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アイドルやお笑い、大女優の半生… 【NHK連続テレビ小説】12年前から描かれている“芸能界の裏側”を描いた朝ドラたち

  • 2025.9.25

2025年前期のNHK連続テレビ小説『あんぱん』は、“アンパンマン”を生み出したやなせたかし夫妻をモデルにした主人公たちが、人生のさまざまな荒波を乗り越えていく物語。『アンパンマン』と言えば、今では誰もが知る国民的アニメ作品(『それいけ!アンパンマン』)だが、朝ドラ『あんぱん』では、そこにたどり着くまでの長い道のりが綴られた。

その中で、柳井嵩(北村匠海)は妻・のぶ(今田美桜)に支えられながら、漫画家だけではなく、作詞の仕事、舞台美術や演出にも携わり、映画の監督も担当し、TV番組の司会もこなすなど、芸能関係の仕事をする様子も描出された。

これまで、朝ドラでは芸能の世界の裏側を描く作品が数多く作られてきた。例を挙げると、『ロマンス』『オードリー』『ちりとてちん』『あまちゃん』『わろてんか』『エール』『おちょやん』『カムカムエヴリバディ』『ブギウギ』などがある。今回は、その中から『あまちゃん』『わろてんか』『おちょやん』をピックアップして、どのような裏側が描かれたのか振り返ってみたい。

イメージは秋葉原の劇場のアイドル!? 『あまちゃん』

『あまちゃん』(2013年)は、東京から岩手県に引っ越したヒロイン・天野アキ(能年玲奈、現在の芸名はのん)が、海女になることを決意するも、そこで親友になった足立ユイ(橋本愛)に付き合う形で、思いもよらずアイドルの道を歩んでいく物語。なぜか運命に邪魔され、ユイは上京できず、アキだけが東京でアイドル業に苦労する羽目になるのが興味深い。

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のん (C)SANKEI

本作で描いている芸能の裏側は、秋葉原の劇場に出演する「会いに行けるアイドル」を彷彿とさせるようなアイドル活動を、アキが体験する一連の場面。もちろん、脚本を担当した宮藤官九郎によるコミカルな創作もあると思うが、古田新太が演じた荒巻太一がアイドルをプロデュースするところなどは、秋元康とAKB48を連想せずにはいられない。

また、公演の際に、ステージに立つほどの人気がまだないアキたちが、先輩の準備を手伝い、慌ただしくステージに送り出す様子といった、細かい裏側の描写に、アイドル業に特化した芸能の知られざる一面を見た気がして、とても面白かった。

アキの母・春子(小泉今日子、若いころ:有村架純)が、かつてアイドルを目指していたころは、おニャン子クラブのブームで、歌の上手さよりも普通っぽさが求められていたため、歌唱力のある春子はアイドルになれなかった、という裏側も非常にリアル。

SNSで「鈴鹿さんが『バレなきゃいいのよ、バレなきゃ』とアキに言ったのが忘れられない」というコメントを見つけたが、これは女優の鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が、恋愛に関してアキにアドバイスした時のセリフで、芸能界の裏側を感じさせた。

『あまちゃん』は、春子からアキの時代へと続く、昭和から平成の芸能の裏側を知ることができる朝ドラだ。

吉本興業を創業した苦労とは……『わろてんか』

よく笑う、行動的なヒロイン・てん(葵わかな、幼少期:新井美羽)が、旅芸人の藤吉(松坂桃李)と出会い、紆余曲折を経て結婚。寄席を運営する「北村笑店」を夫婦で盛り上げ、藤吉亡き後も会社を大きくするべく奮闘し続ける。『わろてんか』(2017年)は、吉本興業の創業者・吉本せいをモデルにしている。

吉本興業は、今では誰もが知る、大勢のお笑い芸人やタレントが所属する大手芸能プロダクション。その始まりから、主人公がどのような苦労をして、どんなふうに事務所を大きくしていったのか、まさに芸能の裏側を目撃することができる内容となっている。

明治35年(1902年)、笑うことが大好きな少女だったてんは、初舞台で大失敗して落ち込んでいる藤吉と出会い、彼を励ましたことをきっかけに、芸人の生活を知る。

後に夫婦となった藤吉とてんは、北村笑店を立ち上げ、大正5年(1916年)ごろには、寄席小屋の数も増えるようになっていった。そんな中、芸人の不安定な生活ぶりに気づいたてんは、芸人たちと職員への給与を、当時では珍しかった月給制に変更。このように、当時の芸能の詳細な裏側も映し出すなど、見応えのある内容だ。

他所の芸人たちも北村商店への移籍を希望するようになり、所属芸人が増えていき、演芸業界の大会社へと成長。舞踊団や“しゃべくり漫才”など、てんの手腕によって、演芸の種類も増やしていった。

藤吉が他界し、昭和以降は、日本最大の寄席チェーンに成長した北村笑店の社長となったてん。戦争も生き抜いた彼女は、強くたくましく、戦時中に解散した北村笑店を戦後に復活させた。

『わろてんか』は、明治・大正・昭和と時代が流れる中、誰もが知っている吉本興業の芸能の裏側を楽しく見せてくれる朝ドラだ。

“演者の業”が伝わってくる『おちょやん』

『おちょやん』(2020年)は、昭和初期から中期に活動した女優・浪花千栄子をモデルにしたヒロイン・千代(杉咲花、幼少期:毎田暖乃)の半生を描いたドラマ。明治39年(1906年)に生まれた千代は、酒と博打浸りで借金まみれの父・テルヲ(トータス松本)に奉公に出されたりなど、満足に学校にも通えない、極貧のつらい少女時代を送る。だが、仕事の合間に舞台劇に興味を持つようになり、芝居の脚本を読みたくて、喜劇一座の座長の息子・一平(成田凌、幼少期:中須翔真)に読み書きを教わる千代。

18歳になるころ、借金のカタに自分を売り飛ばそうとしたテルヲから逃げた千代は、京都で女給として働きながら、女優を目指すようになる。本作では、千代が直面する“大部屋俳優”の苦労が描かれるが、先輩からの嫌がらせや、その時代ならではの髪結いの仕事、助監督と女優の恋など、リアルで細かい芸能の裏側を知ることができる。

さらに、劇団の看板役者をめぐる確執や、襲名問題、座長と劇団員との不倫関係など、さまざまな裏事情が、千代の視点を通して、赤裸々に描出されている。千代の人生はとても過酷で、テルヲに足を引っ張られながら、生き別れた弟・ヨシヲ(倉悠貴、幼少期:荒田陽向、少年期:栗田倫太郎)を捜しつつ、女優として、そして1人の女性として、茨の道を歩んでいく。

その中で印象的なのは、千代の人生を変えた2人の女優との出会いだ。1人は、千代が奉公時代に、所属事務所からの逃亡を助けた人気女優の高城百合子(井川遥)。もう1人は、千代が最初に入団した劇団の座長で、千代の師匠となった山村千鳥(若村麻由美)。

百合子は、大正時代に活動写真女優への転向を強いられたことを嫌がって逃亡したり、後に、かつて千代と恋仲だった助監督の小暮真治(若葉竜也)と結婚したりした女性。一方、千鳥は、東京で女優活動をした後、劇団を立ち上げた情熱的な座長。千代に影響を及ぼした彼女たちの人物描写も、『おちょやん』で描かれた芸能の世界の裏側として忘れ難い。

SNSに「時代の流れの中で変わらない演者の業を描いている」というコメントがあったが、『おちょやん』は、まさに“演者の業”が伝わってくる朝ドラだ。


ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP