族』(2018年)をはじめ、国内外で高い評価を受けてきた是枝裕和監督。そんな彼の初期の代表作といえるのが長編2作目の『ワンダフルライフ』(1999年)。人気モデルでもあるARATA(現・井浦新)を主演に抜擢し、彼の映画デビューとなった本作は、同年の単館系邦画作品で興行成績No.1を獲得している。死後の世界を舞台に、今なお色あせない普遍的なテーマが貫かれたファンタジーである本作の魅力を深掘りしたい。

ドキュメンタリーのようなリアルさ 死者たちの思い出選びの7日間

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井浦新(C)SANKEI

「あなたの人生の中から大切な思い出をひとつだけ選んでください」

亡くなった人は天国の入り口でそう言われ、死者はその思い出を胸に7日後天国へと旅立つ。望月(ARATA)をはじめ、川嶋(寺島進)、杉江(内藤剛志)、しおり(小田エリカ)の職員たちは、死者たちの話を聞き、選ばれた一つの思い出を撮影してフィルムに収め、最終日には上映会が開かれるのだ。

役者陣には一般の人々も本人役で参加しており、職員たちの前で死者たちが思い出を語るシーンは、まさにドキュメンタリーのインタビューを見ているかのようなリアルさで観客の心に響いてくる。

自分の人生の思い出を引き出せる人、思い出せない人、記憶が違っている人、思い出が選びきれない人…など、死者たちの状況はさまざま。職員たちは、時に死者たちの状況に頭を抱えながらも、少しずつ丁寧に、彼らの思い出を引き出していく。

作品を通した静寂と相まって、観客自身もふと自分の人生を顧みるような衝動を呼び起こされる。観客の感想でも「選べる人生を送りたいなあと思った」「もっと大切に命を燃やして生きようと思った」「一緒になって考えていた」との声が上がっていた。

ARATAの存在感、小田エリカの等身大の演技に魅了

「人生からどの思い出を選ぶのか」という問いと同時に、変わらずに続いていく死後の世界で働く職員たちの素性も気にならずにはいられない。

静かに淡々と死者の思い出を掘り下げる作業が進む中で、職員たちの生きていたころの話も徐々に明かされる。そして、ある死者がきっかけとなり、職員たちの変わらぬ日々に変化をもたらす。

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ARATA (C)SANKEI

本作が演技初体験となったARATA。彼が演じた美男子の望月の穏やかで儚い存在感が印象的で、俳優デビュー作ながらもこの役は彼しかいないのではと思わずにはいられないほど、本作の世界観とマッチしていた。現在、数々の作品に出演し続けるARATA=井浦新だが、その唯一無二ともいえる存在感の原点を感じさせてくれる。また、望月のアシスタントを務める18歳のしおりを、公開当時19歳の小田エリカが演じ、センシティブな10代の感情の揺らぎを見事に体現していた。

現在活躍するシネマ&テレビスターたちも出演!

後半は、死者が選んだ思い出を映像化する作業が描かれる。繊細で根気のいる映画撮影の裏側をのぞいているかのようで、目を凝らさずにはいられない。完成した映画を眺める映写室のシーンは、さまざまな年代の人たちが席に座り同じ画面を見つめる様子が、とても平和的に感じられた。そして、葛藤が入り混じる望月やしおりのシーンにも目を奪われる。

次の週には、また死者を迎えるいつもの月曜日がやってくるが、それゆえに、本作で描かれる7日間が本当にドラマチックだった。そして、井浦新や先述の俳優陣をはじめ、本作には阿部サダヲや木村多江、香川京子、谷啓、由利徹、そして伊勢谷友介が同名役で出演している。「吸い込まれそうな怖さと温かさ」「静寂さと、しんと降り積もる雪の景色が相まってた」「豪華すぎる俳優たちが少しずつ出ている贅沢」「この当時から上手な芝居」と、今なおさまざまな声が上がる本作。当時の俳優陣の演技も堪能したい。


ライター:小松加奈
ライター/編集者。音楽・映画・ドラマ・アニメなどのエンタメ系を中心にインタビュー/レビュー/コラム記事などを手掛ける。