1. トップ
  2. 実は“平成世代”…!竹内涼真だから体現できる“リアルな昭和の亡霊” 第1話から話題の絶えない【新火曜ドラマ】

実は“平成世代”…!竹内涼真だから体現できる“リアルな昭和の亡霊” 第1話から話題の絶えない【新火曜ドラマ】

  • 2025.10.20

料理は女がつくって当たり前……そんな価値観を、この令和の時代に堂々と隠しもしない男が、火曜ドラマに現れた。第1話から話題の絶えないTBS系火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。海老原勝男(竹内涼真)は、夜景の見えるレストランで恋人・鮎美(夏帆)にプロポーズした矢先、あっさりと振られてしまう。その理由は、彼が驚くほどの昭和な価値観に塗れていたから。しかしこのドラマ、そんな勝男を単なる“時代錯誤な悪役”として切り捨てない点が、唯一無二のおもしろさに繋がっている。むしろ化石男・勝男は、昭和から平成、そして令和へと続く“男らしさという虚栄”に呪われた、悲しい被写体なのだ。

昭和の亡霊としての主人公

勝男が信じて疑わない、理想の夫婦や家庭の形には、どこか懐かしくも息苦しい昭和の匂いが漂う。父親は食卓について黙って動かず、母親は言われた通りに味噌汁やお茶を差し出す……そんな“古き良き”という聞こえの良い言葉で包み込まれた理想像を、ほかの誰でもない、勝男の両親が体現していたのだ。

幼いころからそんな風景を身近に育ってきた勝男、これが普通の家庭なんだと思い込んで育っても何の不思議もない。そしていつの間にか、平成が終わり令和の時代になっても、台所に立って料理をするのは女性の役目と信じ切って青年男性になってしまった。

そんな彼が象徴するのは、“昭和の亡霊”。女性は家庭を守り、男性は仕事を頑張る。そうした役割分担が正義とされた時代の残り香。

しかし、その正義感は、女性はもちろん男性をも縛る。男は強くあるべきだ、弱音を吐いてはいけないし泣いてもいけない、稼ぐことで家庭を守り、背負っていくのだ……そんな強迫観念に苛まれながら生きることになる。

一ミリの疑問も持たず、勝男が鮎美の作った料理にいろいろとアレコレ文句を言い、自分は包丁さえ握らなかったのはもしかしたら、ただの怠慢ではなかったのかもしれない。怖かったからだ。自らが大事に守り抜いてきた“男らしさ”を手放したら、自分の価値が崩れてしまうと恐れていたからだ。

竹内涼真が体現する、救いのある化石

もしこの勝男という人物をほかの俳優が演じていたら、どうだっただろう。竹内が演じる勝男には、おかしみがあるのと同時に、妙なリアリティと哀しみが滲んでいる。こんな人いるわけない、ドラマだからって誇張しすぎ!なんて、安易にこき下ろすことができないのだ。正直なところ、勝男よりも酷い化石となって転がっている人間は、結構いるのではないか。

プロポーズを断られた瞬間の、あの勝男の表情。夏帆演じる鮎美の「無理」には、端的だからこその臨場感があって、勝男が思わずプロポーズをやり直してしまったのも納得がいくほどだった。プロポーズを断られた事実を飲み下せない“間”の取り方。目線の揺れや、口元のこわばり。竹内の演技には、“分かっていない男”のどうしようもなさが丁寧に刻まれていた。

鮎美が家を出ていってしまったあとの勝男は、同じ会社の後輩たちからアドバイスを受け、自ら筑前煮をつくってみたり、めんつゆの配合について学んだりする。最初は包丁を持つ手もぎこちない。その不器用さこそが、勝男の“人間らしさ”を浮かび上がらせているかのようだ。

undefined
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第2話より(C)TBSスパークル/TBS

その過程を見ていると、彼はまだ救いようのある側の化石男なのだ、と思えてくる。なかなか一朝一夕には改心しないけれど、後輩たちのアドバイスを素直に(?)受け入れ、実際に行動に移したり新しいことにチャレンジしたり、といった一歩はなかなか誰でも踏めるものではない。SNS上でも、面倒見の良い後輩がいる勝男に対し「あんた恵まれてるよ」という声が多い。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の核心は、“料理”を通じて価値観をほぐす構造にある。料理は愛情の証でも、ましてや支配の手段でもなく、対話のきっかけに過ぎない。勝男が初めて台所に立つ瞬間、それは決して女性の仕事を奪う行為ではなく、あくまで自分の生き方を見直す反省の始まりだ。

この作品が秀逸なのは、説教臭くなく、“笑い”を使ってジェンダーを語る点にもあるかもしれない。視聴者は「料理もできないのに偉そうに!」と突っ込みながら、どこかで自分のなかにも巣食っているかもしれない“昭和な価値観”と向き合う。

昭和的な価値観を“化石”として笑うのではなく、“どうして残っているのか”を丁寧に見せる。それが本作の誠実さであり、痛烈な批評性でもある。

料理が人間関係を変える?

興味深いのは、勝男が実は“平成世代”であること。平成元年生まれでも35歳を超えているいま、順調に平成の空気を生きていたら、ここまで昭和な価値観に塗れた仕上がりになるはずがない。

インターネットやSNSのおかげで良くも悪くも情報が溢れ、少しずつではあるが男女平等の意識が広まるなかで育ったはずの彼が、なぜこんなに昭和的なのか? その答えは、学びと現実の乖離にある。仮に学校でジェンダー平等について教わったとしても、家庭では旧来の構図がそのまま残っているパターンがほとんどだろう。

undefined
火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』第2話より(C)TBSスパークル/TBS

父は座り、動くのは母。勝男のように、そんな光景を毎日見ていれば、頭で理解していても体が勝手に古い慣習に馴染んでしまう。

勝男は、そんな“時代の断層”を体現したキャラクターである。彼の言動は過去の名残であり、同時に現代の警鐘だ。化石男は、決して絶滅していない。むしろ、どこかでまだ燻っている“私たちのなかの昭和”なのだ。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、昭和の呪いを笑いながら解体していくドラマだ。鍋のなかで煮込まれるのは、筑前煮だけじゃない。古い価値観と、まだ言葉にできない優しさ。このドラマは、それらをじっくりと“弱火で温め直す”ように描いていく。

化石男・勝男が少しずつ変わるとき、私たちの社会もまた、ほんの少し前に進むのだ。


TBS系 火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』毎週火曜よる10時

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_